第6話 森の中
用意してもらった馬に乗り、ミック達は案内人と共に森へ向かった。
「ここまででいいですか?」
森まで同行してくれた町人は、ミックたちが頷くのを見ると逃げるように町へ戻っていった。借りた馬は安全を考慮して森の入口に繋いでおいた。
日の光が程よく入り穏やかな雰囲気の森だ。ただ、本来するはずの鳥や獣の鳴き声や気配は全くしなかった。ミックは辺りを見回した。注意深く見なくとも、蹄鉄の跡があったり低い木の枝が折れていたりし、馬が通ったところは明白だった。
「やっぱり、ドーミー町長の言ってた洞穴に行ったかもね」
ディルが太陽の位置を見て方角を確認した。
「な、何でわざわざ?その洞穴ってどこにも繋がってないただの大きな穴って言ってたよな?や、奴らにしたら速く遠くへ行きたいんじゃないのか」
シュートの声は震えている。なんなら手も足も震えていた。
「ガラは陽の光の中じゃ動きが鈍るんだよ。それに、南中の太陽光を浴びると消滅する」
ミックは随分前に隊の座学で聞いた話を思い返しながら答えた。
逆に夜はガラの天下だ。夜目が利くし、力もスピードも上がる。討伐するには今のような時間帯がベストだ。ガラ基礎学の座学を受けていた当時まだ実戦経験がなかったミックは、そんな強力な化け物と自分が対峙したら…と想像しては恐怖に押しつぶされそうだった。訓練経験も知識もない今のシュートは、きっとそれ以上に怖いはずだ。必要な経験だと半ば無理やり連れてこられたとはいえ、ここまで来たシュートをミックは尊敬した。
突如、先頭を進んでいたディルが右手の拳を握る「止まれ」のハンドサインを出した。
「一体どうしたんだよ?洞穴まではまだ……うおっ!」
シュートのすぐ隣の木の幹に矢が突き刺さった。すぐ後ろにいたミックは、咄嗟にシュートのシャツの襟を強く引っ張り、半ば転ばせるようにしてしゃがませ茂みに隠れさせた。
自身もしゃがみ茂みに身を隠し弓を構えた。
「ちっ……何体だ」
ミックたちの少し前で矢を避けるように木の幹に身を隠したラズが、苦々しい顔をしている。ラズのすぐ傍の地面にベルは伏せ、シュートを隠した茂みのすぐ先に木の幹に体を添わせディルは身を潜めていた。ミックは茂みの隙間から様子を窺い、ラズに見えるよう三本指を立てた。およそ五十メートル程前方にガラが三体見える。ゆらゆらと動いており、体の芯がしっかりしていない。ここからは盗まれた馬は見えない。
「俺が行く。矢で牽制して敵の気を引け」
そうラズが言った途端二本目の矢がラズの隠れている木に突き刺さった。ミックは葉と葉の間から敵を凝視し、しゃがんだままきりりと弓を引いた。パシュッと軽い音を立てて、矢が飛んでいく。狙撃してきたガラの左肩に命中した。倒すことはできなかったが、これであのガラは矢をしばらく放てない。よく見ると、あとの二体のガラは剣を構えている。恐らくすぐには遠距離攻撃は来ない。
「行って」
ミックはほとんど声を出さず、ハンドサインを出した。それを見たラズは低く身をかがめて駆け出した。迂回して近付くようだった。「私も」とラズのすぐ後ろにいたベルが後を追った。影が茂みの上を滑る。ラズのスピードもさることながら、それについていくベルの身体能力はずば抜けている。
ミックはばっと立ち上がり、三本立て続けに矢を射る。指先に響く弓の唸り。一本は先程肩にくらっていた狙撃手のガラの胸に当たった。狙撃手のガラの体がサラサラと崩れていった。心臓を貫いたのだ。一本は他のガラの頭に、もう一本はもう一体のガラに剣で払われてしまった。
ミックが新しい矢を構えようとしたその時、後ろから牛が風邪をひいたような、低いゴーゴーとした唸り声がした。振り向くとガラが剣を振りかざしていた。が、動きは鈍い。これなら避けられる、と思ったがここでミックが避けては、背後で縮こまって震えているシュートに刃が当たる可能性がある。
弓矢を地面に投げ捨て、ミックは腰の短刀に手を伸ばし柄を握った。しかし、震えが酷く力が入らない。息が止まり、心拍数が跳ね上がる。夜の森、血の匂い、倒れる父親。
やっぱり剣は駄目だ―骨折のおそれがあるが小手の防具で受けるしかない、と短刀から手を離し、衝撃に備えてミックは体に力をぐっと入れた。
しかし、剣は振り下ろされなかった。ミックとシュートの後ろから飛び出したディルが、二本の短刀でガラの心臓を突き刺していた。短刀二刀流でこの身のこなし!さすらい人は戦い慣れているのかもしれない、とミックは舌を巻いた。
ガラは消え、剣だけが音を立てて地面に落ちた。辺りを窺ったが近くにはもうガラはいなさそうだった。しかし、何故か足元の草に霜が降りていた。春の暖かい日にはかなり不自然だったが、ラズ達の方が気になったので、ミックはそれについては深く考えず先程矢を飛ばした先に視線を戻した。
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