第6話行き着く結論

クラスに入ると委員長が笑顔(殺意)を向けてこちらに足早に来てガッと腕を掴まれた。


「ねぇねぇ音無くん昨日小鳥遊先輩が君の連絡先聞いてきたんだけどどういうことかな」


痛い痛い。爪が練り込んでる。こんな美少女が近くにいるのに恐怖が勝つことなんてあるのか。いやでも弁解しなければ。僕は善意はあれど、下心なんて一切ないんだ。真摯に話せばきっとわかってくれる。


「そういうのじゃな…」

「音無くんはいるかしら」


僕が弁解するよりも前にドアが開いて小鳥遊先輩がこちらを見る


「お取り込みだったかしら。昨日はあんなに情熱的に告白したきたのに他の女に手を出すなんて最低だわ」

「語弊のある言い方しないで!!」

「音無くん」


爪がもっとめり込む。痛い、痛い、痛い。なんでこんな目にあってるの。僕余命一週間もないんだよ。

小鳥遊先輩寿命縮めた?死ぬの?ここで。


「ところで音無くんお昼は暇?」

「ええ、まあ」

「じゃあ一緒に食べない」


元天才女優による照れながら誘う演技は見事なもので、上目遣い、潤んだ瞳、桜色に染まる頬。顔を少し隠してチラチラと見る。あぁなんて完璧なんだろう。この状況において僕の弁解は決して意味をなさず、委員長どころかクラスの男子に袋叩きにされること間違いなし。


「じゃあ昨日の場所で待ってる」


先輩がドアを閉めた刹那。僕は1時間目が始まるまでボコボコにされて、尋問されていた。僕の終活に小鳥遊先輩を助けるのが嫌になってきだぞ。

とはいえ実際少しでも多く心歪病の原因を知るべきだからお昼になって屋上に行く。


「昨日はあんなに早く来たのにやっぱり嫌になったの」

「そうじゃないよ。朝の小鳥遊先輩の凸で絡まれてたからですよ」

「私のせいだと」

「そうですよ!」

「まぁいいわ。ともかく、今日は私が話をするわ」


先輩は重々しい言葉を軽々しく話し出した。


「芸能界は嫌いじゃなかった。私は運が良かったから努力すれば結果以上の仕事とお金が返ってきた」


思い出した。あの遠く輝かしい世界で明るく笑ったり、激しくいかったり、諦めたように泣く、幼い小鳥遊先輩を。この場合想像できたのほうが正しいのかもしれない。


「よくある話かもしれないけど、私は同世代からの嫉妬の対象だった。」

「先輩のファンから仲が良かったって」

「表に立ったときはそうするしかなかった」


先輩の目は過去を見ているようだった。


「中学生なんて幼いのよ。想像以上に。私もそうだった。嫌がらせを素直に受け入れてしまっていたし、彼女たちは抑えることができなかった。そんな私の置かれている状況でもいたのよ。友だちになってくれた明里あかりって女の子が」


そのいたという過去形の言い回しに今の先輩には誰もいないのかと悲しくなる。


「私と仲か良くすると当然そっちにも火の粉がいくし、媚を売ってるだの良い子ちゃんだの悪く言われてしまう。靴に画鋲を仕込むなんてベタなものから、吐き気のするような腐った生ゴミを食べさせてきたり、地獄のような出来事が増えた。」


明里という少女と小鳥遊先輩の姿がまた妙にリアルに浮かんできて、吐き気を模様した。


「私は案外タフだった。そのあたりからやり返すようになった。でも明里は違った。耐えて、耐えて、耐えて、抱えて、限界に達していた。笑顔が嘘くさくなった代わりに、演技で流す涙は本物になって、歪んでいった。ある日の帰り道。駅のホームで私に心歪病の症状が現れた。」


ようやく語られる。心歪病になった日のこと。


「最初はなんのことだかわからなかった。明里の頭上に赤いタイマーが出現してその残りが100秒ほどになってた。私は目を擦って何度もそのタイマーを見ていた。でもなにかわからなかった。でも答えはすぐに出て、目の前にいた明里が姿を消した。線路に飛び出して見えなくなっていた。でもその意味は電車の音とともに理解した。


あぁ自殺しようとしてるんだって。笑顔を向ける明里に名前を必死に叫んだ。でも電車の音と衝突音でかき消された。絶望した。もっとこのタイマーに疑問を持てたなら、言葉や行動に気にかけていたら。後悔が頭の中をぐるぐると駆け回って泣いて、泣いて、次の日を迎えた。仕事に行くと奴らがいた。昨日出た明里のニュースをあざ笑ってた。明確に人に殺意を覚えたのはこれが初めてだった。こいつらが殺したんだ。そう思った時タイマーが奴らの頭上に現れた。80年以上の数字を恨むように見た。そしたらありえないスピードで進んでいった最初の10年くらいはいい気味だと思った。でも止め方のわからないそれは私が罪悪感を覚えても止まらず、数日になった。そして見事に彼女らは死んだ。」


きっと昨日の間に話すべきことを整理してきたんだ。感情が表に出すぎないように。

自分を止められるように。僕を危険にさらさないために。僕は冷静だった。この話を聞いても感情の波はたなびいていない。それよりももっと深いところ。この心歪病の原因となった人物が残っていないことが何より気になった。


「気づいたでしょ。この心歪病は治らない。あなたの解決策を応用することはできない。私が人との関わりを遮断するか死ぬかどちらかしか解消も解決もできない」


小鳥遊先輩はこの話の行きつく到着点を理解してた。

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