第10話 すれ違う二人
その塾では、実はひともんちゃくあった。
ただし、それは人見と浅倉さんの二人の間でだ。
ある時、学校で浅倉さんは人見が好きだという噂が流れた。
人見は、それ以来、浅倉さんに冷たく当たるようになった。
塾の間も、帰りにも浅倉さんとは話さず、ささっと帰ってしまう。
浅倉さんは、美人なタイプの女の子だった。
同級生にしてはプロポーションもいい。
石川さんが好きな僕でも、近くにいたらちょっと気になってしまう感じの女の子。
「人見は何が不満なのかぁ」
僕は、部活の帰り道に二人に聞いてみる。
「それって、あんたと同じじゃない?」
麻美が答える。
「僕?」
「そう、この前の子のことフったじゃない」
「この前の子」
「そう、私が連れていった美穂ちゃん」
あぁ、告白を受けたあの子か。
「そういえば、手紙をみんなに見せてごめんなさいって伝えてくれない? できれば自分で謝りたいんだけど、フラれた相手に会うのは、嫌かなと思って・・・」
そう言って僕は、石川さんをチラッとみる。彼女から言われたことだったから。
「もう、謝ってあるよ。あんなバカはやめときなって」
「あんなバカ・・・。あり、がとう?」
僕は歯切れわるくお礼を言う。
「まってまって。増谷さんも、クラスであんな呼び出し方したら、興味を持った男子がついてきちゃうよ」
石川さんが会話に割って入る。
「そ、そうね。それはたしかに、そうかも」
「そうだよ。休憩時間に呼び出されたら、興味本位の男子に見せないとかできないよ」
僕が言う。
「そこは、見せないようにしなさいよ」
麻美がすぐに反論する。
「そこはそうね。先に読んだなら、渡しちゃダメだよ」
石川さんも加勢する。
「うっ。わかった。ごめんなさい」
僕は素直に謝った。
「で、なんだっけ。僕と同じってどういうこと?」
「照れ隠しで、他の男子と手紙でふざけていたでしょう」
石川さんが言う。
「それと、同じってことよ」
麻美が言う。
「え? どこが? 僕は無視してないよ」
「女の子の気持ちを考えてないってことは、同じだよ」
石川さんが言う。
「そうそう」
麻美がうなづく。
「同じなんだ? そうだね・・・、同じかもしれない。じゃあ、照れ隠し? 人見(あいつ)、照れてんの?」
「たぶん、そうだと思う」
麻美が言うと、石川さんが今度はうなづく。
「そういうもんかぁ。そんなのわからないよ。女の子の気持ちも分からないよ」
「私たちだって、男子の気持ちも、ホントのところも分からないよ」
「そうそう」
いや、わかってそうだけど、とは言えない。
「で、どうする?」僕が聞く。
「どうも、できなさそう」麻美が言う。
「なんで? 浅倉さんが可哀想じゃん」
「だって、人見のあの態度を見てたらかたくなだもん。あれをくっつけってけっこう無理ゲーよ」
「そうね。難しそう。私たちが、勝手に何かしないほうがいいと思う。でも、浅倉さんの気持ちは聞いてあげてもいいかもしれない」
石川さんもいう。
「そうね。私たちは浅倉さんと話してみよう。だから、あんたは、人見の本音を聞いてきなさいよ」
麻美が僕に言ってくる。
「えぇ? あいつと今、話すの面倒そうだよ」
「あんたが何かしたいって言ったんじゃない。お互いの本音を知らなきゃ、何もできないよ」
そうりゃ、そうだ。正論だった。
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