第10話 注文の多い初体験
カラオケ店から渚のマンションまでのおよそ30分、普通に話しているようだけど、お互いに何となく緊張しているのが分かる。
けど、それはそれで悪い気はしなかった。
なんか、ぽいじゃん?なんか、ね。
そして到着。
築10年くらいのまだ新しい感じのマンション。
2LDKにお母さんと二人暮らしらしい。
お父さんは渚が小さい時に離婚したので殆ど記憶にないと渚は話す。
なんだろう、こと家庭というカテゴリにおいて、親が四人に兄妹三人、みたいな環境で育った僕としては少し寂しく思えた。
「さ、あがって?」
「うん。ただいまー」
「あ…今の何か嬉しい…」
「そう?渚、ただいま!」
「おかえり!南君!アハッ♪新婚みたい!」
「じゃ、アレ言ってよ」
「あ、お風呂にします?ご飯にします?それとも な・ぎ・さ?」
「とりまお茶で」
「ウソでしょ?!」
「アハハッでも『アレ言ってよ』で通じるとは思わなかったからちょっと感動」
「でしょ?新妻なめんな?ふふふ♡じゃこっち来てー♪ こっちが私の部屋だから、テキトーに座っててね!」
「はーい」
おぉ…ここが渚の部屋か。
「これが女の子の部屋か…」なんて一応テンプレ通りに呟いてみたけれど、妹とか茜の部屋で見慣れているせいか別に感動はなかった。残念。
あ、ぬいぐるみどこに置こうかな。
うーん、とりあえず僕の隣に置いとくか、ちょっと緊張してるからこいつを撫でて落ち着こう。
……あれかな、もう脱いでたらいいのかな。
まずはシャワーとか浴びんのかな。
わかんね。
んー雰囲気次第が正解な気がする。
……てか雰囲気ってなんだよ。
いつだよそれ。
わかんね。
あ、場面で判断的な?
……てか場面ってなんだよ。
雰囲気と一緒じゃん。
……んー…あーもういーやめんどくせー。
渚が来たらとりま「セックスしよ」って言お。
あ、非常時用のゴム持ってるから出しとこ。
なんて、迫りくる初体験を前に、雰囲気だの手順だのを考えても正解が分からない僕は考える事を放棄した。
まったく、これじゃラヴもピースもあったもんじゃないですね。
「おまたせー♡」
「あ、渚、待ってましたさっそくセッって三脚?!」
500ミリのお茶と、何故か三脚スタンドを脇に抱えて現れた渚。
どゆこと?
「う、うん。そうよ、三脚…です。あとお茶」
「いや、うん。三脚とお茶ね…いや、何で?撮影に行くの?」
「違うの!あの…撮りたいの動画…」
「え…してるとこを?」
「そう…嫌?」
ん?僕は別に嫌じゃないけど…ただ、予想の斜め上を行く展開にちょっと驚いてはいる。
「嫌じゃないけど…」
「あ、引いちゃったらごめんなんだけどさ、別にそーゆう性癖があるとかじゃなくてね?私ね、バスケでも大事な試合なんかは録画するのね?後はフォームの確認とか。で、今日は私にとって初めてを経験する日だから、一生の記念に撮っておきたいなーと思って…。勿論私以外、あっ南君と私以外には見せないんだけど。…あの…ごめんね?だめかな?えと…今日は私にとって夢が叶う日だから…だから…」
だんだんと尻すぼみで声が小さくなる渚を見ていると、何となくいたたまれない気持ちになってくる。
しかし、リベンジポルノ問題が話題になる昨今。
まさか女性側から撮影を申し込まれた事には驚いたけれど、渚は純粋に大切な思い出を残そうとしていて、僕としても 「一生の記念」 とか 「夢が叶う」 なんて言われたら普通に嬉しくなってしまう。
つまり、僕の同意さえあれば双方にとってなんら不利益が無いただの記念撮影ってことになる。
ならば、ここは肯定以外に選択肢は、ない。
「わかった。撮ろう?僕にとっても今日は特別な日だし。思い出残そうね!」
「うん!嬉しい!じゃさっそくセットするからさ、南君ベッドに寝てみてー」
こうして、渚監督の指示を受けながらあーでもないこーでもないって位置取りを決めたり、軽くシャワーを浴びたりした後はいよいよベッドインとなった。
ちなみに、AVでありがちなインタビューシーンも撮ったりした。
あと、中に出して欲しいと事前にお願いされた。
これにもまた驚かされたけれど、
映像としても完璧に仕上げたい、という強いこだわりを感じるあたり、この子結構AVに詳しいと見える。
正直悩んだけど…OKした。
第一に、そんな少しぶっ飛んでいる彼女の感覚が凄く面白くて、惹かれたから。
第二に、「もし赤ちゃんが出来たら母体となる渚の負担が心配だ」と話したら「覚悟は出来ている」と彼女が言ったから。
