08:男爵夫人
夕食後、いつも通り執務室で仕事を手伝っていると、フリードリヒが「あっ」と何かを思い出したように声を出した。
「突然どうしました?」
「済まない。大事な用事を伝え忘れていた、明後日は出掛けるぞ」
「はい分かりました。
お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ん……?
ああ悪い。リューディアも一緒に行くんだ」
一瞬きょとんと、そして合点が言ったように頷きそう言われた。
「わたしもですか?」
「ああそうだ。夜会に出るぞ」
夜会、はて?
「無知なわたしに教えてください。夜会とはわたしが知るあの夜会でしょうか?」
「むしろ他にどんな夜会があるのか俺に教えてくれ」
「えーと『商人も夜会を開くのですか?』とお聞きしています」
「いいや開かんぞ。あれは見栄を張るために金を失うとてもくだらない集まりだ。
あんなものは時間と金の無駄以外何物でもない」
やはりわたしの予想通り商人は夜会を開かないらしい。
なのに夜会に出ると言う。
言い方からして、伝手欲しさに金を払ってまで貴族に頼んだ線は無いだろう。
では貴族が誘ってくれたから出るってのが一番可能性がありそうだけど、貴族が商人を誘うかしら?
わたしが頭を悩ませていると、
「そういえば言っていなかったか。
普段は名乗っていないが、俺はケーニヒベルクと言う男爵位を持っているんだ」
「へぇ~初耳ですわ。
まさかわたしが男爵夫人だったなんて驚きです」
我ながら平坦&無感情の声色再び。
怒ってはいない。
ただ呆れただけだ。
何も知らずに結婚した過去のわたしと何も言わなかったフリードリヒの二人にね!
しかしフリードリヒはわたしが怒っていると思ったのか、やや顔を青ざめさせながら、
「済まない。いま伝えたと言う事で一つ……」と震えた声を出した。
えーと……
わたしってそんなに怖いのかしら?
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