第43話 女性陣に総攻撃を喰らうレオ

 プロ作家になった協田を祝うため、レオを筆頭とした大勢の同僚たちが居酒屋へと繰り出していた。


「協田さん、改めておめでとうございます!」

「デビュー作はいつ公開されるんですか?」

「公開されたら、絶対観に行きます!」

「協田さん、私と付き合ってください!」

「協田さん、結婚届を用意してきたので、ここに必要事項を記入した後、ハンコを押してください!」


 どさくさ紛れに、強引な逆プロポーズをする者もいる中、協田は「みんな、ありがとう。ここまでこれたのも、みんなの応援があったからだよ」と、冷静な対応を見せた。


「プロ作家になると、女優さんと知り合う機会も増えるんですよね? くうっ、羨まし過ぎます」


「知り合うといっても、脚本家は監督みたいに直接女優と関わるわけではないから、レオが想像してるようなことは起きないさ」


「いえ。協田さんはそのへんの俳優よりイケメンなので、女優さんからアプローチされる可能性は十分あります」


「デビューしたての、どこの馬の骨か分からない俺に、そんなことがあるわけないだろ」


「でも、もしそういうことがあったら、協田さんはどうするんですか?」


「……うーん。まあ、相手によるかな。好みの相手だったら、すんなり受け入れるだろうし、逆の場合は丁重にお断りするだろうな」


「えっ! 好みじゃないとはいえ、せっかくの女優さんからの誘いを断るんですか? なんて、もったいないことを」


「好きでもない相手と、自分の心を偽って交際できるほど、俺は器用じゃないんだよ」


「私がもし協田さんの立場だったら、たとえ好みでなくても、相手が女優というだけで付き合いますけどね。だってその方が、この先脚本家の仕事をするうえで、何かと便利でしょ?」


「お前、意外と打算的な考え方をするんだな。まあ、その考え方も否定はしないけど、俺には無理だな」

 

 協田があくまでもレオの誘いに乗らないでいると、周りの女性陣が一斉にレオを攻撃し始めた。


「協田さんが、女性を利用するようなことするはずないじゃない!」

「あんたと一緒にしないでよ!」 

「根本的に、協田さんとあんたは全く違うのよ!」

「いいから早く消えてよ!」


 最後に辛辣な言葉を浴びKO寸前のレオに、協田は「レオ、自分の考えを相手に押し付けるのは、今後やめた方がいいぞ」と、優しく注意した。






「そういえば、まだ言ってなかったけど、俺、今月いっぱいで今の仕事辞めるから」


 唐突な協田の告白に、周りは一瞬静まった後、すぐに騒然となった。


「どういう事ですか!」

「今月いっぱいって、もう数えるほどしか残ってないじゃないですか!」

「理由はなんですか!」

「もし辞める理由がレオにあるんだったら、彼をすぐに辞めさせるので、協田さんは踏みとどまってください!」


「はははっ! レオはまったく関係ないよ。実はこの前、映画会社から連絡があってさ。脚本の手直しをするために、来月東京へ行くことになったんだ」


「脚本の手直しって、東京に行かないとできないんですか?」


「ああ。聞くところによると、監督やスタッフと話し合って、お互いが納得できるような脚本に仕上げていくらしいんだ。そのためにはリモートではなく、直接お互いの顔を観ながら作業する方がいいということになってさ」 


「なるほど。確かにその方が効率的ですよね。じゃあ、協田さんと一緒にいられるのは、正味一週間しか残ってないんですね」


 レオは表面上寂しそうな表情を見せていたが、モテモテの協田がいなくなることで、女性陣が自分に振り向いてくれると勝手に思い込み、心の中でガッツポーズをしていた。


「来月から協田さんがいなくなるなんて、寂し過ぎます!」

「これから、何を楽しみに工場へ行けばいいんですか!」

「いっそのこと、私も辞めます!」

「私も辞めるので、東京で一緒に暮らしましょう!」


「はははっ! 別に俺なんかいなくても、他に魅力的な奴はいくらでもいるじゃないか」


「魅力的?」


「ああ。例えば中村さんは、自分が前科者だということを隠して、娘と同じ職場で働いてるし、坂川さんは、藤原さんにストーカー扱いされながらも、まだしつこく追い掛け回しているみたいだし、坂本さんはあれだけ硬派を気取っていながら、最近一回り年下の岡さんと付き合うことにしたみたいだし、木本君も最近今服さんと付き合い出したみたいだけど、まだ長谷川さんのことが忘れられないみたいだし、あとレオに至っては、既婚者であるにもかかわらず、未だに女性に興味津々だしな。ほんと、この職場は面白い奴がいっぱいいるよな」


「私たちは面白い人なんか求めていないんです。協田さんみたいなイケメンで知性的な人を求めてるんです」


「男の魅力って、それだけじゃないだろ? もっと視野を広めれば、魅力的な奴はいくらでも転がってるじゃないか」


「私たちはあくまでも協田さんのファンなので、他の人には一切興味が湧かないんです。だから、これ以上私たちを惑わすようなことを言わないでください」


「協田さんは、あなたたちの寂しさを紛らわせようとして言ったんです。それが分からないんですか?」


 協田にしか関心を示さない女性陣に業を煮やしたレオがそう言うと、彼女たちの怒りのはけ口が一斉に彼を襲った。


「あんたに何が分かるのよ!」

「ポンコツのくせに、知ったようなこと言わないでくれる!」

「このエロ外人が!」

「協田さんがいなくなっても、あんたにだけは振り向かないからね!」


 矢継ぎ早に繰り出される数々の罵倒に、改めて自分の人望の無さを思い知ったレオだった。


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