第3話 偶然!?

『あ、そうそう。今日は体育委員の顔合わせがあるから、16:00までに2階の会議室に行ってねー。えっとぉ今の時間はー』






「当たり前のように遅刻してんじゃねぇよ!!本当に!!!」


「あはは、今は16:07......もう7分も遅刻してるね」




 帰りのSHRに行われた実行委員選出で時間を食ったのか、予定されている時間よりも大幅に遅れてしまった。これもそれも全部レミ先生のせいだ。うん間違いない。


 多分先週までに決めておくように言われてたんだろうからな。ド忘れしたのがよく分かる。



「えっと会議室って」

「そこの突き当たり右に曲がればすぐだ」


「ありがとう大晴君」

「おう、それよりも急ぐぞ」



 廊下を走ってはいけませんとか今言われても絶対止まる気はない。遅刻してるっていうのもあるんだけど、恐らくいるだろう人の機嫌が損なわれそうだからな。



 俺達は突き当たりを曲がって正面に見える両開きの扉に手を掛けた。



 バタン



「「遅れてすみません!!」」



 扉を開けると、何人かの生徒が正面のホワイトボードに立って話をしており、その他大勢の生徒が均等に並べられた椅子に座って、配られた冊子を片手に話を聞いていた。



 気付いた何人かの生徒がこちらを振り返る。

 話をしていた生徒もこちらに気付いたようだ。


「2-A の実行委員の人達でよろしいですか?」



「はいそうです」

「遅れてすみません。SHRが長引きました」


「大丈夫ですよ。2-A の席はあそこです」



 彼が指をさしたのは真ん中の列の先頭。

 別に嫌がらせとかではなく、1年、2年、3年で順々に並べられているならAクラスの俺達が先頭にくるのは当たり前だ。



 と思ったが



 よくよく周りを見てみると学年ごとに並んでいるわけではないことが分かる。

 女子生徒のリボンの色がバラバラだし、別学年で見たことある人の位置も違う。



「すみません。その席にするように指示したのは僕じゃないんです」


 俺達に席を提示した人は、頭をかいて気まずそうに後ろを振り返った。

 勿論、入る前から分かっていたことなので今更嘆くような真似はしない。


 この体育祭を運営するのは実行委員と生徒会ってことは分かってる。



「け、今朝ぶりね。加賀美大晴......と中瀬」



 そこに立っていたのはやはり九条さん。


 生徒会に入っているとは言っていたが、ここまで発言力強いとは想定外だ。

 俺さっき前で話してる人とか言ってたけど、よくよく考えたらあれ生徒会長だろ。


 確かに生徒会長が奴隷組の一人って言っていたが......今喋ってる感じ結構一般人っぽい。あの意味不明の3人組(モブ1、モブ2、豚)よりも深度が違うのか?



「お嬢様の言う通り致しましたので、後でご褒美を!!!お恵み下さい!!!」



 あ、はいそうですか、一律イカレ頭ってことで。



「うるさい!!!!私が喋っているでしょう!!」

「はぁあああ♡」



 このノリに慣れていくの大変そうだな。一人奴隷組関係者いるだけで場が乱れる。

 でもまぁ一人だけなら、何とか



「ずるいぞ会長!!筆頭奴隷の我らに譲れ!!」

「そうだ!!驕りすぎだぞ!!」



 ふぅ.......なんかモブ1とモブ2っぽい声聞こえてくるんだけど。

 気のせいだよな?そ、そうだよな?



