第21話 決着は突然に


 ゲオは王都の門をくぐり、繁華街の方へ向かう。

 立春祭はまだまだ続いているが、ゲオにはどうでもいいことだ。残りの報酬をもらったら、ついでに仕事上がり食後娼婦デザートも頂いてから消えるとしよう。


 繁華街のど真ん中にそれは建っている。周りの建物とはおおよそかけ離れた意匠を凝らした、豪華絢爛ないかにもあの男好みの店構えだ。

 店の前には客引き女が数人、際どい衣装で通りを行く男どもに声をかけている。


 ゲオは迷わずその店の中に入っていった。


 店内に入ってすぐ先の左手の壁に「プライベート」と書かれたプレートが貼ってある一枚の扉があった。それを、ためらわずに開け放ち中に入ると、通路が右へと続いている。ゲオは通路を進み、その先の階段を上がるとこの店のスタッフルームがある区画へ出た。最奥にあの男、エドワーズリカルドの部屋がある。


 ゲオはその扉の前までくると、ノックもせずに開け放った。


 ガチャリ……、という扉の音に中にいた男女がびくりと反応する。女はその男、エドワーズの上から慌てて降りたものだから、エドワーズの下半身が丸見えになった。


「ノ、ノックぐらいしろ!」


「ふっ。お前いつもこんなことやってんのかよ? まあいい。そこの女、あとで俺が相手してやるから少しの間、部屋の前で待ってろ――逃げるんじゃないぞ……」

ぎろりと冷たい視線を向けられたその女は、まくり上げていたドレスのスカートを直して、コクコクと頷くと、部屋を出て行った。


 慌ててズボンを上げ居住まいを正したエドワーズはそのままソファに居直った。


「で、首尾はどうだ?」


「ああ、うまくいったよ。あいつは消し炭になった――」


「そうかそれは上々だ。これで安心して寝られるというものだ」

エドワーズがそう言って立ち上がり、机の上に置いてあった麻袋に手を伸ばした時だった。


 背後に異様な気配を感じて、エドワーズは弾けるように振り返る。

(なんだ……この寒気は――?)


「くくく、おいお前、まだ生きてやがったのか? もう一度燃やしてやろう!」

ゲオがいきなり叫ぶ。


「な、何を言ってるんだ、ゲオ――?」

エドワーズはゲオの言っている意味が理解できず困惑する。


「問答無用だ、何回やっても俺が勝つ、覚悟を決めるんだな――」


 ジリジリと詰め寄るゲオ。エドワーズは恐ろしくなりジリジリと下がるが、ここは部屋の中で、入口の扉は反対側だ。


「や、やめろ、ゲオ! しっかりしろ――」

そう言って制止しようとエドワーズが前方に手を伸ばしたのと、ゲオが魔法発動するのに手をかざすのが同時になる。


「――「火炎放射ファイアーブロウ」!」


 瞬くうちにゲオの右の手のひらから業火が巻き起こり、あっという間にエドワーズを包み込んだ。


「があああああ―――!」

エドワーズはそのままゲオに突進した。その全身を炎に包まれながら、

「おおおまあああええええぇぇぇなああにを――」

と、言葉にはならない叫び声をあげ、ゲオに巻き付く。


「ハハハ―――、もえろぉもえろおおおおぉぉぉ――!」

 ゲオの方は、そう叫びながら眼前で炎に包まれているエドワーズを振り払おうともしない。当然、炎はゲオの衣服にも燃え移る――。

「今度は俺の中に入り込みやがったか! 無駄だ! 燃やしつくしてやルゥゥウウゥウゥ――」




 そとにいた女が中の様子があまりにもおかしいことに怯え、叫んだ。

「だ、だれか――! 早く誰か来て――!」


 その扉の隙間から何かが焼けるようなそんな臭いが漏れてくると、その女は恐ろしさのあまり腰が抜けてへたり込んだ。


 数秒後、何人かの従業員たちが駆け付け、女を見つけると、女はその者たちに扉の中を示すようにエドワーズの部屋の方を指さす。


 相変わらず、嫌な臭いが扉からあふれ出している。


「エドワーズ様! 大丈夫ですか!」

従業員の男の一人が扉をあけ放つと窓際で何かが燃えている炎を見た。

「火事だ――! 水、水を持ってこい――!」



――――――――



 あの男がその店に入ってから数分後のことだ。


 急に店の様子がおかしくなる。明らかにパニック状態だ。

 従業員たちが走り回り、店の中からは客や女たちがあふれ出してくる。

 キールはその店があわただしくなるのをしばらく眺めていたが、どうやらことは済んだようだ。

 そうしているうちに、この騒ぎを聞きつけた王国兵たちが5人ほどやってきて、店内へ入っていった――。


 もはやこれ以上ここにいても何も進展はないだろう。

 キールはきびすを返すと、まだ祭りの余熱が冷めやらぬ街の中へと消えていった。


 「傀儡パペット」と「引金トリガー」――。キールはまた新しい武器を手に入れた。

 カラクリは簡単だ。

 まずは、キールが黒ずくめと対戦した時に燃やされたこと。ここからキールの仕掛けが始まった。

 黒ずくめが「物理移動サイクス」で急接近した瞬間に「幻覚魔法」を発動、キールが燃やされるという幻覚を見せる。しばらく幻覚の効果は続くため、当然黒ずくめはキールを始末したと思い込んだ。

 仕事を終えた暗殺者が向かう先はおそらく依頼主のところだろう。

 あとは簡単だ。「幻覚魔法」が効いている間に、さらに黒ずくめに「引金トリガー」を付与した「傀儡パペット」をかけただけだ。

 

 キールは、黒ずくめの後を「魔法痕跡消去」を使ってつけていった。これは、「幻覚魔法」の効果が切れたとき、近くに自分がいることを察知されない為の用心だった。


 思惑通り、黒ずくめは依頼主のところへ向かい、そいつと出会ったのだろう。


 そうすれば、「引金トリガー」が発動し「傀儡パペット」も発動する。

 「引金トリガー」の内容は「今回の仕事の依頼主のそばに近づくこと」。「傀儡パペット」の内容は「依頼主を悪霊と化したキールと認識すること」という感じだ。

 一度勝っている相手だ、それが“少し弱めから徐々に強くなる設定”にしておけば、黒ずくめの性格からそれに向かって攻撃をかけることは容易に想像できる。

  

 キールは後で知ったことだが、その店で発見された焼死体は2つだったという。一つはその店の主人、エドワーズ・ジェノワーズ。ただもう一人はどこの誰だか分らなかったということだった。

 黒ずくめまで死んだというのは少々出来すぎというものだが、おまけというところだろう。

 

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