第63話

私の朝はリルのお乳を吸う子狼たちを眺めることから始まるようになった。まだ目も開いていない子狼たちは一心不乱に食事をとる。そのかわいらしさに私はやられてしまった。いつまでも眺めていられるのだが毎回数分眺めると執事から首根っこをつかまれ食堂まで連れていかれる。私は猫か!。


そんな平和な日常を送りながらも毎日世界樹と屋敷の往復は欠かせない。世界樹の葉も数が増えてきており、一日二枚分けてくれるようになった。薬に使いたい気持ちを抑え薬草の栽培に葉の一枚を使用する。


世界樹付近に薬草を植えたため屋敷の薬草が不足気味なのだ。これを機に大量に薬草を育てて絶滅した土地に送る薬草を準備するつもりだ。


木工屋の奮闘もあり、薬草運搬専用の馬車が完成したようだ。どうやら街中の木工屋が部品を分担して作成したらしい。まずは実験として隣領に薬草を運送するそうだ。また、兵士の数が減るのかと心配したが運搬関連は全て薬草を受け取る領が担当するらしい。


大量の薬草を輸出することから領の財政もウハウハなようだ。と領主様が話していた。


まあ、治療を行うためにこの街に来る人が大量に増えたのでその税収だけでもウハウハなのだが・・・。人の欲望は限界を知らないようだ。


ポーションの件は一段落着いたが、次は治療師を派遣する件だ。希望者がいればとなっていたのだが見事に希望者ゼロ。と言うわけでこれも実験の意味合いを込めて隣領から治療師と言うか希望者が派遣されてくることになった。


なぜ希望者なのかと言うと治療師という役職があるのがこのエラデエーレ領だけであったためだ。派遣の選抜には大量の人が集まり結局は貴族の女性とそのお付きが来ることになった。


治療に関する説明は、他の治療師が担当してくれることになっている。こちらは給金にボーナスが付くという話で担当者の取り合いが発生したらしい。


それはさておき。


隣領の薬草と治療の一件が一段落ついたところで私が暇になるかと言われれば全くならない。相変わらず世界樹の元には赴かなければいけないし、他の領に送る薬草も栽培しなければならない。それと急務になっているのは私直属の諜報部隊の強化だ。前回暗殺者が来た時に使った魔法は既に詠唱を作り教えてある。その他適宜必要な魔法があれば知らせるようにしながら諜報活動をしてもらっているのだが厄介事の情報が出るわ出るわ。


しかもこちらの国の意見を聞かない国からの間者が大量にいることから国王に対応してもらっても知らぬ存ぜぬで通される。


と言うわけで(どういうわけ?)私直属の暗殺部隊が設立されることとなった。この暗殺部隊は魔法の素養が高い物が選別されており、世界樹の麓に植えた薬草を使わなければ完治できない程の傷や病気を負った者で構成されている。


何が言いたいかと言うと私への忠誠心が半端ない。普段から修行と称して魔の森へ狩りに出かけるほどの腕前となっている。扱う毒物を調合しているのは私なのでそちらの方も修行してほしいのであるが。


そんなこんなで忙しい中時間を作って領主邸へやってきた。今回もアポイントメントなしで直接乗り込んでやった。


「それで何の用だい?」


何故か涼しい顔で迎えられてしまったがそれはいい。


「諜報部隊と暗殺部隊が仕事をしすぎてその管理が私の時間を圧迫しています。と言うわけでそれらの事務仕事を処理する人材を派遣してください」


「こちらも限界に近いのだが君に動けなくなると限界を超えてしまいそうだな。執事を三人そちらに向かわせる。これで勘弁してくれ」


「意外と大盤振る舞いですね」


「これから君の仕事が増える予定だからな。他の人材は君がスカウトしてくれ。金ならこちらよりもあるだろう?」


領主様のにやけた顔に一撃入れたくなった私だった。

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