第5話 二人(5)




「世話になったな、小僧達」

 岡山駅まで突男のオープンカーで送ってもらった四人は、来た時と同じようにひどい車酔いに襲われながらも、フラつく足元をなんとか奮い立たせて駅の中で土地食いと向き合っていた。

「本当だよ。ハルなんて土地食いに殴られた頬、まだ腫れが引いてないんだからね!」といってハルは頬に張った大きなガーゼを見せて言った。

「すまなかったの、小僧。これでも食べてくれ」

「食べ物で治るかァ!」

 プイッとそっぽを向いたハルの手に無理やり飴を握らせて土地食いは微笑む。


 あの後、土地食いと千乃は無事戻ってきた。千乃は己の負の感情を浄化させることによって、堕ちた事実さえも浄化し、人として現実に戻ってきた。土地食いはそもそも、千乃を殺すつもりはなく、己に妖怪を憑依させてから力づくで対峙するつもりだったと言った。

「全く、間際らしいことしないでよ。私たちまでハラハラしたじゃん」

「心配をかけた。あまりにもお前達を巻き込みすぎたが上に自分で処理しようと思ったのだが、結局は助けられてしまったな」

「で、土地食いはこの後どうするんだよ。封印されている事実は変わってないんだろう?」

「ああ」と土地食いは相槌を打った。

「私の体も後少しで封印の元へ戻る。来年からは毎年と同じように助言を行うだろう」

「千乃は?」

「彼女のことは、堕ちている前後の記憶だけ消させてもらった。わしの存在自体の記憶は消してないから、きっと来年も……いや、来年だけとは言わずに近い内わしに会いに来るだろう」

「もう喧嘩すんじゃねーぞ」

「はは。わかっておる。本当に世話になったな」

 再び、土地食いは深いお辞儀をした。『〇〇駅行きの新幹線が参ります。〇〇駅…――』と駅内に放送が響き、天人達は慌てて自分の荷物を突男から受け取った。

「じゃあ、俺たち帰るから。元気でな!」

「元気でね」

「またね」

「ばいばーい」


 ああ、本当に感謝だ。

天人達の背中はどんどんと遠ざかっていく。改札を通ってからは見えなくなっていった。

 東の若者達よ。

 次に会うときには、今回のように明るい出会いではないだろう。それでも君たちが前に進み続けると言うのであれば、わしはそれに応えよう。


 またな、小僧達。



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