32-普通この年齢では上からの圧力なんかないはずなんだが
「調べてきました。」
俺は師匠にメッセージを送った。
大した情報は得られなかったが、能力者が関わっていることと車のナンバー。それは伝えた。
数分と経たないで師匠から返事があった。
「喜べ。大当たりだ」
大当たり。やっぱり組織案件だったようだ。
「師匠の言ってたやつですか?」
「そうだ。車のナンバーで特定出来た。良平、これからは指示に従ってもらうことになる」
師匠たちが調べている案件と被り、行動が制限されることになった。それは残念だった。
しかし、それよりももう車のナンバーも調べ上げられているなんて。そっちの方に気が行った。流石師匠。素晴らしい情報網だ。
「車の持ち主は池崎虎次郎。その車を主に使ってるのはその息子の鯉弥らしい。最近周りには龍弥と呼ばせているらしい」
「そんなことまで?」
「こいつのことは以前から調べ上げられていたようだ。そろそろ……お前は指示を待て」
「古今泉の姉に関しての情報はありませんか?」
「古今泉百々華に関しての情報は、特にない」
「そうですか」
「最新の情報も後で確認しておいてやる。それも待っていろ」
「はい」
師匠からの指示には従う必要がある。待つことにしよう。
あ、そうだ。これについては聞いておかなくては。
「今日は息子の……龍弥が車に乗ってて、能力を感じたんですが、龍弥が能力者ってことでいいんでしょうか?」
「龍弥が能力者なのは間違いない」
「龍弥の能力については?」
「龍弥の能力は調査中らしい。ふざけている。怠慢じゃないか」
師匠は悪態をついた。恐らく手元にある資料には龍弥の能力の詳細は載ってなかったのだろう。捜査の不備に関しては師匠はうるさい。仕事は準備で決まるというのが師匠のよくいう教えだった。俺に対してもとばっちりが来るかもしれない。理不尽なとばっちりは何とか回避したい。そう思って俺からも質問を投げかけた。なんとか怒りが逸れることに望みを託して。
「えっと、それだけ龍弥の能力は確認が難しい能力ということでしょうか?」
「わからん。それも確認しておく」
と師匠が言った後、釘を刺された。
「良平、勝手に動くなよ」
「はい、承知しています」
師匠との会話で俺は待たなければならないことがわかった。
古今泉にも伝えなければならない。
朝起きて俺は古今泉にまた連絡をした。
「今日も話さなければならないことがある。また学校後に話したい」
「わかった」
「また公園で」
何となく学校内で話すことが躊躇われた。
授業が終わり、また俺は校門を出て、公園に向かった。
今日も人がいない。
高校生ともなるとこんな公園に用事もないだろうし、遊具的に適している小学生も高校が近いこの場所は憚られるのかもしれない。
昨日と同じようにベンチに座って古今泉を待つ。
また俺が待ってから5分後くらいに現れた。
「ごめん。今日も掃除が長引いて。どれくらい待ってた?」
「いや、そこまで待ってない。5分くらいだ」
「そっか。ごめんね」
古今泉は謝りながら俺の隣に座った。
「それで、話って?」
「昨日の車の持ち主のことだけど」
「ああ、うん。知りたかった。何?」
「アレは俺の方に関わっていたみたいで。今は俺から調べるのはできない」
「は?あ、は?って言っちゃった。どういうこと?木々村くんのことに関わっていたのに、木々村くんが調べることができないって矛盾してない?」
古今泉の不満ももっともだ。ここは俺にはどうしようもないことを説明しなければならない。
どう言ったら伝わるのか。
「上に止められた」
「上かぁ」
アレ?もっと詰め寄られると思ったのに、すんなりと納得された?
やけに物分かりがよかった。
「いいのか?もっとないのか?」
「うーん。いやぁ、上に止められたんじゃ仕方ないよなぁって」
「やけに素直なんだな」
「ううん。素直というか、上意下達の組織においては上の命令って絶対じゃん?軍隊みたいなさ。だから仕方ないよなぁって。諦め?」
組織、というのは俺が所属している組織のことを指しているのではなくて、一般名詞としての組織のことだろう。そういう文脈だと信じたい。
だが、上意下達の組織、とは。
「違ったらごめんだけどさ、木々村くんって、どこかの組織のエージェントみたいなことしてるんでしょ?」
「え?」
何だそれ?と誤魔化すしかない。俺は内心テンパった。
「ごめん。何でもない。気にしないで」
古今泉の方から話題を切り上げてくれた。
正直助かったが……。しかし、俺の発言からもそうだが、古今泉は確信を持ってしまったかもしれない。
しかし、凪元にも古今泉にも似たようなことを言われている。俺は一体どうなんだ?
こんなにも勘付かれるなんて……。情報が漏れすぎている。
潜入任務、向いていない。
俺は少し心にダメージを負った。
気が重い。
何らかの組織に属しているとすぐに疑われるのは、明らかに師匠に報告しなければいけない案件だ。
「はぁ……」
深いため息が出た。
「ごめん、木々村くん。変なこと聞いて」
「いや、すまん。なんていうか、古今泉が悪いんじゃないから」
落ち込んでしまったら、俺が古今泉が悪くないと言ったとしても、本当は古今泉が悪いと認めたみたいになってしまうじゃないか。
俺は何とかして奮起しようと言葉を紡いだ。
「俺は指示待ち状態なんだ。前、轟剛力とやり合った時に下手を打って、それで厳しく言いつけられてる」
「うん」
「だから、指示があるまで待ってて欲しい。申し訳ない」
「ううん。謝らないで。私から頼んだことだったから。協力してくれるだけですごく嬉しい」
「古今泉も、今は無茶をしないで待っていて欲しい。これは俺たちの案件みたいだから」
「話はそれだけだ。指示が来るまで俺は動かなくなった」
「うん……」
消え入りそうな声だった。どうしようもない状態に対しての気落ちが感じられた。
それはそうだろう。解決のために俺に話しかけたというのに、解決どころか、調べることさえままならなくなったんだ。
古今泉は本気で姉を心配しているのだろう。
昨日までは古今泉の狂言説が頭をよぎっていたが、俺の中では既にその余地は消えていた。
本気で姉を心配している妹の力にならないわけにはいかない。
何か彼女のためにしたくてもどかしい気持ちになった。
「だけど、もし古今泉が動きたくなったら、あるいはお姉さんが何らかの行動を起こしたら、教えてほしい。何とかできるよう、師匠に掛け合ってみるから」
師匠に掛け合ったとしても望む結果が得られるとは限らないのだけれど。
「うん。ありがとう」
古今泉は俺に笑顔を向ける。
だがそれは、表情は諦めが入った、俺に気を使った笑顔だった。
「お姉ちゃんが心配。木々村くんが止められるのは、重要なことだから、止められるの?それとも、関わらない方がいいから止められるの?」
古今泉は随分と突っ込んだ聞き方をしてくる。しかし、この話をする際にはある程度述べることは覚悟していたことだ。さっきは誤魔化してみたが、やはりもう誤魔化しはきかないのかもしれない。
「多分、俺たちが勝手に動くと迷惑になるから止められた。ちゃんと作戦が練られているのだと思う。敵に関しては容赦ないけど、基本的に巻き込まれただけの一般人を蔑ろにすることは少ない。だから、お姉さんが巻き込まれただけなら、師匠たちはちゃんと考慮してくれると思う」
俺は自信なかったが、精一杯言える範囲のことを言った。今はこれが限界だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます