第30話 たのしいおちゃかい

 学園の1週は8日からなる。

 5日連続で講義日があり、その後3日間の休講日があるのだ。これを12週で一学期、その後3週分の学期休みを挟んで次の学期が始まる。


 15週×3学期=360日が学園の一年だ。

 ただし最終学期の休みは入学・進学の準備などのために追加で12日分あって、それによって372日という一般的な一年と足並みをそろえることになる。


 さてそんな学園での、新入生たちにとっては初めて迎える休講日。


 例年その日が『一斉加入日』と定められていた。


 一斉加入日。

 生徒たちがクラブや委員会へと所属するための一大イベントである。

 クラブによっては年がら年中部員募集のところもあるし、委員会にもときおり中途募集があったりするが、生徒会や風紀委員などの大手は基本的にはこの日にしかメンバーを募集しない。

 これには新入生たちだけでなく委員会に所属したい上級生なんかも参加するため、学内ガイダンスよりもずっと規模が大きくなるのが一般的だった。


 今年もどうやら例には漏れないようで、校舎内はお祭り騒ぎである。

 なにせクラブや委員会にとっても大々的に部員を募集できるまたとない機会なので、ビラや勧誘の声が飛び交っていた。

 製造系のクラブなどはお菓子や小物なんかを配っていたりもするし、魔術系のクラブは害のなくかつ派手な魔術を披露して目を引こうとする。一角でふたつのクラブが殴り合いしているのに乗じてゲームクラブのようなものがちょっとした賭け事を催していたり、占いクラブが勝敗予想を教える代わりに所属を求めるような光景もざらだ。


 なにせメンバー数というのは部費にもかかわる重大ごとなので、どのクラブも必死である。


 おかげで警備担当の風紀委員会も大わらわらしく、ちらほらと取り押さえられたりする生徒も見受けられた。


《げはは、めちゃくちゃだぜ》

「酔ってしまいそうね」


 おかげでベルがいつもより少し気合を入れて人除けをしても効果は薄い。

 幸いにして話しかけられることはないが、単純に人間が多すぎて避けようもないのである。


 それでもほかの生徒よりははるかに快適な道を歩いて、アルフェがやってくるのはカーテシー三姉妹の部室である。


「「「ようこそいらっしゃいました」」」


 しゃなりと礼に迎えられ、アルフェは人心地つく。

 とりあえず入部の書類にサインをして、四人でのんびりとテーブルを囲んだ。


「活気があっていいことね」「このあたりは多少静かだけれど」「先輩方は勧誘はなさらないのですか?」「あまり大きくする必要もありませんので」「もちろん志のある方がいらっしゃれば否はないわよ」「いちおういつでも部員は募集しているの」「あなた以上に素敵な方はきっといらっしゃらないでしょうが」「光栄です」「ところでお茶の進みが少し遅いですよ」「帝国式ではゲストが最も早く飲み終わらなければなりませんから」「きちんとお教えしたと思うけれど」「かつての女帝も華と戯れ時を忘れたとあります故」「あらあら」「まあまあ」「お上品とは言い難いけれど、悪くない気分です」


 毎日時間を作ってはスパルタ練習に励むアルフェは、今ではすっかり三姉妹との会話にも慣れてしまったので、まるで四人目の姉妹みたいに溶け込むことさえできてしまう。

 その間ベルは死んだ獣みたいにアルフェの膝の上であおむけになってだらんとだらしなくベロを垂らしているが、これも礼儀作法のS評価のためなのだから我慢してもらわなければならないのだった。


 アルベレオ帝国式茶会は、『礼儀作法』のルール先生が最も気に入っているお作法なのである。

 お茶の進み具合から一挙手一投足に至るまで、徹底的に仕込まなければすぐに減点されるだろう。


「カップの角度がズレていますよ」「一口の分量が不均一ね」「視線をもう少し美しくするべきです」「承知いたしました」

《……視線ってなんだよ視線って。美味けりゃいいだろなんだって……》


 積み重なる指摘に、アルフェは精神を研ぎ澄ます。

 どうやら、なんとも長いお茶会になりそうだった。

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