詰んでる
徐々に意識が鮮明になる。頬を撫でる風の感触と、土の匂いだ。それに獣の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
恐る恐る目を開ける。上半身を起こし、両手両足、胴体とひとまず自分の目で見える範囲を確認した。特に体に異常は無いようだが……。早速、あの言葉を言ってみた。
「ステータス!」
俺の目の前にウインドウが表示された。期待と不安に心臓を高鳴らせながら、そのウインドウを覗き込んだ。
名前 カイト
レベル 1
HP 1
MP 0
体力 0
筋力 0
魔力 0
反応 0
俊敏 0
器用 0
スキルP -10000 (上限まで差し押さえ中)
所持スキル
アイギスの盾 自分のレベル+50以下の相手なら、どんな攻撃も無効化する。
天才 成長に関してあらゆることに大幅にプラス補正が掛かる。
物知りさん 質問するとなんでも答えてくれる。鑑定能力を持っている。世間話に応じてくれる。
アイテムボックス 異空間にどんなアイテムでも一つだけしまっておける。(スキルポイント不足により性能制限中)
「カイト? 俺の名前か。俺の能力値は……、なんじゃこりゃー! ステータスがほとんど0! スキルP差し押さえって何? HPたったの1? 詰んでるーーー!?」
一人で頭を抱えながら騒いでいると、頭の中で女性の声が聞こえてきた。
「欲張ってスキル貰いすぎだよ」
俺はハッとして周りを見渡したが、誰もいない。
「もしかして、女神様?」
「違うよ。私はカイトのスキル『物知りさん』だよ。色々助言してくれるスキルを女神様に貰ったでしょ」
確かにそんなことをお願いした気もする。スキル物知りさんか、この状況を打開する知恵を授けてくれるんだろうか。
「ねぇ、物知りさん! 俺はこれからどうすればいい?」
「がんばってー」
「なんか答えが雑!」
「そんな大まかな質問には答えられないよ。もっと絞って質問してくれる?」
絞ってと言われてもな……。ひとまず立ち上がって周りを見ると森の中だった。
「ここどこ?」
「ここはナロッパニア王国の北東部に広がっている森、ティバンの森だよ」
「なるほど、なろう系では定番の森なのね?」
「カイト、何言ってるの? ちょっと意味分かんないんだけど」
「こっちの話。で、俺は何をすれば生き延びられるんだ?」
「そうだねー、まずはダッシュしようか?」
「ダッシュ?」
「あー、カイトがもたもたしてるから野生の獣に遭遇しちゃった」
ガサガサと茂みをかき分けて、目の前に大型犬サイズの白い狼が現れた。
「あの白い狼……、まさか伝説のモンスター、フェンリルか?」
「ブッブー不正解! モンスターじゃないよ。あれはこの森に多数生息している獣のダイアウルフ。普通のダイアウルフは茶系の色だけど、珍しいアルビノ種だよ。レアな奴に遭遇したね! でも、カイトじゃ絶対勝てないからさっさと逃げよう!」
やべぇ、俺、HP1しかないんだぞ。攻撃受けたら死んじゃう。逃げなきゃ……。うっ、体が思うように動かない。
狼は跳びかかって俺に襲い掛かる。ギャー! 食いつかれた。痛い! 死んだ……。
「おーい、カイト。絶対防御スキル『アイギスの盾』の効果でダメージ0だから落ち着けー」
ダイアウルフは俺の腕をガジガジ噛んでいる。肌は全く傷ついていないが尖った牙が皮膚に突き立てられて痛い。
「絶対防御? でも痛いんだけど?」
「痛みはあっても、怪我はしないからもうちょっとだけ我慢して。あと15秒待って」
15秒って? 待つも何も、なす術も無くしばらくダイアウルフにガジガジされていると、突然ダイアウルフの体が浮き上がって「ゴキッ」と嫌な音がした。
その瞬間、ジタバタと藻掻くような動きをしていたダイアウルフの四肢は、だらりと力のなく垂れ下がった。
尻もちをついたまま、そーっと見上げると、体格のいい強そうなおじさんが立っていた。ダイアウルフの首根っこを片手でつかんで持ち上げている。
「お前さん、生きとるかい?」
「はい、どうにか……。ありがとうございました」
おじさんは俺をジッと見る。
「お前さん、異世界人じゃろ? 名前は?」
「カイトです」
「ワシはオウデル。この辺りで狩りをして暮らしている。異世界人は弱っちくてすぐ死んでしまうからの。ウチに来れば多少は世話してやる」
「お願いします」
オウデルと名乗るおじさんは、白い狼の死体を担ぐと歩き出したので付いていくことにした。
物知りさん、異世界人って弱いの? チートスキル貰って強いんじゃないの?
「異世界から転生してくる人たちは、欲張ってスキルを貰いすぎるから、代償としてとんでもなくステータスが弱い人ばかりだし、場合によってはデバフ付きなんてことも多いよ。カイトもこれ以上スキル貰っていたら、呪いとか病気の極悪なデバフ貰っていたところだよ」
コワ……。詐欺じゃんそんなの。
「そう? 古来より欲張り者は痛い目を見るのがお約束だよ。自業自得でしょ?」
日本の昔話的な感じか? なんか思っていた異世界転生と違う……。
欲張ってスキルをたくさん貰った事を後悔しつつ、オウデルさんの後ろを黙って付いていくのだった。
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