第36話

 「お時間を頂きありがとうございます。

早速ですが、理事長にお願いがあります。

俺の座学の授業を、卒業まで全て免除していただけませんか?

既に3年生の内容まで全部修めてしまったので・・」


「・・君は確かアークと言ったな。

随分と非現実的なことを言うね。

未だ嘗て、我が学院からそこまでの天才は出現していない。

それに、君が言ったことをどうやって証明するのかね?」


「特別な試験を課してください。

各科目の担当教員に問題を作らせて、それで合格点を取ったらで構いません。

勿論、一方的にお手数をお掛けする以上、その分のお礼は致します。

白金貨3枚を学院に寄付しますよ?」


「・・君は平民のはずだが、かなり裕福なのだね。

その条件ならこちらも異存はないが、君は実技も免除されているのだろう?

授業の一切を受けずして、学院に居る意味があるのかね?」


「俺は学院自体の雰囲気が好きなんですよ。

学生が青春を謳歌する場所で、それを脇から眺めているのが好きなんです。

本当なら皆と授業を受けても良いのですが、何分忙し過ぎて、意味のない授業に時間を割くことができなくなってるんです」


「はっはは。

まるで年寄りみたいなことを言うね。

良いだろう。

入学試験において、知識問題では最下位だった君が、一体どれだけ学んだかを試してあげよう。

寄付金を納め次第、準備に取り掛かる。

早ければ1週間以内に実施できるだろう」


「ありがとうございます。

お支払いは今ここで致します。

宜しくお願いします」


テーブルに白金貨3枚を載せ、俺は理事長室から退出する。


これでかなり時間が作れる。


今まで、予定を組む労力が半端じゃなかったからな。



 『今度の定例会は海に行きたいです』


深夜、アリサと共に上級ダンジョンの攻略から帰って来ると直ぐ、エミに付けていたティターニアが、そう書かれた手紙を運んで来た。


彼女に労いの魔石を与え、返事を持たせる。


『了解。

場所はこちらで指定する』


あの戦争の如き闘いを回避できるなら、そのくらい安いものだ。


「へえ、海ね。

私も行ってみたいかも」


「行った事ないのか?」


「【フライ】で上空から眺めた事はあるけど、そこで泳いだりした事はないわ」


「でもなあ、お前を彼女達と会わせるのはなー」


「何か問題でもあるの?」


「アリサは俺の唯一の恋人だし、その事をあまり他に知られるのはちょっとなー。

あいつら、間違いなく対抗意識を燃やして俺を襲ってきそうだし。

エミだけなら、彼女はつつましいから平気なんだが、4人揃うと大変なんだよ」


「全部あなたが蒔いた種でしょ。

体力的には問題ないんだから、ちゃんと相手をしてあげないと駄目よ?」


「それは分ってるけど、うーん。

・・やっぱりお前とは別な日にしよう。

アリサを抱いている時は、極力人に見られたくない。

勢い余って吸血している所を見られたら、問題になるどころの話ではなくなる」


「・・まあ、それはね。

あの時のあなたは、かなりアレだし」


「アレって何だよ?」


「別に。

確かに私も、血を吸われてる時の姿は、他人ひとに見せたくないわね。

きっと相当崩れた表情かおをしていると思うから」


「そんな事ないぜ。

寧ろかなりエロい」


「もう、馬鹿。

じゃあ最初に私と下見に行きましょ。

水着を買っておかなきゃ」


「ビキニな?」


「当然でしょ。

この胸でワンピースを着たら、シルエットがおかしなことになるもの」


楽しみだ。



 「・・おめでとう。

まさか本当に合格するとは思っていなかったよ。

この話を聴いた教職員の一部が非常に腹を立ててね。

試験問題を本来のものよりかなり難しくしたらしいのだが、それすら満点だったからね。

採点した彼らも、その答案には文句のつけようもなかったらしく、渋々君の卒業単位を認めた。

約束通り、君は今後、卒業まで一切の授業に出る必要はない」


「ありがとうございます」


前回の話し合いから5日後に行われた特別試験において、俺は全科目で満点を取り、理事長からこの学院での自由を認められた。


授業を邪魔しない限り、好きな時に好きな事をして過ごせる。


「・・時に、マリア君のことだが、君が彼女を鍛えているそうだね」


「ええ、まあ。

パーティーを組んでますからね」


「彼女のレベルは一体幾つなんだい?」


「知らないんですか?」


「個人のレベルやステータスの報告は、あくまで任意と法で定められているからね。

【鑑定】はその例外として、他者に吹聴しない限り許されるのだが、うちの担当者が何度行っても弾かれてしまうのだよ」


「う~ん、彼女の秘密に関わる事ですから、大体でしか教えられませんね。

70以上です」


「!!!

