第3話『トゥーラの気持ち』

「ったくぅ、こんなアフターサービス、聞いてねぇぞ」

 とか何とか言いながら、ポールは紅茶にブランデーでも入れればこじゃれた感じになるんだけどな、と考えた。

 そこへすらりとした白い手が伸びてきて、まさにイメージ通りのブランデーの小壜を調理スペースに置いた。

 こんなことができるのは……。

 期待を込めて隣を見ると、やっぱりトゥーラだった。

「もしかして、お入り用かと思って」

 さり気なく、功を誇らず、淡々と。

「ベストタイミングだよ、トゥーラ。サンキュー!」

 感激しているのに、ポールもさらりと流す。

「手伝いましょうか?」

「うん、よろしく」

 ちょうどよく蒸らして注いだ紅茶に、ブランデーを三滴ずつ垂らすトゥーラ。

 淹れ終わったカップ&ソーサーを運ぶポール。

「さぁさぁ、贅沢なお嬢様方、香り高い紅茶を召し上がれ」

 そこからはみんなにもてはやされて、大得意のポールだった。

 シンクに寄りかかりながら、トゥーラがその様子を眺めていると、ユチカがスイートポテト片手にやってきた。

「トゥーラさん、お裾分けです。みんなから」

「いいの? ありがとう」

 ニッコリ笑って受け取る。

 ユチカもトゥーラに倣って寄りかかった。

「すごいですね、ポールさん。あんなにたくさんの女性に囲まれてるのに、全然へっちゃらで」

「そうね、あれで調子に乗らなければ大成するんだけど」

 吹き出すユチカ。トゥーラの点の辛さがちょっと気になった。

「でも、今回は助かっちゃいました。ポールさんのおかげでコノミとも仲直りできたし、みんなにも盛り上げてもらえるし」

「……」

「トゥーラさん?」

「えっ、ああ、何でもないのよ」

 トゥーラはユチカを言祝いだ。

「コノミちゃんとの仲直りおめでとう、ユチカちゃん。今度の仕事では同じツリー班だし、楽しみでしょう」

「はい、あの……そのことでお願いが」

「何かしら」

「あの……コノミを4班に入れてもらうことって可能ですか? 6班に私が異動してもいいんですけど、第一希望はトゥーラさんの班で一緒に働きたいんです」

「そう……それもそうね。今日の反省会の時に、リーダーに打診してみるわ」

「ありがとうございます!」

「ユチカちゃんは本当に友だち思いなのね」

 照れながら、ユチカはトゥーラに詫びた。

「そんなことないです。あの、すみませんでした。本当のことが言えなくて」

「いいのよ、プライベートだもの。何もかも言わなくちゃいけないなんて規則はないわ」

「よかった! トゥーラさんに嫌われなくて」

 胸に手を当てて、ユチカは心底ほっとした。

「素直になって正直に言えるって素敵なことよ……羨ましいくらい」

 言ってポールの得意顔を見つめるトゥーラ。

 ハッとして、ユチカがトゥーラを凝視して、続いてポールをじっと見る。

「あの、あの、私全然子どもなんで、上手く言えないんですけど……もしかしてトゥーラさん、ポールさんのこと……」

 苦笑するトゥーラ。素直な女の子の前ではどうしても誤魔化しが効かない。

「ユチカちゃんの胸にだけしまっておいて。絶対、内緒よ」  

「は、はい、任せておいてください。私、口は堅いですから!」

「よろしくね」

 他人事ながら、ユチカはドキドキが止まらなかった。

 とってもとっても大事なものが、ハートをくるんでくれた気がした。

 そして、ポールを見てがっかりした。相変わらず女の子に囲まれて饒舌ぶりを発揮している。

 こんな素敵な人に想われてるのに。

 ユチカはポールにかみつきたい衝動に駆られた。思う存分不満を高めて唐突に脱力する。

「だめだこりゃ」

 クスクス笑うトゥーラ。その葛藤は手に取るようにわかる。

「笑い事じゃありませんよ、トゥーラさーん」

「あら、ごめんなさい。でもね、ポールは人からちやほやされていくらなの。突っ込まれてもおだてられても、あの人にとってはグルメを堪能しているようなものよ。罪がないというか、快楽原則を知り尽くしているというか。とにかく本能に近いことだから、誰にも止められないの。私にとってもほとんど娯楽みたい。面白いから癖になる、ということかしらね」

「はぁ……」

 ユチカの脳裏に、トゥーラがお手玉になったポールをポンポン放り上げている図が浮かんだ。

「なんか2人の未来が見えた気がします」

 そう? とトゥーラは肩を竦めた。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る