第2話 聞いてないよ!?

 疲れた、半端なく疲れた。


 朝から休み時間、昼休み、また休み時間とあいつの相手をしている俺はくたくただった。(まぁ、それでも嫌いってわけじゃないけどな)

 あいつと話している分は楽しいし、一切飽きがこなくて助かっている。

 それにあいつもやるときはしっかりやるし、飽きっぽい俺からすると本当に良い友達と巡り会えたと思っている。

(過去のあれを引き合いに出してくるのだけはやめてほしいけどな)



 「っとやっぱり重いな。溜めすぎなんだよ」

 


 今何をしているのかというと、先生の溜めていた資料を廃棄しに行くところだ。美化委員の俺が相方と3本先取でじゃんけんした結果、0−3という圧倒的な運の悪さで負けたことによって俺が行くことになった。


(ストレート負けとか言い訳一つできねぇじゃねえか.......ま、言い訳してもなんもないけど)


 ここは3階だから、階段を2階分降りて1階のゴミ捨て場まで行かなきゃならない。

 多分、荷物の総重量は20キロを超えていると思う。結構不安定なので余計に力が必要になる。普段豆運んでなきゃ結構キツかったと思う。


 そして俺はそのまま階段まで歩き角を曲がり


「へあ?」


 少し馬鹿っぽい声が出てしまった。いやだって仕方がないじゃん。まさかほんとに


「痛ったた....ってあれ?大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」


「え、ええ。大丈夫です。生きてますんで」


「ふふふ、変わった冗談ですね」


「いや、あ、まあ、そういうこと教えてくる変人がいまして」


「面白いですね、その人も、あなたも」


「俺なんてただの眼鏡........オタクなんで」


「十分ですよ、ぶつかってしまったのは私の方なのに気遣いながら冗談言ってくれるんですから」


「..................」


「良ければ、その荷物一緒に運ばせて貰えませんか?」


「...................お言葉に甘えます」


 まさかほんとにぶつかるなんて思わないじゃん。しかもかよ。





 ❖☖❖☖❖



「重くない?結構量あるよねこの書類」


「ほんとですね。まさか、レミ先生がこんなに書類貯める人だとは思いませんでした」


 レミ先生とは俺のクラスの担任。かなりの美人で生徒(主に男子)からの人気が高い。よくエリートっぽいとか皆言っているがそれは間違いだ。

 正体は、ずぼらなポンコツ女教師。ちなみに書類の廃棄を頼まれたのもこれが始めてではない。

(この内面を知られたくないがためにレミ先生のクラスの美化委員は常に一定の人なんだとか)


 ところで隣にいる人は一体だれなのか?

 隣を歩く超絶黒髪清楚美人な彼女は中瀬愛梨なかせあいり。学校の誇る四人のアイドルの内の1人で俺と同じクラスだ。彼女は学校の成績でも一二を争うほどの超優秀さを誇る。その透き通るような黒髪と誰にでも分け隔てなく接する清らかすぎる心から、「黒の女神」と裏で呼ばれている。(本人にバレているかは不明)



「いっつも俺ら美化委員が先生から無茶ぶりされるんよ。ほんと困るね」


「ふふふ、美化委員って大変なんですね。今まで楽そうだなって思ってたので反省します」


 そう言って笑う彼女はやはり綺麗だった。


「あの.......加賀美さんってあんまり女子と喋らないスタンスだと思ってたんですけど、喋ってみたら思ったより全然フレンドリーな人なんですね」


「まぁ慣れてるんで」


「まぁ......お姉さんでもいるんですか?」


「一応いるよ、今は実家の方に居るけど。去年から俺一人暮らしなんで前会ったのは正月かな?あんまいい思い出ないけど。それよりかは、普段世話焼く子と居ることが多いからそのせいかな」


「そうなんですか、大変なんですね、


「中瀬さんも兄弟いるの?一人っ子だと思ってた」


「ええ、いますよ。手のかかる弟が1人、いっつも手を焼かされています」


「大変だね、お互いに」


「ふふふ、そうですね」



 場に静寂が流れていく。俺はこういう気まずい展開の時に話せる手札が全く無い。こういう時に光るボケはノリィの担当だからだ。俺はツッコミで良い。


「やっぱりです.........」


「どうしたの?」


「あなたと喋っていても、よく男性と話す時に感じる嫌な感覚を感じません」


「お、おう。そりゃどうもです」


「私達、どっかで会ったことがあるのかもしれませんね」


「そ、ソウカモネ」


「ちょっと悩んでいることがあるんですけど聴いてもらうことってできますか?」


「????」


「いや、あの、ほら!こんなに話しやすい人と出会うのってそうないんですよ。それなら同じクラスで話しやすい加賀美さんに相談してみようかなって」


「いいんだけど、俺でいいの?同性の友達とかたくさんいると思うけど?ほんとに俺で?」


「これは、皆には教えれない悩みなんですよ......」


「じゃあいいよ、さっき手伝ってもらっちゃったし、なんでもどうぞ」


「じゃ、じゃあ」


 悩み?中瀬さんに限ってそんなに何かについて困っているイメージとかはない。最悪のパターンは『ほんとはこの清楚キャラやめたいんです』とか言われた時だ。こうなったら手を合わせて祈るしかない、お手上げだ。ハードロックが好きなんですとか言われても無理に決まっている。アドバイスミスった場合全校の男から非難されることが確定しているこの依頼.....受けても良かったのだろうか?


 しばらくして、中瀬さんは口を開いた。


「加賀美さんって恋愛の経験はありますか?」


「!!.........あるよ一応」


 ズキッ


 少し頭痛がしたような気がする。今でもあの時のことはトラウマなんだ。俺は小学生の頃の話はもう思い出したくもないけど、一応事実として残ってるんだよな.............との交際は........


「なら、お願いなんですけど」



「私のを受けてもらってもよろしいでしょうか?」


 ?


 ??


 ???


 ????


 はぁぁぁぁぁ!!!???

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