愛妻弁当

 誠司が依頼されていた見積書を作り終えると12時近くになっていた。午前中の仕事はここまでと、一区切りをつけて昼休憩に入ることにした。

 鞄から愛実の作ってくれたお弁当を取り出し、デスクの上に置いた。誠司の好きな唐揚げのほかにも卵焼き、ブロッコリー、ミニトマトなど彩りと栄養を考えたお弁当に、周りの女子社員が関心を示してきた。

「長野さん、ひょっとして彼女の手作り弁当ですか?」

「まあ、そうだけど。」

「いい彼女さんですね。」

 女子社員からべた褒めで照れているところに、

「こいつ彼女、超美人だよ。」

 一緒に合コンに行った杉村が、会話に参加してきた。

「えっ、みたいです。写真とかないんですか?」

 スマホに保存してある写真を呼び出して、女子社員の間で誠司のスマホを回し見ながら、みんな「すごく、きれいな方ですね。」「スタイルもよさそう。」「着ている服もおしゃれ。」などと愛実の誉め言葉を口にした。

 愛実が男であることはみんな知らない。あえて教えることもないので、黙っておくことにした。


 誠司のアパートの契約更新を機に、2LDKの部屋に一緒に引っ越して暮らし始めたのが1か月前のことだった。引っ越した直後はいろいろと新しい生活になれるのにお互い大変だったが、ひと月が経ち少しずつ生活のリズムが整い始めたこともあり、昨晩夕ご飯食べているときに愛実から「明日からお弁当作るから、誠司さんも持っていく?」と聞かれた。 

「いいよ。大変だろ。」

 誠司は最初断ったが、

「私の分は作るから、一人も二人も一緒だよ。それに経済的だし。」

 子供ができない誠司たちにとって貯蓄しておくことは大事だと何度も愛実が言っていたこともあり、弁当を持っていくことにした。


 美味しいお弁当を頂き、ペットボトルのお茶を飲みながら一息ついていると、隣のデスクで同じようにお弁当を食べていた、木下翔子が話しかけてきた。

「長野さん、最近やせました。」

 たしかに愛実と暮らすようになってから、炭水化物中心の食生活からバランスの取れた食生活となり、愛実につきあってジョギングしたり、筋トレしたりし始めたこともあり、自分でも体がすっきりしてきたのを感じていた。

「彼女のおかげかな。」

 誠司が照れながら言うと、

「彼女さんはいくつなんですか?写真だと20代後半かなと思いましたけど。」

「たしか28だったかな。」

「28歳で同棲してるなら、早めにプロポーズした方がいいですよ。彼女さん、絶対30までに結婚したいと思ってますよ。同棲でずるずるして、なし崩しになっている人もいるから、はっきりと言った方がいいですよ。」

 女性の立場からのアドバイスが誠司の胸に突き刺さった。戸籍上の問題で結婚はでず無関係と思っていた。やっぱり女性は結婚というけじめにあこがれがあるのかもしれない。


そんなことを考えながら帰宅すると、いつも通り愛実が夕ご飯の支度をしていた。

「今日の夕ご飯、何?」

「煮込みハンバーグ。ごめん、今日ちょっと残業だったから帰ってくるのが遅れたから、もう少し時間かかりそう。」

「いいよ。気にしなくて。煮込みハンバーグ好きだから、楽しみに待ってるね。」


 夕ご飯ができたところで、ふたりで食べ始める。お互いの今日の出来事について話したところで、

「ところで愛実、結婚についてなんだけど、」

 と誠司が言いかけたところで、

「結婚はできないって、最初に言ったよね。ただ一緒に暮らせるだけで、幸せだよ。」

 愛実は口をはさんできた。

「いや、戸籍の問題とかじゃなくて、ドレス着て写真ぐらいは撮りたい?」

「男でもドレス貸してくれるかな?」

「探せばあるんじゃない?最悪買えばいいから?」

「嬉しい。でもせっかく写真撮るならみんなと撮りたいから、誠司さんの家族に理解してもらってからの方がいいかな。そういえば、日曜日早紀さんが買い物についてきて行ってるから、行ってきてもいい?」

「もちろん、いいよ。」

 少し無理気味だけど話を変えらたので、誠司もそれ以上は結婚について話し合えずに終わってしまった。


 同棲する前に、礼儀として両方の両親に挨拶に行った。寿司の出前までとって歓迎してくれた愛実の実家とは違い、誠司の親はやっぱり男同士ということで反対した。愛実が男とわかるまでは、「いいお嬢さんね。」と褒めていたのに、男とわかると手のひらを返したように反対してきた両親とは連絡すら取っていない。

 ただ一緒に実家で暮らしている妹の早紀は賛成してくれて、愛実とも気があったのか時々会っているようだ。


 その日の晩、寝室に入ると愛実はセーラー服を着ていた。もちろん本物ではないが、愛実の母校の女子制服に似たコスプレ衣装を探して買ったそうだ。

 学生時代を男子の詰襟ですごした愛実は、ずっと女子の制服にあこがれて、女子の制服を着て男子とデートするのが夢だったのを、10年の時の経てかなえている。

 誠司自身も高校時代は彼女はおらず、制服に手を入れ胸をもんだり、お尻を触ったりと10年以上の時を経てその時の願望を満たしている。

 愛し合った後、「誠司さん、ありがとう。」、満足そうな笑顔の愛実はそのまま眠りに落ちていった。

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