第33話 合体千冬
翌日,北東領主に報復する日だ。
リスベル,千夏,そして,合体千冬は,事前に訪問の約束を取り付けて,北東領主邸の到着ゲートに転移した。もっとも,『千夏』が訪問するということしか伝えていない。
ー 北東領主 ー
リスベルらは,領主邸の応接室に通された。
千夏「わたくし,千夏と申します。領主に面会の予約をしているものです」
使用人「はい,伺っております。領主に取り次ぎしますので,応接室で少々お待ちください」
使用人は,彼らを応接室まで案内してから,領主の部屋にいき,千夏という女性が訪問しにきたことを伝えた。
領主は,体が震えた。すでに,魔法石のモニター画面で,千夏だけでなく,千雪も一緒に来ていることが分かったからだ。千雪は生きていた。これで自分の死は確定したことを悟った。
領主『どうしよう,,,すぐに,指輪を起動して,異世界に行こうか?いや,まて,すぐには,殺さないはずだ。まだ,偽物の尊師が自分だとバレていないはずだ!!』
北東領主は,そう考えて,気を持ち直した。彼の傍らには,合体ゴーレムと合体死霊体がいた。しかし,とても彼らでは,千雪に勝つことは無理だと思った。
北東領主は,数度,深呼吸をした。気持ちを落ち着かせた。合体ゴーレムと合体死霊体を白い大きな布で覆って隠した。そして覚悟を決めて使用人にいった。
領主「わかった。この部屋にお通しなさい」
使用人「はい,わかりました」
リスベル,千夏,そして合体千冬は,領主の部屋に案内された。北東領主は,彼女らを出迎えた。
領主「どうぞお座りください」
リスベル「では,座らせていただきます」
リスベルたちは席についた。領主は,リスベルも,千夏も,千冬も知っている。だって,偽尊師として,教団の千雪邸で会っているからだ。でも,始めて会う振りをした。
領主「わたしは,有名な千雪さんとは,会うのが初めてだが,何度が,映像では見させていただいている。相変わらず,すばらしい体をお持ちだ。お連れの女性も同様にすばらしい。ところで,ご用件は,なんでしょうか?」
領主は,敢えて,『会うのは初めてだが』という部分を強調した。しかし,その言葉は,リスベルには何の意味もなかった。リスベルは,単刀直入に要件を言った。
リスベル「ええ,尊師の偽物の件といえばわかるかと思います」
領主「さて?尊師の偽物とは,なんのことでしょうか?」
そうは言ったものの,北東領主の心臓は,バクン,バクンと,強く打っていた。
リスベル「しらをきるつもりですか?偽尊師が北東領主だと,すぐにばれたのですよ」
領主「さて?偽尊師が私だという証拠はどこにあるのですか?」
北東領主は,偽物尊師だとバレるのはわかる。本物の尊師に確認しればいいだけだ。でも,それが自分だとなぜ特定されたのか?まったくわからなかった。
リスベル「その指輪です。反魂の指輪。それは,あなたしかする人はいません」
北東領主は,『反魂の指輪』という言葉に,違和感を覚えた。そんな指輪の特殊な固有名詞など,指輪を管理する王族以外,知ることはない。いくら,かつて,千雪がこの指輪の複製体を入手したとしても,知りえないはずだ。単純に『精霊の指輪』でこと足りる。
領主「どれだけカメラが鮮明かは知りませんが,映像だけで,指輪の種類まで分かるのですか?」
リスベル「確かに,それを言われては証拠にはなりにくいです。しかし,あなたの独特の歩き方は他の人にはまねできません」
領主「ほほう?私は,あなたと初対面だ。どうして,あなたが私の歩き方を知ってのですか?」
確かに,意識を失っている千雪は,北東領主と会ったことはない。でも,リスベルは違う。
リスベル「わたしには,すべてを見通せる力があります。あなたが歩くとき,ちょっと首を右に傾ける癖,左手だけを握ったり,開いたりする癖,緊張している時,上唇を少し噛む癖。どうです?まだしらを切るつもりですか?」
そんなことを知っているのは,幼なじみのリスベルくらいだと,北東領主は思った。
領主「そんなこと知っているのは,家族以外ではリスベルくらいだ。もしかして,千雪さんは,そんなことまでリスベルから聞いていたのですか?いくらピロートークで話題がないからと言っても,わたしの癖まで話題にするとは,とても思えません」
