小心者
というわけで、鷲牙宗士が黒幕なのではないか……ということで、総意は固まった。だが、まだ予測に過ぎない点がいくつもある。
そこで大智とカーラが、彼の息子である鷲牙貴由のところへ向かい、少しでも多くの情報を集める……ということになったのだった。身内とあらば、身内ならではが持っている情報もあるかもしれない、という見解だった。
今は少しでも多くの情報が、欲しい。
情報を引き出すにあたり、鷲牙貴由がどんな人物なのか、ということを大智とカーラが泉に聞くと……。
「うーん。俺もそこまで会って話したことがあるわけじゃないから、分かんないんだよねぇ。……でも、すごい小心者だっていう話だよ。いつも鷲牙宗士の背中に隠れては怒られてるって。……一応身内贔屓というか、そういうコネ? みたいな感じでタイトクに入った……っていう話らしいけど」
もし鷲牙宗士が本当に黒幕だとして、鷲牙貴由が計画に協力していることは? ということも尋ねたが、泉はすぐに首を横に振った。
「ないと思うよ。……俺が鷲牙宗士の立場だったら、そんな危ない橋を渡るのに、小心者を傍に付けたくないね。規模の大きさにビビって、変に失敗されたくないし。……それに鷲牙宗士は、そういう大事なことは、自分1人でやるタイプだと思う」
と、いうのが泉の見解だった。
大智とカーラはこの話に納得し、他に質問もないので、早速向かうことになったのである。
そしてそれに向かわない泉と密香は……なんと、鷲牙宗士のもとに直接出向くらしい。糾弾するわけではなく、それとなく聞いてみるだけだ。大丈夫、上手くやるよ。と泉は笑っていたから……信じることにする。
それに、任されたことを期待以上の成果で返す。それが、今自分たちがすべきことだ。
泉に教えられていた場所に、到着する。……ここは、対異能力者特別警察の本部、その中でも、警視長の部屋。ここに来るまで、誰にも会うことはなかった。……当たり前だ。現在時刻は、日付を越えて2時間ほど。そんなに残ってまで仕事をした人など、稀だ。
まあ、今から接触しに行く鷲牙貴由は、何故か残っているらしいが。
扉の小窓はモザイクになっているため、中は見えないものの、明かりが点いていることは分かった。だから、彼は中にいるのだろう。2人は視線を交わし、そして頷く。……意を決し、大智が扉をノックした。
……すると返って来たのは、誰かが転び、物がひっくり返ったような、大きな音。そしてその一瞬の大きな音の後は……静寂。思わず2人は顔を見合わせた。
中で何があったのだろう、と心配になったカーラがドアノブに手をかけ、勢い良く開く。
「しっ、失礼するですっ!!」
そしていつも通りの少し変な敬語で叫び、中の様子を見る。大智も後ろからそれを見た。
……目の前に広がっていたのは、宙を舞う白い書類たち。床に無造作に置かれた分厚いファイルたち。そして部屋の真ん中で倒れる男。
「だっ、大丈夫ですか?」
大智が声を掛けると、男は体を起こす。太い黒縁の眼鏡を手でくいっと上げると、ふへへへ、と笑った。
「だ、大丈夫です! いつものことなので……僕っていっつもドジで……へへへ……」
カーラは応対する大智の背に隠れるように立ち、密香から貰った写真とその男を見比べる。……この男が鷲牙貴由で、間違いなさそうだ。確認を終えると、カーラはすぐに写真をポケットに戻した。
男──鷲牙貴由はスーツのポケットから眼鏡拭きを取り出すと、眼鏡のレンズを丁寧に拭く。綺麗にした眼鏡をかけ直すと、分厚いレンズが頭上の電灯の光に反射して光った。
そしてそこでようやく貴由は、部屋に入って来た大智とカーラを認識したらしい。しばらくキョトンとし、瞬きを繰り返すと……。
「ひっ……ひぇぇぇぇ!? こっ、『湖畔隊』の問題児……!? なっ、ぼ、僕何かしましたか!? い、いいい命だけは、お助けを~~~~っ!!!!」
……何を勘違いしているのか、涙を流しながら許しを請い始めた。
そしてそれに釣られてしまったのか、大智までアワアワし始める。慌てたようにその言葉を否定するが、そう慌てた状態で言われても、いまいち言葉が入ってこない。案の定、男の耳には入っていないようだった。
似たタイプの男2人に、カーラは思わずため息を吐く。ここは、カーラが頑張らないと! とガッツポーズをすると。
「2人とも、落ち着かないとだめだよ!! です!!」
彼女は絵筆を取り出す。その筆先は、青。同時に髪と瞳も同色に変わり、青色の絵の具が2人の頭にかかった。
カーラの青は、冷酷の色。その寒さに、震えて眠れ。
冷却の効力を持つ絵の具で、頭を冷やしてもらおう(物理)!! ということだった。……2人はしばらくその冷たさに打ち震えていたが、まあ先程よりは落ち着いたらしい。
「す、すみません、取り乱してしまって……そ、それで、本日はどのようなご用件で……?」
一応、大智とカーラに敵意はない、ということは分かってくれたらしい。……それにしても、その声色からは恐怖が抜けていないが……それでも、話を聞いてくれるようだ。
ようやく話が進む、と思いながら、大智とカーラの2人は、事情を説明し始めた。
「えっ、ええっ、父が、そんなことを……!? まさか、そんな……」
「……えっと……すごく辛いとは思うです。でも……その可能性が、高いから。……だから、貴由さんに協力してほしい……です」
2人の話に、貴由はショックを受けていたようだった。そうだろうな、と思っていたものの、どう言葉を掛けるべきか……分からない。分からないながらも、カーラは言葉を絞り出した。
ありがとう、と貴由は小さく笑うと、後ろの棚を仰ぐ。そこには沢山のファイルが保管されていた。
「ここにあるファイルは、父が受け持った事件をまとめたものがほとんどなんだ。何かの役に立つかは分からないけど……好きなだけ見ていって、いいよ」
「! ありがとうございます……!!」
大智が表情を輝かせながらお礼を言う。感謝をされたのが嬉しかったのか、他にも父に関連するものを探してみるよ、と貴由は告げた。
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