「黙りなさい貴方たち!!私の面目をこれ以上潰すのは本当に許さないわよ!!!」


「「「はあぁぁあああ♡至福♡」」」




 哀れ、本当に哀れ九条さん。3匹のお世話頑張ってくれ。





 ~~~~





「ご、ゴホン。それでは顔合わせをしていきたいと思います。体育祭にて僕たち実行委員会は学年、クラスの域を超えて協力し合う必要があります。連携を円滑に運ぶためにもここでしっかりと仲間の顔を覚えておきましょう」



 我を取り戻した生徒会長が話を再開させる。

 その間に俺の生徒会長への評価が谷になってるのは言うまでもない。



「そこでそれぞれので話していきたいと思います」



 そう言って生徒会長は黒いペンでホワイトボードに座席表を大まかに描いた後、赤いペンでそれぞれの席に数字を入れていった。



 俺は.......3グループか。




「今からこのグループで軽い顔合わせをしていきたいと思います。人選はランダムに選びました、学年の違いが出てくると思いますが、そこは高校生として隔たりを築かないようにしてくださいね」



「「「「「「「はい」」」」」」」」



 そして生徒会長の合図を皮切りに生徒達が移動を始める。


 所々で歓声が上がる所を見ると、部活の後輩先輩とか同学年の友達とかそういう繋がりなんだろうな。と思いつつもコミュ小が発揮されそうで内心ビビっていた。


(頼むから......頼むから陰寄りでお願いします)



 そう願いながら席に着く。


 出来るだけ右の人が視界に入らないように顔を反らして座ったので、今俺の横に居る人物が誰なのかは見当もつかない。



「では、顔合わせ会初めて行きましょうか」



 俺はゆっくりと右を向いた。








 その瞬間








 俺は少しだけ頬が緩んだ。


 何故か分からないが、懐かしいと思ってしまったのだ。別に、この女と過去に親交があったというわけではない。


 廊下ですれ違うだけの垂れ幕で思い出すだけの新聞で見るだけの奴だ。



 だが、俺は何故かこの女にの面影を感じた。髪色も、身長も、目つきだって前と異なるのにだ。



「や、やあこんにちは」


「........こんちは」




 俺の横に座っていたのは美少女。


 手入れされた金髪は九条さんと違ってポニーテールに結んでいるせいか、うなじの破壊力が異常。そして、外人のように彫が深く整った顔立ち。九条さんに近いが、それよりも振り切っているように見える。美玖の対極に位置するような感じだろうか。


 そんな彼女は学校の4大アイドルにして

『陸上の太陽姫』の異名を持つ



 新藤真昼だった。




「「.........」」




 気まずくないか?


 俺てっきり太陽姫とか言うんだからめちゃめちゃ陽系だと思ってたんだけど、一言も喋らないし手元で何か弄ってるし......もしかして陰キャ?



「ね、ねぇ君って新藤真昼さんだよね!陸上部のエースの!」


「同じ実行委員だからさ!仲良くしようよ!」


 陰陽論争的なことしていたら後ろの男二人が身を乗り出してこちらの会話?に参加してきた。まぁグループなんで『始めから参加していた』が正解なんだけど。



「名前は何?」



「俺は3-Cの佐藤重勝だ。よろしくな真昼ちゃん」

「2-Eの杉田陸。去年同じクラスだったよね?覚えてる?」



 俺俺俺俺といった感じで自己主張が強い二人は、ここぞとばかりに自分語りを始めた。一人はさりげなく名前呼びをしているし、もう一人は去年の話を壊れた機械のように繰り返していた。


(思ったより話は聞くんだな)


 どちらが話している時でも目線を切らず、彼らの話を黙って聞いていた。その目線は前に俺と話したときとは違い、柔らかかった。



「そう」


「だからさ、もっと仲良くなろうよ。この後カラオケ行こうと思ってんだけど一緒にこないか?」


「ぼ、僕も君と仲良くなりたいんだ!今日一緒に帰ったりだとか」



「そう。だったら私のお願いを聞いてくれる?」



「「勿論(当たり前だよ)」」











「なら私に話しかけるのを金輪際止めて?」





「「!!!」」





「ねぇ、ほらどうしたの?『はい』って言ってよ今すぐに。私は貴方たちと仲良くする気なんてサラサラないってことまだ分からないの?」




「いや、俺はいいや」


「ぼ、僕も遠慮します」



「そう。なら早く元の席に戻って。私はさっさとこの時間を終わらせて行かなきゃならない所があるから」




 前言撤回、激寒じゃねぇか。


 今ので気温が三℃は下がった気がする。俺だけだと思うけど。


『で、でも彼女は相当付き合っていく人を選ぶ人らしいから。話しかけたりするのはやめてほし.......やめた方が良いと思うわ』


 と今朝の九条さんの発言がここで活きてきた。

 話しかけると痛い目にあうってことだよな。



 だが実行委員としては好ましくない行動だと断言できる。このままでは孤立するのが末だ。



 多分この人も俺と同じ......くじ引きとかで臨まない仕事を押し付けられた系の人なんだろうな。まぁそれでサボっていいかと言われればあり得ないが



「な、なぁ君はなんで実行委員になったんだ?乗り気じゃないのは一目で分かるぞ?」



 だからつい話しかけてしまった。