リスベル「信じるか信じないかは,あなたの自由です。でも,私には,すべてを見通せる力があります。領主が素直に謝罪し,それなりの賠償を私に提示いただけるのでしたら,あなたの命までは取るつもりはありません。ですが,このまましらをきられてしまうと,わたしとしても,強硬手段に出るしかありません。あなたの家族を皆殺しにします」
ここにきて,東北領主は,もう隠し事ができないと悟った。ならば,自分がなぜこのような行動にでたかをはっきり言う方がいいと判断した。
領主「千雪さん。最初に父を殺したのは,あなたでしょう? 私こそあなたに謝罪を要求したいくらいだ」
リスベル「なるほど,,,千雪が最初にあなたの父を殺したのですか,,,あなたのあの行為は,父の仇打ちだったのですね?それは知りませんでした」
リスベルは,あたかも他人事のようにそう言った。
北東領主は,リスベルの他人事のような態度に,少し腹が立った。
領主「あなたこそ,しらを切るのですか?父は,あなたに精神支配されて,腹上死したのです。だから,同じことをしたまでです!!」
リスベル「精神支配をしたかどうかは知りませんが,領主にもそれなりの理由があったのですね。でも領主自ら千雪に手を下すとは,ほんとうに勇気がありましたね。失敗した場合,千雪から報復を受けることはよくご存知だったのでしょう?」
そう言って,リスベルは言葉を繋げた。
リスベル「もしかして,千雪からの報復に対抗できるだけの助っ人の目処が立ったのですね?」
領主「ああ,その通りだ。2人ほど助っ人に来ている。千雪さんには勝てないまでも,いい勝負になるだろう。それに,指輪の力で異世界に逃げるという方法もある」
リスベル「異世界,,,ふふふ。悪くはないかもしれない」
リスベル「その助っ人さんは,この席にはいないようですけど,紹介いただけないのですか?
領主「べつに今さら隠すまでもないことだ」
領主は,合体ゴーレムと合体死霊体を覆っている白い布を取り除いた。
領主「彼らが助っ人です。ゴーレムと死霊体です。それなりに強いと聞いています」
リスベル「なるほど,,,ゴーレムと死霊体ですか,,,」
リスベルは,すこし考えてから言葉を繋げた。
リスベル「領主,どうです? ここは,お互いの助っ人同士で勝負することで,これまでの遺恨を晴すことにしませんか?」
領主「え?というと,千雪さんの助っ人は,隣の女性たちですか?」
リスベル「そうです。千夏と千冬です。彼女たちの強さは,もしかしたら,千雪以上かもしれませんよ」
領主「そんなばかな。この世に,そんな化け物が2人3人もいる訳ないでしょう」
リスベル「別に信じなくていいです。では,こうしましょう。つまり,千夏や千冬が,そちらのゴーレムと死霊体に勝てば,領主の一番大事なものをいただきます。
もし,ゴーレムまたは死霊体が千夏と千冬に勝てば,私の一番大事なものを差し上げましょう。これで,お互いの過去の一切の遺恨,恨みを帳消しにするのです。どうです?いいと思いませんか?」
領主「一番大事なもの?それは,なんでもいいのか?」
リスベル「はい,何でもいいです。ただし,お互いが同意したものになります。もし,同意が得られなければ,指輪の力で異世界に行っていただきましょう。もともと,領主はそのつもりだったのでしょう?」
領主「・・・,勝負が引き分けになった場合は,どうなるのかな?」
リスベル「その場合は,領主の勝ちで結構です」
領主「よし,わかった。それでかまわん。では,中庭にきてくれ。そこで勝敗を決めよう」
かれらは,中庭に集まった。
リスベル「では,1対1の勝負でお願いします。彼女たちが,降参と言った場合は,即刻,攻撃を止めていただきます」
領主「それで結構だ。では,最初に死霊体から行かせていただく」
リスベル「では,こちらからは,千冬でいきます。千冬,油断は禁物よ。行きなさい」
合体千冬「はい,任せてください」
リスベル「頼むわよ」
合体死霊体と合体千冬が対峙した。合体千冬は,200倍速が可能だ。だから,合体死霊体ごとき,軽く倒せると思った。
