扉の先の黒き人々-11-

 黒人間の身体全てが塵になると、トンネル周囲には沈黙が戻った。

 高村がふぅと一息つき、拳銃を下ろす。


「どないなってんねん、ったく」

「うどん屋の黒人間が楔になっていたのかもしれないな。扉の中の黒人間は外に出たがっていたが、奴が何らかの方法で中に閉じ込めていた。俺が奴を排除したので外に出てこれたが、身体が持たずに消滅した」

「それが自然な考えかも知れませんね。何一つ理解できませんが」


 警察官たちは一言も発さないが表情などから安心しているのが見て取れる。

 天はそんなことも気にせずにトンネルの方へとズンズン歩いていく。


「お、おい! なにしとんねん!」

「何もクソもあるか、中から黒人間が出てきたんだぞ? 扉の中がどうなっているか確認するに決まっているだろう」

「それにしても急ぎすぎやろ――――」


 高村の言葉を遮るように、天は手を高村の前に翳して言った。


「四人だ」

「なんやて?」

「前野と車に乗っていた人数だよ。繚乱舎の人間の話では同行者は二人だそうだな?

 怪異がワザワザ嘘をつくとは思えん。間違っているのはどこなのか、確かめる必要がある」


 スタスタと一人でトンネル内部に進入する天に、高村含め全員が絶句する。

 一番最初に動いたのは吉備だった。駆け足で天の横に並び、腰からスッと取り出した拳銃のチェックをしながらトンネルへと歩を進める。


「ご一緒しますよ」

「危険はないが結構歩くぞ?」

「この目で確かめとかないと。報告書書かされるの僕でしょうし」


 天は短く「そうか」と返答をして、二人はトンネルの闇に消えていった。

 トンネル前に残されたのは高村と警察官たち。すっかり質問役になってしまった眼鏡の警察官が高村に問う。


「私たちは何をしたら…?」


 高村は小さくなってしまったミント味の飴を噛み砕き、考える。


(トンネルん中は縁間が行ったから何事も起こらんやろ。かといってもな、外で問題が起こったわけでもあるまいに。やっぱ待機が最善か?

 ……ぶっちゃけもう今月の給料分は働いたしな、吉備には悪いけど楽させてもらうかぁ)


 次の行動を決めた高村。待機と警察官たちに告げようと口を開きかけた瞬間、ポケットに入れておいたスマートフォンがメッセージを受信した音が鳴る。

 直感的に高村は嫌な予感がした。無表情でスマートフォンのロックを解除する。


「おぉ……」


 送信者は吉備。事後処理お願いしますと書かれたメッセージと共に、見事に倒壊した元うどん屋の写真が送られてきていた。

 高村は天に吉備が同行した意味がここにきて理解できた。


「事後処理から逃げんなやぁあああああ!!」


 警察官たちは害のなかった黒人間より、怒り狂った高村が一番怖かったと後に語った。





「お前戻ったらボコボコにされるぞ」

「はっはっはっ、たまには高村警部にも事後処理の面倒さを学んでもらおうと思いまして」


 高村と進入した時のように、十指王環の秦広環≪しんこうかん≫でトンネル内を照らし、されど口数多く二人は先に進んでいく。


「扉の中の黒人間って結局のところ何者なんでしょう?」

「知らん。……そう言いたいところだが、お前らは気になるのだろう?」

「当然です。人ならざる御身からすれば些細なことかも知れませんが、我ら人間はその些細なことを知るために命を懸けてしまう性でして」

「ふん、面倒な性だ。いいだろう。一つ、俺の考えを聞くがいい。

 この一連の流れに出てきた敵性的な怪異は二つ。うどん屋の黒人間と緊急通用口の怪異だ。通用口の怪異はあの空間か黒人間か判別できないから一纏めにしておく。

 それとは別だが、他に一人、前野のグループに同行していた『何か』がいる。うどん屋の黒人間がベラベラ喋ってくれたおかげで、それはほぼ確定だろう。では、そのもう一人は誰なのか。

 トンネルから出てきた黒人間は何故消滅したのか。これについては聞いただけだが、黒人間が『でられた』と言ったそうだな。状況的にトンネル内に閉じ込められていたと見ていい。

 結論付けるならば、緊急通用口の中は確実に変化しているはずだ。普通の通路に戻っているならばよし、逆ならば……。

 結局は扉の先をみなければ何も答えは出ない」

「決着を付けなければならない、と」

「最悪もう一回うどん屋の黒人間と同じことをしなければならないかもな」


 キュッと天の靴が音を立てる、いつの間にか二人は緊急通用口の前に辿り着いていた。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか…。いくぞ」


 ノブを捻り、天が扉の内に入る。


「鬼は部下でしょうに…」


 吉備もそれに続いた。



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