温かい

公園のベンチで目を覚ますと、案の定、パトロール中の警察官に声をかけられた。寝巻き姿で公園のベンチに寝ている私は、明らかに異様な光景だろう。

「あの、すみません。こんなところで寝てると、風邪をひきますよ」

「あ、はい…」

事情を説明するのも面倒だったので、私は「旅をしているんです」とだけ答えた。

「旅、ですか?どちらから?」

「東京からです。ちょっと、色々あって…」

曖昧な返事に、警察官は少し怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も聞かずに、

「気を付けてくださいね」

と言って去っていった。

警察官が去った後、私は朝日が昇るのを待った。空が白み始め、やがて眩いばかりの朝日が顔を出す。

「さあ、今日も歩こう」

私は立ち上がり、次の目的地である小田原を目指して歩き始めた。

早朝の国道は、まだ車の通りも少なく、静かだった。時折、ジョギングをしている人や、犬の散歩をしている人とすれ違う。

「おはようございます」

声をかけると、みんな笑顔で挨拶を返してくれた。都会では失われていた、人との温かい繋がり。それが、今の私にはとても心地よかった。

小田原に着いたのは、昼過ぎだった。しかし、お金はほとんど残っていなかった。昨日の夕食から何も口にしていなかったので、お腹はぺこぺこだった。

「どうしようかな…」

途方に暮れていると、ふと、公園のベンチで休んでいる老夫婦が目に入った。

「あの、すみません。もしよろしければ、少しお話を聞いていただけませんか?」

私は、思い切って声をかけた。老夫婦は、快く話を聞いてくれた。私は、これまでの経緯と、お金がなくて困っていることを正直に話した。

「それは大変だったね。でも、あなたは一人じゃないよ。困った時は、いつでも私たちを頼ってください」

老夫婦は、そう言って、おにぎりと飲み物を分けてくれた。

「ありがとうございます…!」

涙が溢れそうになった。温かいおにぎりを食べると、体中に力がみなぎってきた。

「恩返しと言ってはなんですが、もしよろしければ、小田原城を案内しましょうか?」

私は、そう提案した。老夫婦は、喜んで承諾してくれた。

小田原城は、戦国時代の面影を残す、立派な城だった。天守閣からは、相模湾を一望できる素晴らしい景色が広がっていた。

「綺麗だねえ」

老夫婦は、景色に見惚れていた。

小田原城を後にして、城下町を散策した。古い街並みには、昔ながらの商店や、おしゃれなカフェが並んでいる。

「ちょっと、休憩しましょうか」

そう思い、カフェに入った。老夫婦は、コーヒーを奢ってくれた。

「本当に、ありがとうございます」

私は、何度も頭を下げた。

「気にしないで。私たちは、あなたに元気になってほしいだけなの」

老夫婦の言葉に、胸が熱くなった。

夕暮れ時、私は老夫婦と別れ、ゲストハウスに向かった。

「今日は、本当にいい日だったな…」

ベッドに横になり、今日一日のことを振り返る。

警察官との職務質問、老夫婦との出会い、小田原城からの景色。

「色々なことがあったな…」

でも、不思議と、嫌なことは何も思い出さなかった。

「明日も、また何か新しい発見があるかもしれない」

そう思いながら、私は眠りについた。

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