第15話 仲良し過ぎる二人

「ねえ、レオ。飲み会に行くメンバー決まった?」


 飲み会予定日の三日前、今服喜多代はレオに訊ねた。


「はい。これがそのメンバーと連絡先です」


 レオは、飲み会に行く協田、日高、坂本、中村と自らの連絡先が書かれたリストを、喜多代に手渡した。


「サンキュー。これさえあれば、もうこっちのものね」


「えっ、それはどういう意味ですか?」


「ううん、なんでもない。あと、言い忘れてたんだけど、この飲み会女性陣は参加しないから」


「えっ! どうしてそんなことに……」


「みんな、その日は予定が入ってて、都合がつかなかったのよ」


「じゃあ、違う日にすればいいよ」


「そう簡単にはいかないのよ。ということで、飲み会は男だけでやってね」


「それじゃあ、飲み会に行く意味がなくなるじゃないですか!」


「どういう事?」


「女性のいない飲み会なんて、私にとってはまるで無意味だということです」


「別に女がいなくても、男だけでも盛り上がれるでしょ?」


「他の人はともかく、私は女性がいないとダメなんです。なので、この際誰でもいいから、女性を連れてきてください」


「本当に誰でもいいの?」


「はい」


「じゃあ、葉子さんと堀江のお母さんの方と吉田さんと天野さんと佐々木さんに声を掛けとくわ」


「えっ! ……いえ、その人たちは結構です」


 レオはそう言うと、逃げるように喜多代の前から消えていった。





「ねえ岡ちゃん、坂本さんの連絡先ゲットしたわよ」


「本当! さすが服ちゃん、頼りになるー」


 岡伊代は飛び切りの笑顔でリストを受け取った。

 

「早速、後でラインすれば?」


「うん。でも、どんな文章書けばいいかな?」


「ありきたりのものでいいよ」


「ありきたりって?」


「『今度、一緒に食事でもしませんか』とかでいいんじゃない?」


「わかった。じゃあ、後で送ってみるわ」





 やがて仕事を終えると、伊代は帰りのバスの中で先程喜多代に教わった文章を坂本に送った。すると……




『なんで君が、俺の連絡先を知ってるんだ?』


 予想外の返答に、伊代はあたふたしながら『レオに教えてもらったんです』と返した。


『そうか。まあ、それはいいとして、なんで俺なんかと食事したいんだ?』


『前に隣で作業した時に、少し話をしたでしょ? その時に坂本さんに興味を持ったんです』


『へえー、そうなんだ。ところで、岡さんていくつだっけ?』


『21です』


『じゃあ、俺とちょうど一回り違うんだな。こんなおじさんと食事したいなんて、岡さんは少し変わってるな』


『それはよく言われます。それより、私との食事はどうされます?』


『まあ、考えとくよ。決まったら、俺の方から連絡するから』


『わかりました。じゃあ、楽しみに待ってます』


 坂本とのやり取りを終えると、伊代はその一部始終を喜多代に見せた。


「ふーん。考えとくということは、かなり期待していいんじゃない?」


「そうかな? いきなり断ると可哀想だから、とりあえず結論を先送りしただけだったりして」


「そんなネガティブに捉えるなんて、岡ちゃんらしくないじゃん」


「私って、恋をするといつも臆病になるの。それは服ちゃんも知ってるはずでしょ?」


「そうだっけ? でも、今回は自信を持ってもいいんじゃないかな。あくまでも私の勘だけど、何か今回はうまくいく気がするんだよね」


「本当に? 服ちゃんの勘てよく当たるから、期待しちゃってもいいかな?」


「うん。もし断られたら、代わりに協田を紹介してあげるわ」


「それだけは勘弁して! あんな女たらしと付き合ったら、浮気のことが気になって心が休まる日がなくなるわ」


「あははっ! 確かにそれは言えるわね。じゃあ、日高さんはどう?」


「あんなおバカと付き合えるわけないでしょ!」


「じゃあ、坂川さんは?」


「あの人に、男の魅力を感じたことなんて一度もないんだけど」


「じゃあ、レオは?」


「レオって結婚してるから、普通に不倫になるじゃない。というか、もし結婚してなかったとしても、あんな女狂いと付き合ったら、こっちも変になりそうだわ」


「あははっ! じゃあ、やっぱり坂本さんをゲットするしかないわね」


「そういうこと。とりあえず、やれるだけのことはやったから、後は運を天に任せるだけね」


「じゃあ、うまくいくよう、二人で祈ろう」


「うん」


 二人は両手を組みながら「「この恋がうまくいきますように」」と、呪文のように唱えた。


「よし! これでもう間違いなく、この恋はうまくいくよ」


「うん。なんだか私もそんな気がしてきた」


「そうこなくちゃ! いつもの岡ちゃんに戻って、私も嬉しいわ」


「これも全部服ちゃんのおかげよ。私たち、いつまでも親友だもんね」


「ねー」


 周りの目を気にすることなく、バスという狭い空間の中でバカ騒ぎすることもいとわない、喜多代と伊代だった。

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