第5話 彼女の涙
連絡先の交換をしてからは頻繁にメッセージのやり取りもし、クリスマスが近付く頃にはほぼ付き合ってるんじゃないのか?と思えるくらいに距離は縮められていたと思う。
「なんだよ、結局落としたのは沢井かよ」
チッ…
鈴木の舌打ちが聞こえた気がするけどここはスルーだ。だってあんな偶然なかなかないだろ、なんて話もしたが全く聞く耳持ってくれなかったし。うん、仕方ない
実際これまで何回かデートのようなものも重ねていたのだが、冬休み、瑠美は実家へと帰省していたので俺は普通にバイトに明け暮れることになった。
しかしその後、時間が合えばまた2人で遊びに出かけるのは相変わらずで、その度に俺は彼女の気遣いや優しさに惹かれていった。
幸いなことに彼女も同じように感じてくれていたようで、バレンタインの日、手作りチョコを貰った俺はその時告白し、俺達は付き合うこととなった。
そして春になり俺達は進級した。
その後も2人で過ごす時間は楽しく、癒されるものがあった。彼女の部屋で手料理を振舞ってもらい、家庭的なところにまた改めて惚れ直したりとしている間にも月日は流れ、気が付けばもうクリスマスが近付く季節となっていた。
2人きりで過ごす時間もかなり増えていた。
ただ、一つだけ気になることがあった。
それは、そういう雰囲気にならないこと。
そういう雰囲気というのは、つまりあれだ
もちろん仲はいいと思ってる。たぶん客観的に見てもそう見えてると思う。
でも、お互い大学生で一人暮らし、部屋も行き来するが手を繋ぐところまで
いや、がっつくつもりはないんだけど、もしかしたら「結婚するまでは」と考えてるかもしれないし、そこはいいのだ。でも、正直キスくらいはしたい…
それに、もしかしたら俺以外に…なんて考えてしまわないこともない。
「ああ、こんなに好きなんだけどな。どうしようかな」なんて思ってる時。クリスマスに彼女の部屋で一緒にケーキを食べてる時にそれは起こった。
いつものように2人で楽しく過ごしていたその時、ふと会話が途切れ、暫しの沈黙。
「ああ、ちょっとこれはそういうタイミングかも…」なんて思ってたら緊張してきた。
隣に座っていた彼女の手をそっと握る。
少し驚いた様子だったけど、その空気を察したのか頬を染め、上目遣いで俺を見つめてきた。その瞳には緊張と期待、そして戸惑いのような感情が伺えた。
更に耳まで桜色に染めた瑠美は静かに目を閉じ、少し唇をこちらに突き出し、俺は握っていた手を少しだけ強く握り直してから、そっと彼女にキスをした。
数秒の後、唇を離しそっと目を開けて彼女を見ると、瑠美はまだ目を閉じたまま震え、その頬には涙が流れていた…
「えっ!?ご、ごめん!」
瑠美を泣かせてしまった。彼女はそんなつもりじゃなかったんだ、ごめん!と俺は反射的に謝ってしまったのだが、
「ち、ちがうの!…ご、ごめんなさい………わ、私、嬉しいのに辛くて……うっ…」
唇を噛み締め、俯いてしまったまま、まだ涙は溢れていた。俺は動揺するばかりでなんと声をかけたらいいかも分からず、ただ狼狽えることしか出来なかった。
どれくらい時間が経ったんだろう。
ほんの数分のような、何十分ものような、俺にとっては果てしなく長く感じる沈黙の後、彼女は意を決したようにこちらを向き、話し始めた。
そう。まるで独白のように…
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