26-場違いなところに連れて行かれて、周りからはどう見られるのか?


学校の外にある公園にいたのに、古今泉の先導で学校に帰ってきた。こっちに心当たりの人がいるらしい。


校舎の中に入る。

今まで行ったことない廊下の道を通り、校舎の端の方に来た。


生徒会室だ。

「失礼します」


古今泉がノックをして入る。

俺もついでに礼をして入る。




古今泉の姉は、前年度の生徒会長で、現生徒会のメンバーと仲がいいということだ。古今泉は行きたくはなかったようだが、観念して話を聞きにいこうということになった。

行きたくなかった理由は教えてくれなかった。



生徒会室というのは見たことなかったが、普通の教室よりちょっと狭く、金属の製でガラスの窓がついている棚(引き違い戸のスチールキャビネットというらしい)が置いてあったり、ポッドみたいなもの(瞬間湯沸かし器というらしい)や食器が多少置いてあるなど、普通の教室と中の設えの違いはあれど、床のタイルの質や壁の質は変わりがなかった。

ものはあれど、普通の教室と変わりがないんだな。


そんな感想を抱いた。


中には男子生徒一人と女子生徒が2人いた。


「あれ、古今泉先輩の……あ、そうそう。未来ちゃんだ」

「はい。こんにちわ」

「それと……君は……?」

女子生徒の一人が俺の顔を見て首をかしげる。

「木々村です」


「ああ、君が木々村くんか。今ちょっとした有名人だよね」

またこの話題か。轟剛力とのやり取りがこんなところまで及んでいる。


「はい。お陰様で。どうも」


「ごめんごめん、気を悪くしないでね!」

ポンポンと肩を叩かれた。

彼女は俺の顔を見て、不機嫌になったと思ったようだ。

全然そんなつもりはなかったのだが。

言い方の問題だったのだろうか。


「それで、今日はどうしたの?」

「はい。姉のことなんですが」

「百々華さんがどうかしたの?」

「最近、夜に出かけることが多くて……。あの、こんなこと聞くの、変だと思うんですけど、お姉ちゃん、生徒会の人と仲良かったから……」

「そうか。そうだね。うん。そういうことね」

「ごめんなさい。何か知ってないかなって」

「うーん、私は知らないかな。夜に出かけてるってことも今初めて知ったし。みんな知ってた?」

彼女が他の二人にも会話を促す。

「いえ、知りません」

と男子生徒。

「私も知らない」

ともう一人の女子生徒。

「だよねぇ。私が知らなかったら知らないよね」

彼女はこちらに向き直った。

「会長なら、もう少ししたら来るかもしれないから待っておく?」

「はい。いいですか」

「うん、大丈夫だよ」


俺必要か?と思ったが、古今泉に「ここにいて、お願い」と言うかのように制服のそでを引っ張って主張されたので、生徒会室では俺まで待つことになった。座るところを案内され、お茶も提供されてしまった。

生徒会の面々はマイコップがあるらしくそれで飲んでいたが、古今泉と俺には、ちょっと小さめのティーカップで提供された。これが来客用というものか。

お茶を出してくれた女子生徒に「なんでこいつここにいるんだ?」という視線もいただいた気もするが、俺もなんでここにいるのか?と疑問に思わないでもなかった。その答えとして思いつくのは、古今泉が来たくもないところに来たから、一人では心細いんだろうな、と思うくらいだった。

出されたものを無下にはできないので、大人しくお茶をいただいた。

うん、紅茶だ。俺は紅茶には詳しくないので、何の種類かはわからないが、ティーパックで作ったお茶だ。



最初に対応してくれた女性が副会長の平賀縁(ひらがえにし)2年生。

ボブヘアで古今泉ほど長くない髪の量。詳しくはワンカールボブヘアというのだそうだ。傍から見てるだけでも強いリーダーシップを感じる。

男子生徒が書記の1年生水沢上中(みずさわかみあたる)。体格は凪元よりはでかい。そりゃそうか。凪元より小柄な男子はそう多くはない。彼は寡黙に粛々と作業を進めている。

もう一人のお茶を出してくれた女子生徒が会計の夢見坂悠乃亜(ゆめみざかゆのあ)。ロングヘアで、後ろで髪を束ねていた。ポニーテールではない(あとで殿子さんに聞いたところハーフアップだね、と教えてもらった)。修飾した爪でお茶は入れにくいかと思ったが、その手際は慣れたものだった。俺と古今泉にお茶を出した後は、彼女も作業に戻った。