最初に攻撃をしかけたのは,合体死霊体だった。彼は,合体千冬に火炎弾を発射した。その速度はかなり速いものだった。
ボボボーー,ボボボーー(合体死霊体が火炎弾を放つ音)
それでも,合体千冬の100倍速でなんとか躱した。しかし,服に着火してしまった。止む無く,身に着けた衣服をすべて脱ぎ捨てた。合体千冬の美しい肌とEカップの胸も露わになった。
この合体死霊体は,完全な霊体を核にしている。その動きは人間そのものだ。もちろん,性欲もある。美しい裸体を見れば,ニヤニヤとにやけてしまう。彼は,合体千冬の美しい裸体,美乳を見て,必ず犯してやる,と心の中でつぶやいた。
合体千冬は,裸姿でも恥じらうことなく冷静だった。というのも,千雪やリスベルの前では,裸でいることが当たり前だからだ。
合体死霊体は,魔法陣を起動して,7輪の拘束リングを生成した。直径50㎝ほどの光るリングだ。そしてそこに充分量の魔力を拘束リングに注入した。拘束リングが強烈な光を放った。合体死霊体は,7輪の拘束リングを合体千冬に向かって超高速で発射した。
合体死霊体が発射する速度は,通常のスピードの10倍だ。合体千冬は,1,2回とその高速リングを自己最高の200倍で避けた。
しかし,拘束リングは,その都度,向きを変えて彼女に向かって襲ってきた。拘束リングの一つが,彼女の右足首を拘束した。それによって,彼女の動きが止められた。残りの拘束リングは,彼女の首,両手首,胸,腹,もう片方の足首を拘束していき,そのまま彼女を地表に倒した。合体千冬はまったく身動きができなくなった。動きが完全に封じこまれた。
合体死霊体は,男性自身も具備している。この一連の攻撃は,合体千冬を犯すためだ。
合体死霊体の霊体は,500年ぶりにこの体を得た。この体で性欲を発散したかった。
リスベルは,まさか,合体千冬がこのように一方的に劣勢に立たされるとは思ってもみなかった。合体千冬の口がふさがっていないので,勝負をあきらめたのなら,自分で”降参”といえるはずだ。リスベルは,もう少し勝負の行方をみることにした。
それに,たとえ,勝負に負けて異世界に行くことになっても,尊師か誰かにお願いして連れ戻してもらえばいいだけのことだ。
口をニヤニヤとして合体千冬の傍にきた合体死霊体は,彼女の腹部の上に跨った。それをみて,リスベルは,なぜ合体千冬は負けを認めないのか不思議だった。
合体死霊体は,両手で合体千冬の胸をわしつかみした。彼は,その次の行動に移そうとした。
しかし,,,彼は気を失なって,その場で横に倒れてた。
胸に設置された呪詛は死体でも有効だった。死体を支配する霊体に働きかけて気絶させた。だが,肉体がすでに死亡しているので,その肉体への影響はなかった。
リスベルも,そして領主も,この状況を理解できなかった。千冬だけが,千雪が倒れる前に,自分の体に呪詛を埋め込んだのを知っている。そのため,千冬は,体が拘束されて魔力を封じ込めれても,その呪詛の効果にかけてみた。
リスベル「領主,どうも,この勝負,引き分けのようですね?死霊体が倒れてしまい,千春も身動きができない。次の対決で勝敗をきめましょう。どうですか?」
この提案に,領主は同意した。
領主「それで結構です」
リスベル「あの拘束リングは解除できるのですか?」
領主「わたしもよくわかりません」
リスベル「では,試したい方法があるので,それを試してみます」
リスベルは,千雪のしている霊力の指輪が,接触した箇所から魔力を吸収し尽くすことを知っている。以前,何度も千雪が指輪を魔法陣に接触させて魔力を吸収して解除したのを何度か見ていたからだ。
リスベルは,拘束リングに指輪を接触させてみた。
ヒューーン!
千雪の指輪は,拘束リングの膨大な魔力を吸収した。
リスベル「どうやら,この方法で解除できそうだ」
リスベルは,この方法で7カ所の拘束リングの魔力を吸収させた。
合体千冬「リスベル様,ありがとうございます。助かりました。死霊体の持つ魔力量は半端ないです。次のゴーレムもきっとやばいレベルだと思います」
リスベル「予想されていたことだ。体力はどう?充分にありそう?
