15-圧倒的埋められない差



「俺も試したいことがあるからさ」

「人がいないってのは助かる」


試したいこと、と先ほども言っていた。

さっきもやったんじゃないかと思った。

俺には意図がつかめなかったが、轟剛力は能力を発動する。その発動を感じたことによって、改めて気付いたが、こいつ、ここに来るまでには能力を解除していたのか?

人をギリギリで避けながら逃げる事に集中していた先ほどは気づかなかったが、ここにくる間は能力を解除していたというのであれば、俺がここまで逃げることが出来たのには説明がつく。

そのことから俺は推測も立てられた。

もしかして、時間制限があるのか?一定時間以上能力を使いきれないなどの。


もしそうだとするなら、俺にとってそこはもしかしたら突破口になるかもしれない。

しかし、それは能力を使った後のインターバル次第だった。


突破口があるかも、と思ったはいいが、今の状態で何か特別な戦法があるわけではない。

相手は知性のある人型の獣だと思った方がいい。

人間だと思ってかかると、負ける。


俺は先ほどと同じようにワンパターンではあるが、構える。

今回はそれ以外にどうしようもない。


決定打をもらわないためには受け流さなければならない。



轟剛力の方から動き出す。


次の瞬間、俺は吹っ飛んでいた。


吹っ飛びの時、辛うじて見えていたのは、さきほどよりも速く俺の目の前に来たこと。

そして、顔に一撃もらったということだった。


流石にくらくらする。鼻とか折れていないといいが。

寝転んだままだと追撃されるので、立ち上がる。

しかし、一撃まともにくらっただけで、かなり厳しい。次からのパフォーマンスはどうなることやら。


轟剛力が近づいてきたスピードは先ほどよりも確実に上だった。

俺の反応は集中していたのに遅れた。


これが奴の本気か。


これがずっと続くとなると俺にとっては勝ち目はない。

しかし、これを学校で使ってこなかったということは、相手にも何か制限があり、このスピードを出し続けるということはできないということではないのか。


しかし、このスピードでずっと来られると後に待っているのは本当に蹂躙しかない。このまま後手後手に回るのは、好ましいことではない。

俺からも仕掛ける。


ここにきて、ようやく俺は轟剛力に仕掛けることになる。


相手が動き出すとその後に俺の打撃を繰り出す。

普通であれば俺の打撃は空を切る。相手に間合いに入るな、と牽制の意味になる。

けれど、いくら轟剛力の動きが速いといっても、反応速度も変わっているとは限らない。

轟剛力は動きが速いので、普通だったら届かない動きが、俺に素早く近づきすぎた結果、当たるかもしれない。


インパクトの瞬間がズレるので、威力的には全くあてにならないし、俺の方にもそれなりの反動が来ることはすぐに予想できることだが。

展開の変化を求めて攻めの姿勢を見せる。


と思ったのだが、勿論、上手くいくはずがなく。

俺の動きを見切られ全く当たらず、違うところから一撃をもらってしまう。俺のローキックを見切った上での回し蹴りだった。

重かった。


俺は思わず膝をつく。


奴は反射神経も能力によって高められる……のかもしれない。


クソ…

無理だろ、この戦い。


「いや、すげーよ。お前。俺の蹴りくらって膝をつくくらいで済むなんて。あ、これ、別に皮肉ってるわけじゃないよ。本心だから。心の底からの賛辞だから、嫌な思いしないでね」


「まぁ、でも、やっぱり、俺が最強ってことで。いつも試せてないことが試せて楽しかったわ」


と、轟剛力は余裕の言葉を吐く。

試したかったことが試せたらしい。その内容も分からず、ボコボコにやられて完敗ムードが俺の方にもたげてくる。

当然、俺もお前の方が強いと思うけどな。それは認めてやる。

だが、このまま終わるのも癪だ。必ずお前の能力を消してやる。

そう決意する。


顔をやられ、身体もやられ、ふらふらになりながらも、俺は幹が割りとしっかりと幅がある木に寄りかかる。気道を確保し、前に上体が垂れないようにする。

息を整えるのもしんどいが、言葉を自然と発することができるくらいには回復させたい。轟剛力は勿論、俺の方に敗北ムードが濃厚なため嘗め切って、俺が次の動きを繰り出せるようになるのを待っている。


俺の方から仕掛けようとしたのが、相手の好奇心を刺激したか。

自らの隙を晒す悪手を指したかと思ったが、轟剛力が時間をくれるのはありがたかった。怪我の功名ってやつか。



「まだ終わって……ねぇ……こっから俺が……やりかえす……かかってこいよ」

息が整うのを待ちながら、相手に終わらせないための言葉を何とかして吐く。三下、どころかそれ以下のセリフだが、俺は相手を挑発する。挑発にすらなり切れていないかもしれないが、相手の攻撃を誘うために。


それを聞いた轟剛力は口を釣り上げニィと笑う。

「いいね!そういうノリ。嫌いじゃないよ」


と、このまま放っておけば勝手に俺が倒れていたであろうに、わざわざ俺に直接手を下す方向に持って行けた。


俺は自己嫌悪だけどな。

だが、嬉しそうに戦意喪失してないことを伝えてくれるのは悪くない。

次の手が考えやすいってもんだ。

二撃もらっただけで俺はボロボロだったけれど。


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