第10話『魔法の力場』

「実践してもらうのはあくまで依頼人のところで、ということですよね」

 ルイスが言うと、アロンが答えた。

「うん。例えば童話の里で伝説の里の話をしたところで、伝説にはならないで、童話の中の伝説にカテゴライズされる恐れがあると思うんだ。グランドクロスの法力を十分に満たした本にするには、現地決行しかないと俺は思う」

「なるほどね、法力は場で発揮されてるんだから、人間の都合通りにはいかないってことか……」

 ポールが下唇を指で押し上げて言った。

「では、私たちが現地に向かって試行するようなことはしない方がいいですね」

「えっ、どうしてですか?」

 キーツが尋ね返すと、ランスは言った。

「場の定義というのははっきりしていて、内と外を表すんですよ。この場合、内つまり依頼者と比べると、私たちはどうしても部外者になるわけです。修法者の修法陣を例にとるとわかりやすいでしょうか。都合の良いものを内で守り、逆を外に退ける。そうするには常に条件付けが存在していて、条件にそぐわない者を外へ外へ出そうとする斥力が働くんです」

「へぇ……」

「そういう状態で俺たちが別の里の奇跡に関わろうとすれば、どうしてもブレが生じる。それでは万世の魔女にクリアなイメージを送るという目的から外れることになるだろ」

 アロンの言葉に、キーツが納得する。

「そっか。その目的から外れる行為は慎まなきゃね」

「うーん、すると俺たちができるのは、話を形成することじゃなくて、提案だけに留めることに限定されるようだな」

 マルクが腕組みして唸ると、オリーブが言った。

「初めにポールが言った通りなんじゃない? 里それぞれで議題にしてもらった方が目的に適う」

「まぁな。ランスさんも言ったように丸投げは困る。しかし、提案という形なら目的には合致する。じゃあこれは? 本化するという奇跡が起こらない場合は」

「あ……」

 ランスから声が漏れた。マルクは続ける。

「そう。おそらく本化するという過程は、万世の魔女と関係者に名のない力を易しいイメージで固定化する役割があると思うが。その標準に達しない、いわば未分化のイメージだらけにしてしまったら、里の機能を阻害することにならないだろうか?」

 マルクは眉根を寄せて疑問を呈した。が、ポールは事もなげに言った。

「それはね、マルク。全然心配いらないよ」

「どうして?」

「本化する奇跡を起こせるのが俺だけだと思う? それはちょっと里に属する人間を侮ってると思うよ。この世に言葉を生活の糧にしてる人がどれくらいいるかわかる? その中で里に属している関係者の数は? 知らないでしょ。ストーリーテラーはかなりいるはずだよ」

「……そうだろうか」

「うん。本とか音楽とか演劇とか。刺激を受けて自分も創作してみようと思ったら、絶対ストーリーテラーの素質が眠ってると俺は思う。それを育てようとするか、見ないフリをするかで人って道が違ってくるんだ。確かに平坦な道じゃないよ。でも、今回のことはそういう人たち全部に与えられた、またとない機会なんだ。できれば俺はその発露を邪魔したくないんだ」















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