合体千冬「はい,ぜんぜん疲れていません。ほとんど戦っていませんから」
合体千冬は,霊力をくり出して,簡単な着物を構成して,あたかも着物を着ているようにした。さすがにいつまでも裸でいるのはまずい。
リスベル「領主,次は,千夏に出てもらいます。千夏,出場しなさい」
千夏「了解です」
千夏は,着ている服を脱いで裸になった。霊力使いの戦闘服は,自分の皮膚だ。つまり,裸でいることが戦闘服を着ていると言ってよい。千夏の,千冬にも劣らないほどの美しい裸体とGカップの胸が露わになった。
千雪は,ゆっくりと歩いて,試合場に移動した。
リスベル「こちらの準備はOKです。どうぞ始めてください」
領主「わかりました。では,始めましょう。ゴーレム,あの裸の女性を倒しなさい」
合体ゴーレムは頷いた。合体ゴーレムの核も完全な霊体だ。合体ゴーレムの体は超合金だ。ダイヤモンドの硬度なみだ。その移動速度は,理論値で300倍速!
合体ゴーレムの得意な戦闘スタイルは,手刀による首の切断だ。人間のもっとも弱い部分を狙う。千雪や千春ら霊力使いの戦闘スタイルと同じだ。
合体ゴーレムは,100倍速で移動し,千夏の首を狙った。
その超速度でも,千夏は余裕で躱した。その後も,千夏は,合体ゴーレムの連続攻撃を躱していった。
合体ゴーレムは,100倍速では勝てないとわかった。やむなく理論値最高の300倍速で加速することにした。
合体ゴーレムの各関節がブルブルと震え出した。理論値最高の加速をするためには,各関節の点検と充分な潤滑油,それに発動のための膨大な魔力も必要だ。
各部の関節OK! 潤滑油OK! 魔力充填OK! ターゲット補足OK!
合体ゴーレムは,自己の体の総点検を行い,準備完了を確認した。
合体ゴーレムは,これから倒される相手に降伏を迫った。
合体ゴーレム「次の攻撃で,お前は確実に死亡する。降伏するなら今だ」
そのことばに,合体千春は,何ら動じなかった。
千夏「いいえ。降伏はしません。どうぞ,全力で戦ってください」
合体ゴーレム「戦いではなく,単なる処刑になるかもしれん?」
津夏「それはお互いさまです」
合体ゴーレム「そんなに死にたいのなら,死なせてあげよう」
そう言ったかと思うと合体ゴーレムの体が消えた。あまりに速いスピードなのでそう見えた。しかし,千夏の体も同様に消えた。
シュパーーーン !
どちらかの首が飛んだ。それは,合体ゴーレムの方だった。合体ゴーレムの首が胴体から切り離され,何十メートルも飛ばされてしまった。ダイヤモンド並みの硬度の首が,いとも簡単に切断されてしまった。
千夏は,なんと400倍速を達成していた。千夏こそ,千雪に匹敵するほどの霊力使いだ。
千夏は,リスベルのもとに戻った。そして,ゆっくりと脱いだ服を拾って着た。
リスベル「千夏,見事だ」
千夏「ありがとうございます。わたしに宿す霊力の力をかなり引き出せるようになりました。さらに精進すれば1000倍速も可能になるでしょう」
リスベル「そうか,それは凄い。もう,千雪を凌駕するのも時間の問題だな。でも,お前と話すときは,なぜか,女性言葉ではなく,男性言葉になってしまう」
千夏「あの,リスベル様との逃避行は,とてもよい思い出になりました。なくなった方々には申し訳ないのですが,,,」
リスベル「過ぎたことだ。感傷に浸るのはあとにしよう」
リスベルは,千夏との会話を切り上げて,北東領主に勝利宣言をした。
リスベル「北東領主。私の勝ちでいいですね。では,約束です。あなたの一番大事なものをいただきます。あなたにとって,一番大事なものは,なんですか?」
領主「私の命だ。どうか,私を殺してくれ」
リスベル「一番大事なものといったはずです。あなたにとって,あなたの命は,一番大事なものではないでしょう。あなたの妻,生まれたばかりの子供,,,そのあたりでしょうか?」
領主「千雪さん。妻や子供には,手をださんでくれ。お願いだ。千雪さんの言うことはなんでもする。お願いだ。異次元に行ってもいい。ほんとうにお願いだ。この通りだ」
領主は,土下座して,リスベルにお願いした。
リスベルは,ふーーー,とため息をついた。
リスベル「あなたの,そのお願い攻撃で,ある人の子供の頃の話を思い出しました。
