第20話 4−6
…………
……
「……様? ……ベンジ様?」
ベンジさんの耳に、どこからかかわいい美少女の声が聞こえてきました。
「ベンジ様、お気づきになりましたかにゃ?」
その声はマアス城の工場担当ゴーレムちゃん、メフィールちゃんでした。
しかし目の前は真っ暗です。どうやらさっきいた謎空間でも、あの邪神の神殿の封印の間でもないようです。
ベンジさんは、先程いた場所と違う場所にいた事に気がついたようで、
「……ここは?」
と問いをメフィールちゃんに投げかけました。
メフィールちゃんは、相変わらず明るい調子で応えました。
「ここはマアス城の新型ゴーレムちゃん制御システムが設置されている部屋ですにゃ。ベンジ様は魔導砲を発射して邪神アレクハザードを倒した後、操っていたゴーレムちゃんが壊れて、強制切断された模様ですにゃ」
「そうか……」
彼女にそう言われるとベンジさんは安堵の声を上げ、ほっと息を吐きました。
周りで、おおっ、という声が上がります。どうやら周りにいるゴーレムちゃん達の声です。
皆ベンジさんが目覚めて、安堵したようですね。
ベンジさんはホッとした勢いで、何かに気が付き、ヘルメットを被ったままで下を見ました。
何も見えないにも関わらずです。というのも、ベンジさんの両腕を拘束していたベルトが、解けていたからです。
自分の体が自由になっていた事に気がついたベンジさんは、
「……自由だ」
とそのままの感想を口にすると、両腕をゆっくり、何かを持ち上げるように上げました。
気がつけば、頭の表面を幾つもの細かい針で刺されているような痛みも消えていました。
(もしかして)
そう思ったベンジさんは、上げた両手をヘルメットに当て、ゆっくりと持ち上げました。
ヘルメットはすっぽりと取れました。
装置からは何の警告も報告もありませんでした。
ヘルメットが取れると同時に、ベンジさんの両目を、眩しい光が突き刺しました。
魔法の明かりによる室内光です。
はじめはぼんやりとしていた視界ですが、だんだん周りのものがはっきりと見えてきました。
メフィールちゃんや、他のゴーレムちゃん達が、自分を見つめているのがわかりました。
その青い長髪の猫耳ゴーレムちゃんは目をうるませながら、ベンジさんに大事な言葉を告げました。
「ベンジ様、お帰りなさいですにゃ……」
ベンジさんはその言葉に、これまでにないほどの笑顔で返事を返しました。
「ただいま、メフィールちゃん、皆……」
「何事もなくて良かったですにゃ……」
そこで、脳改造の事? と口に出しかけたベンジさんでしたが、さっきの私──クラウドマインド・アンとの会話を思い出しました。ゴーレムちゃん達は脳改造の事を口に出せないようになっていると。
そこでベンジさんは話題を変えました。もう一つ気になっている事です。
「向こうはどうなっているの?」
「その事にゃんですが」メフィールちゃんがはっとなり、いつもの説明口調で話し始めました。
「邪神アレクハザードを倒した後、悪魔達は撤退して魔界へと帰っていきましたにゃ。現在、我が魔道士部隊が封印を再構築中ですにゃ。それと、グライス連合王国軍に連絡を入れまして、一個ゴーレム魔導師団と王立騎士団一個大隊が神殿へ急行中ですにゃ。取り急ぎ神殿内に残っている魔物などを掃討した後、魔導師団と騎士団に警護や管理を引き継いでもらう予定ですにゃ。何はともあれ、これで一件落着ですにゃ」
メフィールちゃんもほっと胸を撫で下ろしたその時です。
部屋の片隅の影の中で、何かが蠢きました。
その黒い影はやがて立ち上がり、人型を取り始めました。
それはシャドウ。影の魔物です。
皆様は覚えているでしょうか。クルスがベンジさんに依頼をしてきた時に、ホログラフィックスクリーンと音声に奇妙なノイズが入っていた事に。
そう。あれは通信に紛れて、シャドウをベンジさんの城に送り込ませていたのです!
クルスは自分がベンジさんの大魔王のかけらを奪うのに失敗する事に備え、シャドウを予め城に潜入させ、ベンジさんのかけらを奪うか、さもなければ殺すかの指令を受けていました。
黒い不気味な影は人の形を取ると、その手に黒い闇の刃を手にしました。その刃で、ベンジさんを刺そうとでも言うのでしょうか!
そして影の中にある白い瞳でベンジさんを見つめ、刃を握りしめると、物陰から勢いよく飛び出しました!
「!?」
「あっ!?」
部屋の皆が物音に気がついて、ベンジさんの元へと突撃する黒い影へと一斉に目を向けました!
「あぶ……!」
メフィールちゃんがそう叫びかけました!
この場にいる誰もが武器を持っていませんし、魔法も間に合わないでしょう!
世界がスローモーションのように動きます!
シャドウが刃を振り上げ、彼がベンジさんを刺そうとしますが!
シャドウ、そうはいきませんよ!
<マジックバリア>、無詠唱発動!!
その瞬間! ベンジさんの周りに青白く眩しい光が取り囲み、シャドウの行く手を阻みます!
黒い刃は魔法の光に阻まれ、ベンジさんの寸前で止まります!
「ぐっ……!?」
シャドウはそこで初めて声を上げました。
うまくいきましたね! さて、やっつけちゃいましょうか!
<ライトニングブラスト>!
私の無詠唱発動呪文により空中から放たれた稲光が、シャドウへと突き刺さりました!
「ぐぎゃあっ!」
シャドウは電光に貫かれ短い叫び声を上げると、影で構成された体が弾け飛び、そのまま消えてしまいました。
やりました! これで完全勝利です!
その様子を、ベンジさんもメフィールちゃんもその他のゴーレムちゃん達も呆然として見ていましたが。
やがてその現実を、その事実を、受け入れた様子でベンジさんは、
「……ありがとう」
そう独り言のようにつぶやき、新型ゴーレムちゃん制御システムのシートに全身を預け、天井を見上げました。
そして、静かに瞳を閉じました。
神々に、奇跡を感謝するように。
さて、これで本当に一件落着です。
もう少しだけ、物語は続きますけどね。
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