・・では君は、当然それ以上な訳だ。

どうだろう?

今年の対校戦に出てはくれないだろうか?」


「申し訳ありませんが、俺は出ないことにしてるんです。

それに、これは内緒でお願いしますが、去年の優勝メンバーは、実は俺の友達なんですよ。

その主力であった3人の1年女子は、今年は不参加なので、個人戦ならマリアが優勝できるでしょう。

それで勘弁してください」


「そういう事情なら諦めよう。

個人で優勝できるだけでも大変有難いからね」


「・・この事を知っているのは、理事長を除けば1人しかいません。

学院の予算を稼ぎたいなら、相談に乗りますよ?」


「・・君はかなりのやり手なんだね。

是非お願いしよう。

対校戦が近くなったら、再度じっくり相談させて貰うよ」


上機嫌になった彼の部屋から退出し、その足で王宮へ。


【認識不能】を使って城内を歩き回り、ケインに敵対する大臣5人の部屋を調べる。


対象が部屋に居る時は、そこでじっとして来客との会話を盗み聞きしたり、見られては不味い物を隠し金庫に終う姿を眺める。


大方の資料や情報を集めると、今度は彼らの屋敷に飛ぶ。


空から侵入し、白昼堂々その金庫を狙う。


「おお、領地も持たない貴族なのに、これはまた随分と貯めたな。

相当に阿漕あこぎなやり方で稼いだに違いない。

天に代わって俺が没収してやろう」


中に入っていた白金貨9枚と、金貨800枚を貰い受ける。


因みに、金庫の鍵は、鍵穴に魔力を流し込み、鍵の形に固定して開けるので、外見上は無傷だから、金庫を開けない限りばれることがない。


同じ事を全部で5回繰り返し、締めて白金貨31枚と、金貨3400枚を懐に入れる。


『悪銭身に付かず』を身を以て教えてやり、そして今度は、ケインを差別しない大臣3人の家へ。


彼らの金庫内は、対照的にとても寂しかった。


最も金額が大きかった者でも、金貨600枚しか入っていない。


「真面目に稼ぐと、大国の大臣でもこんなものなんだな」


3人の金庫に其々白金貨を5枚ずつ足して、学院に戻り、マリアとダンジョンに潜る。


いつもより1時間遅くなってしまい、少しふくれられたが、『今度海に連れて行く』と言うと、忽ち上機嫌になって抱き付いてくる。


上級ダンジョンに入り出したばかりだが、1、2階層なら今のマリアでも何の問題も無く、今日は3階層へと足を踏み入れる。


「さすがに敵が強いね。

ここでどれくらいのレベル?」


「70くらいからだな」


「私とそう違わないのか。

援護宜しくね」


「任せておけ」


「・・そう言えば、待っている時、先生方が話しているのをちらっと聞いたよ?

あなた、全ての授業が免除されたんだってね。

空いた時間で、一体何するの?」


彼女が倒した魔物を処理している時、そう尋ねられる。


「アリアさんとの逢瀬。

・・冗談だから、振りかぶった剣を降ろせ」


「危うくお母様と家庭内紛争に突入するところだったわ」


「時々はそうするが、さすがにいつもじゃない」


「時々ね。

・・あまりお母様に、お仕事をさぼらせては駄目だからね。

最近、『アリア様がお昼寝をなさる機会が増えましたが、もしかして何処かお身体がお悪いのでしょうか?』と、メイドさんに心配されるんだから。

顔なんて艶々しているのにね」


「お前の肌だって全身・・1か所を除いて艶々だろ?」


「それは私が若いからですー。

エッチ」


「・・お前、それ絶対にアリアさんの前で言うなよ?

間違いなく紛争が起きるぞ」


「そのくらい分ってるわよ。

少し焼餅を焼いただけだもん」


「お前とだって、かなり時間を割いてるだろ。

若い内にしかできない事は、他にも沢山あるのを忘れるなよ?」


「はあい」


普通、母親を嫉妬の対象に加えるかね。


女心は未だによく分らんな。

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