第10話
どら焼きが引き金になったわけではないのだろうか?まだ何も分からないままだ。
それに、一日ごとに飛ぶ日付も謎だ。これといった共通点もない、ランダムなのだろうか。
「あと、二日分しかやり直せないのに」
巻き戻ったところで、このままでは何も意味がなくなってしまう。健太を救えるチャンスなのに。私はどうしたらいいのだろう。焦りと不安でどうにかなりそうだった。
もし、あの事故の日に行けるのなら。そうすれば健太が家を出ないように、会うつもりはないとはっきり告げればいいだけだ。あの日なんで私は会おうと少しでも思ってしまったのだろうか。どうして死んだのが健太だったのか。
「うぅ……」
私ひとりしかいない部屋に私の嗚咽だけが響く。
「神様のばか。私が……私のせいで!」
やるせなさが私の首を絞めていく。もう限界だった。よく分からないタイムスリップ、馬鹿すぎる自分、理不尽な死、全部、全部が一斉に私を責め立てる。メモはほとんど意味のない書き込みで埋まっている。何も進展など無いのだ。確証を得られない情報しか無いのだ。私にはどうしようも、ないのだ。ただただ時間だけが過ぎていく。
中一の健太に伝えたところで、真に受けるはずもない。五年後の八月十日の夜、自分が死ぬと言われても覚えていられるわけもない。まして、タイムスリップしてきました、なんて言える雰囲気でもない。今日、別れるのだから。最悪のタイミングすぎる。
明日と明後日で意地でも八月十日に行かなければならない。その可能性に賭けるしか、方法がない。
「ガラララ……」
急に開いた扉に驚いて振り返ると、玄関からおじいちゃんが見えた。
「おかえり?早かったね」
そう言いつつ、窓から外を眺めるといつの間にか空は茜色に染まっていた。
「ん?そんなこたぁないぞ。昨日と同じくらいだと思うが」
「そ、そうかも!お疲れ様ー」
そんなに時間が経っていたなんて。時計を見ると、六時三十五分を指していた。
「すいか貰ってきたから、冷蔵庫冷やしとくな。あとで好きな時に食べ」
おじいちゃんは台所まですいかを抱えてズカズカと歩いていく。
「やったー!ここのすいか毎年美味しいから楽しみにしてたんだよね」
「そうか、そりゃ良かった。あ、晩飯どっかに食べに行くか?」
おじいちゃん家は本物の田舎で、隣の家まで50メートル以上離れているような場所だ。コンビニも車で三十分くらいかかるし、よく行くラーメン屋さんまでも四十分はかかってしまう。そうなると、別れ話が出来なくなる。もし過去が変わって、未来が変な方向に行ってしまえば、健太を救うのがもっと難しくなってしまう可能性もある。出来れば、八月十日以外は昔の私通りに過ごしたい。
どら焼きの味 結城 碧 @akairo__
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