待っている間、副会長と古今泉は話をしていた。

主に古今泉の姉のことだ。

「最近、お姉ちゃんとあまり話せてないんですよね。普段から。夜に出かけてるから」

「百々華さんが?そんなことあるんだ」

「はい。最近になってから初めて。私から話しかけてもはぐらかされるし」

「受験のストレスとかかな?でも、百々華さん、成績とかは余裕でしょ?」

「多分。でも最近のことはわからないです。夜勉強できてないと思うので」

「あー、そういう心配もあるね。あの人のことだから何か考えがあってのことだと思うけど」

「そうだといいですけど」


などと話していた。


古今泉の姉は相当勉強ができるようだ。うらやましい限りだ。俺はそこまでできるわけじゃないから、定期テストというものがどんなものかわからず怖い。


俺は会話に混じろうとしなかったが、副会長が話を振ってきた。

「木々村くんは、どうしてここに?」

「付き添いです」

「そうなんだ。未来ちゃん仲良かったんだね」

「あはは。そうなんです」

古今泉が言う。

俺が彼女を認識したのは今日だったが。それなのに仲が良いというのを認めさせなければならなかった。申し訳ない。


こんな話をしていると、ガラガラと扉があいた。

男子生徒が立っている。すらっとして、背が高い印象を受けた。実際は俺より少し高いくらいかもしれないが。

「あ、岩石動。お客さん」

「未来ちゃん?」

「そう」

「あと、あれ?そっちの子は?」

「木々村です」

「ああ。そうだったね」

どうやら、俺の顔は知っているらしかった。それほどまでに知られてしまっているのか。俺は当然、この人を知らない。

「会長の岩石動仙人(がんせきどうひとひと)。よろしく」


「よろしくお願いします」

俺も返事をしておいた。

岩石動は古今泉に向き直る。

「久しぶり。どうしたの?」

「あの、お姉ちゃんのことについて聞きたくて」

「え?何かあったの?」

何かあったの?ということはこいつも知らないんじゃないか?俺はそう思ったが、とりあえず、古今泉の出方を窺った。

「最近、お姉ちゃんが夜出かけて帰ってこないことが多くて。何か知らないかなって」

「え、夜遊び?あの人そんなことしてるの?受験生なのに?」

「岩石動さんも知りませんか?」

「うん。知らなかった。実は僕、最近百々華さんと連絡とってないから」

「え、そうだったの?」

声をあげたのは平賀だった。

「うん。あまり言いたくはないけど。実は、4月に入ってから別れてね。別に嫌いになったとかではなかったみたいだけど、受験生になって色々と思うところがあったみたい」

「うそ……知らなかった」

これを言ったのは古今泉だ。

手で口を覆っている。

岩石動と古今泉の姉が仲がよかったということのようだ。二人は恋人同士だった……ということか。深いことはわからないが、だから、古今泉がここに来るのを嫌がったのかもしれない。

しかし、古今泉自身は姉が別れたことを知らなかったらしい。

そういうこともあるんじゃないか、とも思ったが、古今泉にとっては衝撃的だったらしい。

「そうか。やっぱり知らなかったんだね。ごめん。わざわざ来てもらったのに」

「いえ、すみません。いきなり押しかけて」

「ううん。いいよ」

「あの、ごめんなさい。あまり聞いていいことかわかりませんが、別れたのいつですか?」

「え、4月だよ」

「4月のいつくらいですか?」

「中旬、だったと思うけど。ちょっと待って」

そういって岩石動はケータイを取り出す。そして、それを操作して何かを調べ始めた。

「あった。えーと、具体的には14日かな。引継ぎが終わってちょっとしてから、別れたよ」

「すみません。ありがとうございます」

流石に古今泉は申し訳なさそうにしていた。

「いいよ。何かの助けになれば幸い」

言いたくないと言っていたのに、わざわざ調べてまで教えてくれるなんて、会長、いいやつだな。なるほど。会長になるだけの人徳もあるのかもしれない。

副会長の平賀に負けないほどのリーダーシップ性があるのかもな。この短い時間で分かった気になるのは危険だが。

「でも、夜遊び?何してるの?」

「夜遊び、というか。夜出かけて。何をしているのか、具体的には知らないんです。本当のこと知るの、少し怖くて」

「まぁ、確かに」

岩石動が同意する。

「でもこのままじゃ、ダメだと思って。私の方からお姉ちゃんに歩み寄ろうと思って」

「そうか。僕からは協力できることは少ないと思うけど、何かわかったら連絡する」

「はい。よろしくお願いします」



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