葉加瀬羽風の研究レポート②

 ロジーをわたし以外のほかの誰かに会わせてみたら、何か大きく変化があるんじゃないかと考え、わたしは高校から付き合いのある友人のエリカと、ロジーを接触させることにした。


 わたしの考えは正しかったようで、ロジーは今まで見たことのない表情を見せてくれた。それはもうアンドロイドとしての表情かおではない、一人の人間そのものだった。


 この収穫はとても大きい。アンドロイドに感情を持たせる、これは可能であるということを、今日の実験を持って証明してみせたのだから。


 ……だが、少し悔しい気持ちもある。それは、ロジーの感情を突き動かしたのは、わたし自身ではなく、エリカだということだ。わたしだけでは、ロジーに心を持たせることはできなかった。


 そして、今回の実験を経て、もうひとつの問題が浮かび上がった。それは最初にわかっておけよ、というような話なのだが、わたしの目標は、ロジーに感情を持たせてロジーに好かれたいということ。しかし、これはよく考えてみれば、ロジーが感情を持ったところで、ロジーが確実にわたしを好いてくれるかどうかはまったくの別問題なのだ。


 感情を持ったことで、わたしを好きになってくれるかも知れないし、しかし同時に、わたしのことを嫌いと認識する可能性だって大いにあるのだ。


 ロジーの感情は、ロジーが決めるものだ。


 好かれたいというのなら、好かれるための行動をしなければならない。


 ……ロジーが好きなタイプは、どんな人になるんだろうか。


 それはまだわからない。


 それに、現段階では感情のようなものを持ちはじめたことは見受けられるが、どうやらロジー本人は、感情というものを自覚していないようだ。


 まだまだ時間はかかるだろう。だが、今からでもロジーの好感度を上げるための行動はしておいて損はない。


 とりあえず、任せっきりの家事を、少しでも手伝うことから始めるかな……。


 最後に、今回の実験で一つ気になった点があった。


 エリカがわたしたちの関係について聞いたときだ。いつからいっしょにいるのか――それは、わたしがロジーを起動させた『一ヶ月前』と答えても何ら違和感ない回答になったはずなのに、ロジーはあのとき、『十六年前』と答えたのだ。


 ――『十六年前』。


 どうして、そんな数字が出てきたんだ。

 そんなこと、知っているわけがないのに。


 わたしは、だ。


 どこかで、一部消去漏れがあったのかもしれない。ロジー自身、どうしてあの数字が出てきたのかわかっていない様子だったし――その数字だけが、記憶に残ってしまっていたんだろう。


 改めて、ロジーの記憶を点検する必要がありそうだ。今日の夜にでも、ロジーが充電中の隙を見て、確認してみようと思う。

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