第23話 担任の先生と妹③

「お前って、俺のこと大好きだったの?」

「ば、ばっかじゃないの⁉︎」


 チサキは今日一番の大声を上げて羞恥に顔色を染める。


 ここが喫茶店であることを忘れてやしないだろうか。

 もう少し、周囲のお客さんに配慮した声量を意識してほしいところだ。


「こ、声でかいって……」

「お兄ちゃんが変なこと言うからでしょ!」

「で、どうなんだよ?」

「は? どうってなにが?」

「俺のことが大好きなのか?」

「……っ」


 チサキはただでさえ赤い顔をさらに赤くしてうつむく。


 下唇をぎゅっと噛んで、


「そ、そんなわけないじゃん。お兄ちゃんとか、お父さんの次に嫌いだから」

「俺って、そんなカースト低かったのか……」


 衝撃の事実だった。


 好きどころか、そんな嫌われていたとは……。


 額に縦線を入れるレベルで落ち込んでいると、篠宮先生が口を挟んでくる。


「そんな言い方しちゃダメだよ。タクマくんに嫌われてもいいの?」

「……っ。い、意味わかんない。諭さないでよ、あたしのこと」


 チサキはムッと唇を突き出しながら、吐き捨てるようにもらす。


 俺はポリポリと頭を掻きながら、切り出した。


「えっとまぁ、何はともあれ誤解は解けたことだし、ここからは別行動ってことでも大丈夫か?」


 元々、篠宮先生とデート中だったわけだ。


 チサキの乱入でややこしいことになったが、無事に誤解は解けた。

 これ以上、喫茶店で時間を使う必要はない。


 しかしチサキは、難色を示してきた。


「やだ。あたしもついてく」

「な、なんでだよ」


 さすがにデートに妹同伴は避けたいぞ……。


「本当に、この人がお兄ちゃんを騙してないか確かめるから」

「うっ……私、タクマくんを騙そうなんて考えてないんだけどな……」


 疑り深い妹である。


 どうしたものやら……。

 と、突然、チサキがなにかを思い出しように大きく口を開いた。


「あっ⁉︎」

「な、なんだよいきなり。どうかした?」

「シルクにご飯、あげてない……」

「なに忘れてんだよ、お前……」

「お兄ちゃんがデートに出かけたりするからいけないんじゃんっ」

「俺のせいかよ。そもそも今日は、チサキの担当だろ」

「むぅ」

「まぁ今から戻れば問題ないと思うぞ」

「そう、だけど」


 チサキは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 どうやら俺が頭を悩ませずとも、チサキは帰ることになりそうだ。


 と、話についていけてない篠宮先生が口を開いた。


「……シルク?」

「あぁ、ウチで飼ってる猫の名前です。チサキがご飯をあげ忘れてたみたいで」


 そこまで説明すると、篠宮先生の目がぱぁっと明るく輝き始めた。


「そうなんだ。へぇ、いいなぁ。私がご飯あげたいなぁ」

「な、なに言ってんですか……」


 どんだけ猫好きなんだよ、この人。


 少し呆れていると、チサキが口を開く。


「あ、じゃあこのまま一緒にウチに来たらいいんじゃないの?」

「え、いいの⁉︎ あ、でも親御さんとか……」

「今日は出かけてるから、多分、夜まで帰ってこないと思う」

「ほんと?」

「うん。だからウチにくれば? ……それなら、監視できるし」

「だって! いいかな? タクマくん!」


 篠宮先生は爛々と目を光らせながら、俺の許可を求めてくる。


 どうしよう。

 篠宮先生、めっちゃテンション上がってるし、断れる雰囲気じゃない……。


 この展開はまずくないかな……?

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