部活やります

第16話 葉凛部




 月曜日。


 週の始めで誰も彼も好きな人がいないであろう際も嫌われる一日。

 そんな日にここ葉凛高校は各クラス学年問わずある話題で盛り上がっていた。


「――ねぇねぇ、聞いた? 生徒会副会長のレナさんが秘密裏に作っていた部活があるんだって」

「聞いた聞いた。なんでも「人助」を中心にした活動なんだって」


 話題毎が大好きなサブカル系女子達はそんな話をしている。


「なあなあ、聞いた話だがその部活にはグリーンさんともう一人の部員がいるらしい。それが……男だとか」

「ハァ!? 裏山死過ぎだろ。お願いだからその席譲ってください!!」


 男子生徒の言葉を聞いたもう一人は顔の前で手を合わせると懇願する。


「バーカ、それは無理だろ。なんせその生徒、重度の遅刻魔らしぞ」

「そそ。そしてその遅刻魔の生徒は元の部活を退部させられた挙句、罰でグリーンさんの監視元その部活に入部させられたとか」


 後から来た男子生徒数名からそんな話を聞く。


「へー、そうなん。でも、グリーンさんの監視付きとか、なんかいいな……」

「それは俺も思った」

「右に同じく」

「うむ!」


 レナに興味がある男子生徒達は盛り上がっていた。


「サイテー」

「これだから、男子は……」

「きもっ」

「同じ空気吸うなし」


 男子生徒達の話を近くで聞いていた女子達の"言葉"という名の射撃が放たれる。


「がはっ!」

「うペェ」

「ぐはっ」

「もっとください!」


 大半の男子生徒達はあえなく撃沈。コアな性壁の持ち主は感激。

 そんな男子生徒達を尻目に女子生徒達は話す。


「――馬鹿な男子連中は良いとして、あの優しいレナさんに目を付けられるぐらいの遅刻魔って」

「それも気になるけど、部活内容よねー」

「ああね。部活の内容は「人助」をメインに行うとか」

「私も知ってるよその部活。確かその部活の名前は……」


 その女子に男子も女子もみんな関係なく注目する。



「葉凛高校助っ人部。略してって言うらしいよ」


 そんな部活名が各クラス、各学年で話題となっていた。




 放課後。


 朝の喧騒も大分収まり部活に行く生徒、帰る生徒でざわざわと騒がしいいつもの放課後の風景。


「さて、俺も行くか」


 周りが友人達と楽しそうに話している中、その生徒は特に誰とも話すことはなく椅子から立ち上がると肩掛けバックをだらしなく背負い歩き出す。


 放課後だと言うのに顔には覇気がなく憂鬱とした表情だった。


 てか部活とか本当にやる意味あるのかよ。バイトしてた方が金は出るし社会に貢献出来るしで有益な時間だと思うのだがな。ハァ、憂鬱だぁ。


 今日から部活が開始される「葉凛部」部長の身延は部室に向かいながら一人愚痴りながら溜息を吐く。


 そんな身延の姿を見ている生徒は誰もいなかった。


 

 俺はレナと別れた金曜日の夜。いつものメールのやり取りの中で「部活の名前をどうするのか」レナに聞いた。そうしたら「りく君が部長だから決めていいよ。私も毎日顔出せる訳じゃないし」と言われてしまった。俺が「部長」と言う話自体初耳だったのだが。

 まあいい。レナから言質を取った俺は自分で適当に名前を付けることにした。どうせこの部活はということを証明するための隠蓑かくれみのなのだから。


 そこで俺は適当に「葉凛高校助っ人部」なんていう安直な名前を付けた。


 そのことをレナに話したら「いいねその名前!」と褒められる。そこから少し話をしたら「葉凛高校助っ人部」は長いから「葉凛部で!」と話が纏まる。


 実際葉凛高校の問題を解決したりする部活だから問題ないだろうと思い即決で決めた。みんなもわかりやすい方がいいだろう。ネーミングセンスは関係ないと思う。多分。

 須藤先生は「身延が部活さえ入れば良い。名前など勝手に決めろ。ただし私を顧問にしたんだ、わかっているな?」と脅されたがまあ大丈夫だろう。


 部室の鍵は部長の身延が保管している。廊下でそんなことばかり考えないで今はその足で向かう。


 

 ◇



「あぁ、暇だ」


 葉凛部の部室に着いた身延はレナがいないことを確認した上でバックを適当に投げ捨てるとソファーに仰向けに寝転ぶ。

 天井を見ながらそんなことを呟く。


 今日はレナが生徒会で忙しいと言っていたので須藤先生が見にくる以外は完全フリーだった。部活を成立して日が浅いため依頼主が来るわけがないのはわかっている。


「部活のポスターなど作ってない。宣伝もしてない。だから誰か来る訳がない。まあ、俺が部長だからな。俺の自由だ。誰に文句を言われる筋合いはない」


 安心しきっている身延は目を瞑ろうとした。その時ピロンとズボンのポケットに入れていたスマホの通知音が響く。


「……気のせいか?」


 何か嫌な予感を感じた身延はスマホを取り出すことなく気のせいにしようとした。だが……ピロン。また通知音がなる。今度は気のせいではない。自分のスマホが鳴っている。


「あぁ、めんどくさい。なんだよ、誰だよまったく……」


 悪態を着きながらもスマホを取り出して中を覗く。どうせ両親だと思いながら。



『りく君。サボっちゃダメだよ?』


 そんなメールが来ていた。

 そして二軒目のメール。


『そうだ。言ってなかったけどその部室の至る所に……監視カメラ付いてるからねぇ』


「!?」


 そのメール文を読んだ身延は直ぐに部室内を見渡す。


 監視カメラだと……何のために……俺の監視の為か。監視役とか言ってたよな。だが流石に監視カメラは冗談……だ……あれ、監視カメラじゃね?


 身延が寝転んでいるソファーの右横にある本棚。その本棚を注視する。

 よく見ると真ん中に不自然に間が空いていた。その他の場所はしっかりと本があるのにも関わらず。


 確定だろうな。別方向から見ると光の反射かレンズが光っているのが見える。

 レナ・グリーン。恐ろしい女だ。他に監視カメラがあると言っていたのもまた末恐ろしい。


 あの時レナが言ったそれはこう言うことだったのか、と。


『あっ、反応してくれたね。私がいない間りく君とは離れ離れになっちゃうけど、これだったら一緒にいれるね! しっかりとからもりく君の様子が見えてるよ〜。だから誰もいないからってダラけちゃダメだよ?』


 身延が怯えている時、レナからそんな優しいお叱りのメールが届いていた。

 そのメールを見た身延は起き上がり姿勢を正すとしっかりとやることに決めた。


『悪かった。つい一人だと思って油断した。次からはしっかりやる』

『ううん。初日だもん。私もそんなに人が来るとは思っていないから気にしてないよ〜。ただ一応監視役としてね』

『そうか。了解。レナも頑張れよ』

『えへへ、ありがとう。じゃあ、私は戻るね〜』


 そこでレナからのメールは途切れる。だがまだ安堵はできない。今の状況でもこちらは常に監視されている状態なのだから。


 楽なものかと思っていた部活。

 見えないところに落とし穴があったようだ。







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