花踊る姫は壇上の上で

桜里 祈

第1話 魅せられて・・・

 その日、彼は目を奪われていた。誰しもが輝くステージで

誰よりも輝いていた彼女に。

他者を魅了し、自分の舞台に引き込む、

見に来てる観客全員が同じステージで演じているかのような

錯覚にさえ見舞われる 。

言葉では到底伝えることの出来ぬ感動と、

頭では追いつくことすら許してくれない表現力は、

洗練され、綺麗で、それでいて柔らかい

そんな彼女の演技は、どことなく儚げで

一回一回変わるその表情に自分の心は釘付けになっていた。


 それから5年後――


 「だから、ここの演出をもう少し変えた方がいいって言ってるの!」

 「だぁもう!うるせぇ!いいか!俺の演出は完璧なんだ!!外野が

 とやかく言うんじゃねーよ!」

 「はぁ!?外野だぁ?演じてるのはこっちなんですけど!?」


 演劇部の部室から威勢のいい怒号が飛び交う。

二人の人間が、お互いのダメ出しをしながら睨みあっているのが

室内に変な緊張感をもたらす。


 「先輩方またやってるんですか」


 買い出しに行っていた男性が、扉をくぐり部室内へと顔を出す。


 「おっ、いいところにやってきた!お前はこれどう思うよ、

 俺の演出完璧だよな!?」

 「何言ってんのよ、こっちの方がいいよね!?」

 

 はぁ。とため息をついて周りの部員に何があったのか軽く

状況を聞いて理解する。


 「あの、演出も何もその瞬間を見ていないので自分では何とも」

 「あぁっとそうだった、なんで買出し何か行ったんだよ!誰だよ行かせた奴!」

 「先輩、脳味噌溶けましたか?つい30分前に

 谷島先輩が自分で言ったんじゃないですか」

 「冗談だよ!!間に受けるなよ!で合ったのか?」

 「ありましたよ、セットで使う材料。でもその前に先輩方の演技を

 もう一度見せてください。演出がどうのって言っていたので」

 「オッケーだ!だが時間的にこれが最後の一回だからな!」


―――帰り道


 商店街を男女三人並んで歩く姿があった。


 「結局、お前のアドバイスで落ち着いたんだから最初から待てばよかったのによ」

 「でも、谷島先輩にあそこまで言える人なんて中々いないよ?」


 同じ学年で2年の真墨 修也ますみ しゅうや相良 穂波さがら ほなみが揃って口を開く。


 「あのなぁ、俺はただ率直な意見をいっただけで」

 「はいはい、その意見すらも他の部員は怖くて出来ないんだってば」


 先輩方の意見を聞いてないわけじゃないんんだけどなぁと

同じく2年の朝月 遠夜あさつき とおやは頬を軽く搔きながら

ため息をついた。


 「あららぁ遠夜ったらため息なんてついたら幸せ逃げちゃうんだよぉ?」

 「うるさいぞ穂波。大体、お前らが止めてくれれば収まっただろう」

 「私はパース、いざこざに巻き込まれたくなかったし」

 「俺も同じく、てか先輩方のバチバチ感面白かったしな!」


 ・・・こいつらアホなのか?と内心疲労感が溜まっていくのを

 抑えながら二人と一緒に歩いてく。


 (二人とも実力はあるのに、相当性格変なんだよなぁ)


 修也は入学1年にして、その才能を発揮しキャストに選ばれ

主役級ヒロイン5回という快挙を成し遂げる。


 穂波もまたその独特な感性から、入部して1年と半年程で脚本を何本か任された。


 そして去年、全員で挑んだ演劇大会では2位まで上り詰めた。

元々全国大会常連校で有名だったこの高校は、去年の大会で一気に知名度が上がった。


 (そして、そんな俺も・・・)


 三人でくだらない話をしながら進む道は、時間も距離も短く感じた。

そして二人と別れ自身も家へと着く。

玄関を開け、冷たい空間が出迎える。


 「・・・ただいま」


 ボソリと誰がいるわけでもないそこに呟き

リビングへと向かう。

いつもとやることは変わらない、お風呂に入り

ご飯を食べ、そしてパソコンへと向かう。

そこには、かつて自分が魅入られた女性が

舞台に映る姿が映っていた。

友達と話すのは楽しい、部で他の人が演じてる姿を見るのも好きだ。

けれど心は空っぽのまま、偽って自分の感情を押し殺して

表情という仮面をつけてる自分が嫌になる。


 ――彼の時間は、




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