19-帰宅後、師匠への報告


結局、俺が選んだことは、実りのないことだったらしい。

凪元の心を多少は動かしたらしいが、俺は空気の読めない部外者だって烙印は押されたままだろう。

凪元には邪魔だなんだ、と言われっぱなしだったしな。

今日のことは確実に師匠に話さなければならない。

なんと言えばよいのか。帰途についてる今から頭を悩ませる。



あの後は俺の方からもいくつか質問をした。

死にそうだったらしい怪我をしていたにしては俺は軽傷のように思えた。

これなら師匠との訓練中の方が大きい怪我をしているくらいだな、と。

師匠云々の話は出さなかったが、俺がそう言った疑問を投げかけると凪元は、

「それが僕たちが使う術式」

という。痛みを和らげ、傷を少し早く癒す。それが最初の方に聞いた魔法やらまじないだということだったらしい。


いわゆる特殊能力なのだろう。

しかし、特殊能力だという割には俺には感じることができなかった。使ってから時間が経っていた?

俺は、自分に何かをかけられているということすらわからなかった。


自分にかけられても気づけない能力があるということか?

俺の能力は欠陥品なのかもしれない。少し凹んだ。

俺のこの能力が使えないものだとしたら、師匠が俺を置いておく理由がなくなってしまうのでは?そんなネガティヴな発想も浮かんだ。


考えるだけで憂鬱になった。

覚悟を決めておかないといけないかもな。


と、軽く考えをまとめたところで思い返す。


そういえばあいつの方からは俺のことをあまり聞かれなかった気がする。

凪元は俺のことを知りたいのではなかった……?


ある程度は俺のことを把握していた?


俺が質問したことに終始答えて、そろそろ時間だということで帰ることになった。


凪元は帰りの車を出すよ、と言っていた。

「いや、大丈夫だ」

と言って断った。

これ以上世話になって借りを増やすのを避けたかった。


そんな俺の心持ちを察してか、凪元は強くは言わなかった。


「じゃあ、タクシーでも呼ぼうか?」


「いや、いい。自分で捕まえる」


「いや、ここどこか知らないでしょ、木々村くん。どこで捕まえればいいかわからないでしょ。タクシーくらい家の前に呼ぶから」


それに関しては負けてしまった。

凪元が家の前までタクシーを呼ぶことになった。


「お金ある?」


俺は財布の中にある程度入ってるかを確認して、入ってることを伝えた。

入っていてよかった。



「またね」

「助かった」

俺はタクシーに乗って帰った。




師匠にも凪元の話をしなければならない。



帰って、殿子さんが俺の顔を見てとても心配してきた。

よっぽど俺の顔が変だったのか。

何があったの?ということを聞きたかったようだが、師匠に報告をすることを今回は優先させた。

後で話しますね、殿子さん。少し待ってていただきたいです。


師匠に時間をとってもらい、今日起きた諸々のことについて説明した。

色々とありすぎて、一つ一つ師匠の見解も聞きながら、いつもの報告よりはかなり長く話してしまった。



「轟剛力雷斗という生徒がいました。凪元が相当警戒していました」

「その轟剛力雷斗と戦闘になりました」

「凪元はわざといじめられていたらしいです」

「凪元は幽霊退治を専門にしているらしいです」

「凪元は治癒能力を持っていました。やつはそれを魔法やまじないの類だと言っていました」

「それは俺には感知できませんでした」


これらに対しての師匠の回答は以下の通りだった。

「凪元が幽霊退治。忍者とも言っていたか。わかった。心当たりがある」

「轟剛力雷斗は知らない。だが、凪元が警戒していたのなら有名なのかもしれないな。こちらでも調べてみる」

「いじめは狂言か」

「お前に感知できない能力の種類といったものがある。凪元の治癒能力はもしかしたらそれかもしれない」

この最後のことについて俺は特に反応した。初耳だったからだ。


「え、そんなことあるんですか?」

「ある。お前は私たちのような能力者の力は感知できるが、まじないなどの下準備を行うことによって発動する術のものは感知できない」

「初めて聞きました」

「昔にもあった。お前は覚えてないだろうが」

「昔?そんなことありました?」

「お前が私のところに来た辺りのころだ。お前に生じた能力について調べるため、色々なタイプの能力者について実験していた」

「あっ……た、ような気がします」

「いや、覚えてないだろう。お前がゾンビだったころの話だ」

ゾンビというのは勿論比喩だ。実際にゾンビだったわけじゃない。

ゾンビというのは俺があまりに生気がなく、日々を虚ろに過ごしていたことからついた呼び名だ。

師匠に引き取られてすぐは両親を失ったショックがでかく、また、師匠からハードなトレーニングをさせられ、心身ともに疲れ切っていた。それを乗り切るために俺は思考停止し、日々を過ごすことになった。その時期のことを師匠はゾンビだったころと言っている。