リスベルは,その続きを話すべきか,話さざるべきか迷った。話せば,リスベルに”借り”を返すことができるが,千雪に”借り”を作ってしまう。だが,今は,千雪のことを考えるのはやめることにした。どうせ,快楽の精神世界の中で狂い咲きしているだろうから。
リスベル「彼が8歳の頃の話です。彼は,彼の友人と竹とんぼで,どれだけ飛んだか,競争していました。風の強い日でした。彼の竹とんぼは,空中に高く舞い上がり,風に飛ばされて川に落ちてしまいました。彼は,慌てて,川に入ってそれを拾おうとしたのです。でも,その川は,彼の身長よりも深かったのです。彼は泳げました。でも脚が地面につかない場所で泳ぐのは初めてでした。彼はパニックになってしまいました。そして,脚をひきつったのです。そのまま川に沈んでしまいました。
北東領主は,その話を聞いて,まったく同じ経験をしていることに気が付いた。リスベルは,話を続けた
リスベル「彼の友人も,8歳でした。彼の友人は,川に飛び込んで彼をすくいあげました。彼の友人は,水泳が得意だったようです。彼は,九死に一生を得ました。彼は,彼の友人に約束しました。将来,ほんとうに大事な頼みごとがあれば,一つだけ,必ずかなえてあげると」
リスベルは,ここで,ため息をついた。ひと呼吸おいて,言葉を続けた。
リスベル「領主,もうおわかりですね? 彼がだれだか」
領主「ああ,私も思い出したよ。彼とは,リスベルのことだ。唯一の親友だった。魔力の才能はなかったが,頭の切れるやつだった。リスベルがあなたにさえ会っていなければ,死刑囚になることもなかっただろうに,残念だ」
リスベル「確かにそうかもしれません。リスベルを狂わしたのは千雪なのかもしれません,,,,,千雪は,リスベルに借りがあると言っていいでしょう。そして,リスベルは,領主に借りがある。ならば,千雪は,領主に借りがあることになります。領主のその願いを,リスベルに代わって私がかなえてあげましょう。8歳のときの借りは,今回の件で,帳消しにします。これで,われわれには,お互い過去のいっさいの遺恨,恨みがないことになります。いいですね?」
領主「ほんとか? ありがたい。ああ,そうしてくれ。ほんとうにありがとう」
リスベル「千雪の仇打ちは,ここまでです。では,わたくしどもはこれで失礼します」
リスベルは,千夏に向かって命じた。
リスベル「撤収する。転移してください」
千夏「わかりました。では,転移します」
千夏は,リスベルと合体千冬を連れて転移した。
ーーーー
領主の妻が子供を抱いて走ってきた。満面,涙に濡れていた。
領主の妻「あなた,助かったのですね?」
領主「ああ,どうやら,助かったようだ」
領主の妻「あなた,あの千雪さんという女性,ほんとうに女性ですか?」
領主「どういう意味だ?」
領主の妻「屋敷の2階から見ていたのですが,体つきは女性のようでしたが,歩き方は,まるで男性でした。以前,一度,亡くなられた義父を尋ねに来た時の千雪さんとは,まるで別人のような歩き方でした。もしかしたら,千雪さんは,男性に憑依されたのじゃないかしら?あなたがいつも言っていたように,ほんとうの千雪さんなら,あなたを生かしておくわけが絶対にありません」
領主「言われてみれば,そうかもしれん。千雪さんは,自分のことをあたかも他人のことのように話していた。それに,私が尊師に化けて教団に行ったときの映像を見て,すぐ私だと判断したそうだ。私の歩き方の細かな癖を熟知していた。そんなことを知るものは,家族以外では,死刑で死んだリスベルくらいなものだ。それに,千雪さんは,私が子供のころ,リスベルを川で溺れているのを救ったことも,その時に交わした約束も知っていた」
領主の妻「ということは,千雪さんは,もしかして,リスベルさんが憑依していたんじゃないかしら。もし,そうだったら,あなたを助けたこともよく理解できます」
領主「なるほど,そうだったのかもしれん。気が付かなかった。監視魔法陣で,映像記録が残っているから,隊長に渡して精査してもらえれば,よりはっきりするかもしれん」
領主の妻「あなた,ほんとうに,よかった。リスベルさんに感謝ですね」
領主「ああ,そうだな。心配かけて悪かった」
領主とその妻は,抱き合って,喜びを改めて噛み締めた。
ーーーー
