第7話『生産修法の実践』

「そうこなくっちゃ、それでは早速」

 ポールがそう言って、左胸に右手を置いてから、太腿に種を載せた小皿を置き、上から気を送る。

 気、そのものが自然に溶けると、それを呼び水に生命の樹から純エネルギーが引き出される。

 すると、長楕円形の小さな種が小皿から浮いて、透明な球に包まれた。

 球の中の光と闇がマーブル模様に混ざり、陰陽が調えられる。

 幾日もの昼と夜。これが時を表す。

 その球を手のひらで上下に包む。

 特に呪文などを唱える必要がなく、儀式もいらない生産修法が必要とするものは、当人の種の成長を追うイメージ力である。

 そして、シンプルで力強い祈り。

(大きくなぁれ)

 球の中に小さな自然が再現される。

 時の運行、天地、暖かな日差し、柔らかな雨、涼やかな風、澄んだ空気——ポールのイメージ力が研ぎ澄まされる。

 種は順調に根を伸ばし、発芽し、葉を伸ばし、徐々に結球していく。

 通常の栽培法なら40~60日かかる日程を、約30分に短縮できる生産修法の真骨頂だった。

 ところが――。

 いよいよ収穫という時だった。

 にゅるーんとレタスを這うものが。

「ぎゃ―—っ!!」

 なんと、外葉ではなく中の柔らかい葉の上をナメクジが。

 途端にポールの集中力が切れて、あとにはナメクジ付きレタスが残された。


 慌ててナメクジを草地につまみ落として、ポールは声もなく小川でレタスをバシャバシャ洗った。

「あーあ」

 マルクがその様子を見て溜め息をつく。

 顔を片手で覆っていたアロンは、やがて言った。

「……当たり前だろ。落雨の六月のど真ん中に、露地条件で水気の多いレタスなんか栽培したら、ナメクジの温床だ。それでなくても生命の樹の純エネルギーは、あらゆるものを吸い寄せるんだからな」

「まさかナメクジがテレポートしてくるとは思わなかったよ」

 ぼやいたポールが小川から引き揚げてくる。

「チラッと考えたんじゃないのか?」

「超リアル映像見ちゃったからね。でもさ、見てよ、この瑞々しさ。久々にしちゃ上出来じゃない」

 確かに作られたレタスは、キラキラ輝いていた。

「食べてみたら?」

 アロンに言われて、ポールが一枚葉を剥がして食べてみる。ところが彼としたことが一言もない。

「? どうなんだ」

 無言でポールが二人に剥がしたレタスの葉を渡す。

 顔を見合わせたマルクとアロンが、とりあえず食べてみる。

「おおっ、うまい!」

「うん、このシャキシャキ感。苦みもスッキリしておいしいよ」

 よっしゃ、とガッツポーズをするポール。 

「やったぜぇ! 及第点とった」

「さすがナメクジのお墨付き」

「なめくじレタスだな」

 二人の皮肉にも屈しないポール。

「なんとでも言ったんさい。いやー、さすが俺。久々とはいえ、こんなにうまくいくとは!」

「ブランクがあってもいけるもんなんだなぁ」

 マルクが皮肉も忘れて感心すると、アロンも不承不承頷いた。

「超リアル映像と味覚を磨いてきた成果じゃないか? 多少のリスクを背負ったうえでの成果なら文句ないな」

「待っててな、これで特製レタス料理を振舞っちゃるぜ」

「いいね、腹空かして待ってるよ」

「うん」

 マルクとアロンはそこでポールと別れた。

「男の手料理を振舞われる、男二人」

 ぼやくマルクに、アロンが一言。

「やめようぜ、女に飢えてる宣言は」 
















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