「申し訳ありません。でまかせを言ってしまいました」

俺の謝罪を無視して師匠は話を続ける。気にするな……というサインだと思いたい。

「あの実験から、術についての話はお前にはしなくなったな。だがちょうどいい機会だ、これから覚えろ」

「はい」


師匠からの命令は即うなづいてしまう。これも今までの訓練の賜物だ。

だが、術?フィクションにあるような魔法とかがあるというのか。

「術は私たちの能力と比べれば人工的なものだ。能力の素質がない者が能力の代替として術を生み出した。悪魔召喚とか言われるものも術の一種だ。わざわざ手順を踏み、悪魔を召還するという面倒な手続きや、供物を用意したりしなければならないが、誰にでも使えるというメリットがある」

「誰にでも使えるんですか!」

「訓練が必要だがな。素人がやっても失敗する」

「なるほど」

そうは簡単にはいかなかったようだ。

「悪魔、のような存在を呼び出す能力を持っているやつは、儀式、術式を用意しなくても呼び出せる。縫間朝仁がそれだ」

縫間朝仁とは組織の人間だ。俺も何度か会っている。

「なるほど」

「お前は術を感知できないが、術自体を封じることができる場合がある」

「え、そうなんですか」


もしそうなら、俺は完全な役立たずというわけでもない。

「お前は覚えていないだろうが。術者が術の発動している時にお前がいつもの要領で掴めば相手が術を使えないようにできる。術を使う素質、あるいは体内にある媒体といったものを消すことができるようだ。素質あるいは媒体を消された者はおそらく一生術が使えなくなる。術者相手に好き勝手に能力を発動させるなよ。恨まれるぞ」

恨まれるぞ、と半分冗談のつもりで師匠は言ったのだろう。

しかし、話を聞いて少し納得するところがあった。だから俺に術についての話をしなかったのか。幼い時の俺だったら自棄を起こしてガンガン発動させて大変なことになっていた可能性もある。

それを防ぐために、師匠は俺に術についてのことを伝えなかったと予測できる。

「凪元は恐らくなんらかの術式を使ったのだろう。話を聞く限り、お前の轟剛力への対応は最悪だった。それなのに今お前が生きているのは確実に凪元が使ったとかいう術式のお陰だろう」

「はい」

面目ない。これは指導が入る。

「凪元に感謝しておけ」

「はい」

こうなると、俺はもうただただ頷くだけのししおどしになってしまう。

「それと特訓だな。判断力が拙い。今はお前と離れているからお前を見ることができないが、私がそちらに行く時には日程を空けておけ」

「はい。すみません」

「それより前に臨時訓練……はできなさそうだな。空いている奴がいたら宛がいたかった」

師匠は自分の日程を確認し、直近ではこちらに来ることができないことを確認した。その上で他に暇がある人に、師匠の代わりに俺のところに派遣して、臨時訓練させたかったのだろう。だが、都合が合う人がいなかったらしい。

それは少し救われた。

仮に都合がついた人がいて、臨時訓練が行われたとしたら恐ろしい。時には師匠の訓練よりも無茶振りというか、きついことをさせる指導官がいる。俺が未熟だからいけないのだが、それでも、それは避けたかった。

少しずつハラハラして待っていたが、空いている方がいらっしゃらなかったようなので、助かった。俺の命が。

「お前は反省しろ」

「はい」

俺は何も言ってないのに師匠は俺が安堵したのを察知したらしい。

俺はしょぼくれた返事をすることしか出来なかった。




師匠と一通り話した後、通話を切った。

明日からの身の振る舞いを考えなければいけなかった。

凪元のこととか。あいつとどう顔を合わせればいいんだ。

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