前国王千雪対策会議ー映像の解析
国王軍のカベール隊長は,前国王,前国王秘書,モルファ長官,魔法陣研究班長,国王リスダン,財務部長の集まる会議で,北東領主から入手した記録映像を流して,合体死霊体と合体ゴーレムの成果について報告中だった。
隊長「以上が,見ていただいた映像になります。今回は,千雪が参戦していませんでしたが,千夏という弟子が,合体ゴーレム以上の速度で移動したことから,その実力は,千雪と同等かそれ以上と思われます。ですが,合体死霊体による拘束リングが有効であるということも判明しました。さらに,驚くべきことに,映像解析の結果,千雪とリスベルの歩き方がまったく同じであったことから,北東領主の推測,つまり,千雪は,リスベルの霊体によって支配されている,ということがほぼ確実であると判断いたしました。
前国王「ということは,つまり,なんだ? 千雪はもう脅威ではない,ということかな?」
カベール隊長「わかりません。ですが,リスベルがあまり魔法が得意でなかったということから,その可能性は十分にあると思われます」
前国王「解析はこれでいいが,今後の対応はどうするのだ?」
カベール隊長「はい,われわれは,教団側と友好条約を結んでいます。これを逆手にとって,教団側と親善試合を提案してはいかでしょう。千雪がリスベルによって,ほんとうに支配されているのであれば,国王が自ら,その親善試合を提案すれば,千雪は,いや,リスベルは,断ることはしないでしょう。
前国王「その親善試合では,何か秘策があるのかな?
カベール隊長「はい。魔法陣研究班長のグループでは,新しい魔法具が開発されています。それに高純度の魔力結晶が非常に有用とのことです。それらの有用性が実証されれば,教団側に対してもう譲歩する必要はなくなります。それに親善試合で,相手を誤って殺してしまっても,それは契約違反にはなりません。
前国王「なるほど,親善試合か。契約の範囲内で相手を殺すことも可能というわけか。いいアイデアだ」
班長「私から補足させていただきます。高純度魔力結晶は,大変有用であることがわかりました。われわれの戦力を大幅に刷新できます。いままでS級魔法士20名でやっと展開できた炎氷混竜激派が,一握りの高純度魔力結晶で実現できてしまうのです。もしかすると,われわれの戦力はすでに教団側を大幅に凌駕してしまったのかもしれません」
前国王「高純度魔力結晶は,そんなに有用だったか。では,思い切って,臨時補正予算を組んでバケツ一杯の高純度魔力結晶を購入せねばならんな。財部部長,急ぎ,必要な手続きを進めてくれ。国王,すまんが,経費の了承をお願いしたい」
国王「はい,了承します。それと,親善試合の件,われわれ国王側と教団側の友好条約の再確認という意味でも価値のある提案だと思います」
前国王「国王,了承していただいて感謝する。では,班長,親善試合の内容をラフ案でいいから,急ぎ決めて国王に連絡しなさい。それと,モルファ長官,すまんが,教団側と国王とのトップ会談のセッティングをお願いしたい」
モルファ長官「はい,了解いたしました。すぐに対応いたします」
ー---
一方,その頃,千雪御殿に戻ったリスベルは,相変わらず,千夏とイチャイチャを再開した。過去のいきさつから,リスベルは,やはり千春,千秋,千冬よりも,はるかに千夏が好きだ。千夏も,だれよりもリスベルを愛している。千夏の片思いかもしれないが,それでもよかった。
エルザは,千雪に早く寅吉を復活してほしいと依頼しても対応してくれないので,なんかおかしいと感じた。
エルザは,千雪の体をしたリスベルに言った。
エルザ「千雪!千夏とお楽しみのところ悪いんだけど,今,寅吉を復活させてちょうだい」
リスベル「できないわ。千雪がいないもんね」
エルザ「おかしいと思っていたけど,千雪,あんた,だれ?だれなの?」
リスベル「エルザ,まだ気づかないの?さんざん,私の前でオナニーして挑発していたのに」
エルザ「まさか,リスベル? リスベルなの?」
リスベル「そうよ。やっとわかったの? だから,寅吉は復活できないのよ」
エルザ「じゃあ,千雪をもどしてよ」
リスベル「いやです。千雪は,もう快楽の世界で発狂して,もう正気に戻らないかもしれないわ」
パンーー,パンーー!