彼女が覚悟を決めたのならば、僕がヒヨってる場合ではない。
それに、これはまだ渚には話していないけれど、僕は今現在で2000万くらいの貯金があって経済的にも幾らか余裕があるから。
中学生の頃、親父が「100万円あげるから運用してみな?」と一から株トレードを教えてくれて、夏休みとかを利用して奇跡的にここまで増やせたんだ。
まぁ実際には偶然知って購入した仮想通貨が爆発的に値上がりしたのが大きいけど。
そして、もし子育てに困った時は、最終的に親に助けて貰えばいいし…なんて甘い考えがあったりする。
僕らはまだ高校生、無理はしないスタイル。
と、こんな風に、セックスをするまでに責任とか将来とかを沢山考える事になったけれど、いざ始まってみたら、もう今そこにあるセックスの事しか考えられなかった。
今後の事なんかマジでどーでも良くって、無我夢中で色んな事をした。
もう本当にめちゃくちゃ楽しくて4回もやった。
「はぁ…やり過ぎた!」
「やり過ぎたね〜!あぁ幸せ〜♡あ、そうそう中さ、最初はめっちゃ痛かったけど最後の方ちょっとキモちくなったよ?次回が楽しみだなー♡」
「へー。伸び盛りなんだね。僕さ、痛いのを我慢してる渚見るの好き。あ、興奮じゃなくてね?痛いのに求めてくれるでしょ?あれが堪らなく愛しくてねー」
「あー求めちゃってたねー私。だって南君と繋がってるー!って思うと幸せで幸せでさぁ…。あぁ…また繋がりたい!ねぇもっかいしよ?ね?」
「えー…勃ったらね?僕はキスしたい。ずーっとしてたい」
「キスも好きー♡南君がだいすきー♡」
「あ…言ってなかったけど僕も好きだよ!さすがにもう、大好きだ!」
「嬉しい!夢みたいだよほんと…。でもでも南君、まだ彼女じゃなくていいよ、私」
な、なんだって?!
まさかここに来てフラれるとはさすがに思ってなかった…。
「えー…彼女になってよ…ここで振るとかあんまりだよ…」
「違う!違うの!全然フッてないから!私だって彼女になりたいよ?でもさ、南君は今日初めて一人で歩き出した…みたいな事言ってたでしょ?」
「うん…」
「だったら、もう少し歩いてみたら?もう少し自分だけの感覚で過ごしてみたら?だって私が今彼女になってしまったらさ、きっと昨日までと一緒だよ?茜が私にすり替わるだけだよ?どんな風に世界が変わるのかをさ、もっと楽しんでみたらいいんだよ。そんな南君を邪魔しないように私は暫く見守ってるからさ、ね?」
「え…」
たしかに僕は今日初めてピンになった感覚を楽しんでいたし、自分が思うままに色んな経験をしたいと思っていた。
そんな風に思っていた矢先、運命的に渚と出くわし、あれよあれよと体の関係を結ぶ事にもなった訳だけど、言われてみればここで恋人関係になれば僕のピン活動は半日で終わる事になる。
渚は、何気なくカラオケ店で言った僕の発言を覚えてくれていたばかりか尊重してくれた。
中1の頃から、変わらずにずっと僕を好きだと言ってくれた渚。
両想いになった今、本来ならば恋人関係になる事を一番に望んでいるはずだ。
なのに、あえて関係を縛らずに僕の成長を促そうとしてくれる。
渚からのお誘い、そして記念だからと言って、撮影や中出しをお願いする欲に忠実な一面と、自分の想いを優先せずに相手を第一に思いやる慈愛までも併せ持った彼女。
欲と慈愛、一見相反する二つの感情を持ちながらも見事にコラボさせてしまった。
そんな彼女は本当に僕と同じ人間か?
実は人の姿を借りた女神様なのではないだろうか。
愛と美と性を司るというアプロディーテ。
彼女はきっとそれだ。
「…渚、君ってもしやちょーいい女なのでは?いや、むしろ女神なのでは?すっごく感動しちゃった今の。ありがとう!」
「女神…かもね♪アハハ♡でもそー言いつつイチャイチャも、チューもエッチもしたいから、所詮渚はエッチな駄女神ですよ?だから、南君のピン活動?がひとしきり満足するまでは、両想いのセフレってことで♡」
凄いな…この子。
器がデカいってやつか?
そんな彼女に相応しい男になるには僕はどうしたらいいのかな。
分からないけど…色々と頑張ってみよう。
「うん…。わかった!じゃセックスしよっか。僕の女神様」
「はい♡喜んで♡」
今日、僕は小さくて、可愛らしくて、ちょっとエッチな女神様と、セフレになった。
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