 彼女は俺の方を横目で見ると、また手元に目線を戻した。これはまさしくガン無視だろう。


 ほぉ.......そうくるか?ならこっちもだ。




「もしかして、『私、望んでもいないのに実行委員にさせられて本当にかわいそう。ああ、哀れな新藤真昼、ぴえん』とか思ってんのか?」



「........は?」



「おー怖い怖い。そんな目で睨むなよ?図星でぴえんってか?」



「そんな何年か前に廃れた言葉使っておちょくろうたってそう乗っかるとでも?」



「ん?さっきまでガン無視決めてたのはどこの誰かな?なんか俺の目の前にいる気がするけど気のせいかな?なんか釣れた気がするけど気のせいかな?」



「ッ//////」



「やっぱり自覚あるじゃん。挑発にまんまと引っかかったって」



「うるさい!黙ってて。さっさとこんな茶番終わらせたいの私は!!」



「おお、噛みつく噛みつく、こんな所も似てるなぁ」



「???」



「じゃあさっさと吐いちまえよ。なんでお前は実行委員してるんだ?」



「私には......やりたい事があるから」



「自分から実行委員になったのか?その態度で?我儘がすぎるんじゃねぇの?」



「っ!!うるさい!!!私には体育祭なんて二の次なの!!」



「は、おいお前本気で言ってんのか?」


「そうよ!!私はね!!別に実行委員になりたくてやってるわけじゃない!!実行委員にならないと出来ない事があるからやってるの!!こんな慣れ合いとか時間の無駄。何の意味も......ねぇ何で近づいてくるの?」



「うるせぇよ」



 俺はキレていた。


 まさか四大アイドルの一角がこんな愚図とは思わなかった。ここまで怒ったのは昔のあれ以来な気がする。


 ちょうどにこんな風に説教したんだっけ。



「おい、今すぐその発言を撤回しろ。陸上に関わっている人間が運営への感謝を忘れるのか?リスペクトもできねぇ奴が敷居踏んでんじゃねぇよ」



「な、なんでそんな近いの?」



「うるさい。小さい子を躾したのは初めてじゃないからだ。もしお前に陸上部としてのプライドがあるなら自分の行動と言動を良く振り返れ。二度とそんな下らない言葉使うな」



「わ、分かった!分かったからさっさと離れて!」



「ん、ってあ.......」



 俺は彼女の椅子の背もたれに手を着きながら、自分の顔を思いっきり彼女の綺麗な顔に近づけていた。


 彼女は頬が赤く染まっており、見方を変えると俺が彼女を襲っているようにも見える。

 それにさっきまでの激しい口論のせいか、周囲の視線が集まっていた。




 俺は、面倒なことになる前に席に戻る。


 そして、今の事を反省して声のトーンを落としながら、再度進藤と話し始める。




「すまんかった新藤」



「い、いいよ。私も間違ってるって分かったし」



「ああ、俺も言いすぎた。相手の内情を理解していない人間がとやかく言うのは気持ちが悪いとおもうからな」



「いや、これは私が悪い。大事な事を忘れてた」



 彼女はしゅんとなってまた手元に目線を移した。

 って何度手元弄るんだよ、意図して触れてなかったけど流石に気になってきた。



 俺は彼女の手元をじっくりと見た。



「な、なぁそれって『怠惰強情!世紀末デブネズミ』だよな?」



「え?これ知ってるの?」



 その手に握られていたのは少し年季のあるネズミのマスコット。耳は1部欠けていて、ほつれを何度も直したような跡があり、大切にしてきたのがよく分かる。



 この『デブネズミシリーズ』は、数年前までガチャガチャで売られていた。


 ちょっと悪そうな顔と特徴的な体型が人々を沼に引きずり込んだらしく、一時期流行っていたのを思い出す。



「ああ知ってる。それ結構レア度高い奴じゃないか?シークレットとかだった記憶があるんだよ」


 俺がそう聞くと、彼女はいきなり生気を帯びて盛りの犬のような態度に変わった。


「そう!これは私が恩人から貰った宝物なんだ!これはね!当時1番レアリティが高かった物で!ガチャでの排出率が物凄く低かったの!それでね!私の誕生日に彼がガチャガチャを駆け回ってプレゼントとしてきてくれたの!」



「へぇー粋な奴もいるなぁ。俺もそういう感じの奴を誕プレで送ったことあるわ。めちゃ喜んでくれてて嬉しかったのを覚えてる」



「あなたもデブネズミ好きなの?」



「俺の場合はデブネズミを好きな子が身近にいたから、それでデブネズミを送ろうと思ったってだけで、好きかどうかは分からん」



「ふぅーんそうなんだ」



「でもまぁ、1つだけ持ってるよ今」


 俺はそう言って鞄に手をかける。

 そしてチャックの端に括りつけてある1つのデブネズミを外して手に取った。



「これだけだけどな。まぁその子からのお返しで貰ったんだわ」



「へぇーこれ私が好きなネズミと同じ物だ。それに私が彼にあげたのとも似てる」




「偶然ってあるもんだな」



「そうっぽいね。あはは」




「「あはは」」



 

 そして、俺達は時間まで会話を楽しんだ。こんなに話しやすかったのは、ノリィを外すと久しぶりかもしれない。



 彼女のおかげで俺は実行委員になったことに少しだけ感謝したのだった。

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