エルザは,行為中のリスベルのところに歩み寄って,リスベルに往復ビンタを放った。
リスベル「いたーい,エルザ,何するのよ」
エルザ「リスベル! あなた,千雪をもとに戻せるでしょ。でもわざと戻そうとしない。そりゃそうよね。その体だったら,好きなだけ抱けるものね。私もフレールも,あなたに犯されて,妊娠させられたってわけね?」
リスベル「ふふふ,やっとわかったわね」
パンーー,パンーー!
エルザは,再び,リスベルに往復ビンタを放った。
エルザ「あなたの体じゃないのよ。千雪に返しなさい」
リスベルは,何度もビンタを食わされて,怒りが湧いた。
ダーン!(エルザが倒れる音)
リスベルは,霊力の腕を形成して,エルザの両腕をつかんで,地面に倒した。そして,エルザの腹の上にまたがって,実際の手で,エルザの顔に往復ビンタをお返しした。
パーン!パーン!
リスベル「エルザ,私は霊力を少しくらいは使えるのよ。エルザの両腕は,霊力の手によって抑え込んだわ。さあ,どうしてやろうかしら?」
エルザ「リスベル!あなたは,もう死んだのよ。それ以上,千雪の体を支配したら,転生する機会さえ失うわよ」
リスベル「そうね。転生したくても,千雪の霊体と結合しちゃったからね。もう離れられないのよ」
リスベルは,そういいながら,エルザの服を脱がして,豊満になった乳房をはだけさせた。
エルザは,やめてよ,と言いたかったが,言っても無駄だと思った。ベッドでは,千夏が恍惚状態でいるのを見て,千夏に声をかけた。
エルザ「千夏,リスベルは千雪をもとに戻せるのよ。千夏からリスベルにお願いしなさい。もし,言うこと聞かなかったら,強制的に言うことをきかせなさい。リスベルは,千雪ではないのよ!教祖でもないのよ!」
千夏は,エルザの依頼に反発した。
千夏「でも,千雪様とリスベル様は,夫婦の関係だと聞いています。リスベル様は,合体魔法を教えて下さいました。それに,お二人の霊体はすでに連結されていますので,区別することはできないと思います」
エルザ「連結って,どういうこと?」
千夏は,精神科女医のサブリナが2つの霊体を連結したことを説明した。
エルザ「そうだったの。もう純粋な千雪は,いなくなったのね。千夏,とにかく,寅吉を復活させるようにリスベルにお願いしなさい。これじゃ,いつまでたっても,寅吉が復活しないわ」
千夏「はい,お願いはしてみます」
千夏は,申し訳なさそうに,リスベルに寅吉の復活をお願いした。
千夏「あの,リスベル様,すいませんが,ちょっとでいいので,千雪様を戻していただけますか?」
リスベル「千夏までも,千雪がいいのかしら? 悲しくなるわ。私は,結局,孤独な人生を歩むのね。私の居場所なんて,なかったのね。悲しいわ。みんなして,じゃけんにして。もう死にたいわ」
千夏「リスベル様,私がそばにいます。千雪が去っても,わたしはリスベル様についていきました。お忘れですか?リスベル様は,決して一人ではありません。いつでも私がいます。千夏はリスベル様の味方です。リスベル様の奴隷です。悲しまないでください」
リスベル「千夏,確かにそうだな。あの時は,ほんとうに助かった。ありがとう。じゃあ,千夏の願い,ちょっとだけ叶えようかな。千雪を戻してもいいけど,千雪が寅吉を復活させたら,また,快楽の世界に戻ってもらうよ。わかった?」
合体千夏「はい,リスベル様。必ず,そのようにします」
リスベルは,ベッドで横になり,目を閉じて,千雪のいる快楽の世界に侵入した。
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