25:オストワルト子爵夫人の頼み事
オストワルト子爵の屋敷は想像以上に大きかった。
それこそ伯爵邸と言っても良いほどに~だ。
玄関に入ると執事ではなく、若い青年が出迎えてくれた。
オストワルト夫人の年齢からしてお孫さんだろうか?
「初めまして、わたしはケーニヒベルク男爵夫人と申します。
本日はオストワルト子爵夫人と約束があって参りましたわ」
「お待ちしておりました男爵夫人、どうぞこちらへ」
背の高い青年に連れられて広い廊下を歩いていく。廊下に飾られた調度品がいちいち良い品で、オストワルト家が随分と裕福な事が解る。
ほんと
青年は豪華なドアをノックして、
「お婆様、ケーニヒベルク男爵夫人をお連れしました」と言った。
やはりお孫さんだったようだ。
中から声が掛かり青年はドアを開けた。
「よく来てくれたわねケーニヒベルク男爵夫人」
「どうぞわたしの事はリューディアとお呼びください」
「あらそう。じゃあわたくしの事はそうね、お婆ちゃんとでも呼んで頂戴な」
そう言われてもそんな風に気軽に呼べる訳がなく、わたしは下のお名前でデリア夫人と呼ばせて頂くことにした。
わたしたちが挨拶を交わしている間に、案内してくれた青年はデリア夫人の座るソファの後ろに回って控えた。
わたしが席に座ると、
「突然呼び出してしまってごめんなさい。生憎若い子に知り合いがいないもので、リューディアちゃんが来てくれて良かったわ」
「わたしでお役に立てるといいのですが……」
「大したことじゃないの。
相談とはこの子の恋人のことなのよ」
「恋人ですか?」
そう返しながら、紹介してくれと言う相談だとお役に立てそうがないな~とひとりごちる。
「実はね。この子の恋人が今度誕生日を迎えるのよ。
そこで贈り物をしたいのだけど、若い子に受けが良いプレゼントを教えて欲しいの」
紹介じゃなかったとホッとしたが、今の説明で一つ引っ掛かったことがある。
「普通は恋人から貰う品ならどんなものでも嬉しいはずですよ」
「男爵夫人申し訳ございません。
恋人ってのは婆ちゃんの早合点なんです。実際は彼女とはお付き合い前の段階で、俺と伯爵令息の二人が彼女の感心を得ようと競っているんです」
ああそう言うことね。やっと理解したわ。
「そうなると相手を出し抜ける品と言うことですね」
「はい」
普通は爵位が高い伯爵が優勢なのだが、オストワルト子爵家は子爵にしてはお金があり、逆に相手側はギリギリ伯爵って感じらしい。おまけにニコラウスは背が高くて顔も悪くない。
流石にフリードリヒ様には劣るけど~とひとりごちた所で我に返り赤面した。
「さぁリューディアちゃん。お金に糸目は付けないからなんでも言って頂戴!」
そう意気込まれてもねぇ。
「いくらお金に不自由が無くともプレゼントの金額を競うのは不毛ですわ。ここは別の手で行きましょう」
「つまり男爵夫人にはなにか良い案があるんですか?」
「ええ。とても効果的なプレゼントがありますわ」
わたしはニッコリを微笑んだ。
さて令嬢の誕生日の当日。
伯爵令息は通例どおりドレスを贈ったそうだ。それに対してニコラウスは化粧品を贈った。
きっと金額比で言うと20:1くらいだろう。
値段はまったくその通り。しかしニコラウスが贈った品は一流の化粧品で、年頃の貴族女性ならば誰もが名前を知る品の一つだ。
似たり寄ったりのドレスと、誰もが知る一級品の化粧品、印象に残るのは間違いなく後者で、おまけに贈る時に『この品はあなたに相応しい』とでも言ってやれば、貴族女性ならばきっと自尊心をくすぐられるに決まっている。
これらはほんのきっかけに過ぎないが、ニコラウスが相手よりも一歩抜きん出たのは間違いない。
その後、ニコラウスの努力もあり、無事にお付き合いが始まったと夫人からお礼のお手紙を頂いた。
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