第27話 これは、聖女たちのお話です
「あのっ……すみません! 聖女って、りさちゃんがどうしたんですか!?」
わたしが話しかけると、商人たちは一瞬怪訝な顔をしたものの、親切に教えてくれた。
「噂じゃあ、聖女リサがまた倒れたんだとさ」
「ありゃあ王様が酷使してるって話だぜ? そもそも本当に自ら降臨したのかどうかも怪しいって」
「今の王様はクズだからなぁ。ま、わかってても俺たち下々の民には何も言えんが」
酷使? 自ら降臨……? 一体、どういうことなの……?
何を言っているのか理解できなくて、わたしは助けを求めるようにルカさんを見た。
「……ちょうどいい。俺もお前に聞きたいことがあったんだ」
そう言うと、ルカさんはついてこい、と顎をしゃくった。
◇
「そもそもお前は、なんでファブニールのところにいたんだ」
人気のない路地裏で、足を止めたルカさんがわたしに聞いた。カートの中でカラちゃんたちが、不安そうにこちらを見上げている。
「えっと……話せば長くなるんですが……」
わたしは、以前ファブニールさんに話したことと同じことを言った。
すべて聞き終わったルカさんが、眉をひそめる。
「やっぱりあの国王ども、嘘をついていたんだな。異世界からの聖女召喚は倫理的観点から、世界人権保護法で禁止されているのに」
じ、人権保護法なんてあるんだ……!? 意外にしっかりした倫理観に驚いていると、ルカさんが続ける。
「だとすると、戦争の正当性も嘘だろうな。ファブニールに襲われてひっ迫しているという申告も根拠に欠けている。聖女を使って、戦争をしたいだけか」
りさちゃんを使って戦争……!?
ぶつぶつとつぶやき始めたルカさんに、わたしはすがりついた。
「あ、あの! なんとかりさちゃんを助けてあげられませんか!? それに戦争って、りさちゃんが戦争に利用されるってことですよね!?」
どうしよう……。最近自分のことにいっぱいいっぱいで全然気にかけている余裕がなかったけれど、まさかそんなことになっているなんて……!
「どうにか、元の世界に帰してあげられないですか……!?」
わたしが考えていると、ルカさんはけろりと言った。
「できるぞ」
「えっ!? できるんですか!?」
そんなにあっさり!? いや、でもすごくありがたいけれど!
「通常、複数の魔法使いがいないとだめだが……俺ならひとりでできる」
「すごい……! さすがルカさん! お願いします、どうかりさちゃんを助けるの手伝ってください!」
「お礼は?」
「えっ?」
まさかお礼を要求されるとは思わなかったけれど、そ、そうだよね。物事には対価がつきもの……!
「ひとりでできるが、疲れる。それにものすごく貴重なアイテムも消費する」
わたしは必死に考えた。
「えっと……さっき換金してもらったお金を、全部あげます!」
「いらん。金には困っていない」
「そんな! じゃあ……えーっとえーっと……わたしができることと言ったら、子どもを見ることと、ご飯作ることと、褒めることと……」
わたしの言葉に、ルカさんが顔を上げる。
「……じゃあ、お前は今後俺を褒めろ。褒め係だ」
「褒め!? そ、そんなのでいいんですか……?」
まさかの要求にわたしは目を丸くした。
確かにわたしの褒めには効果があるみたいだけれど、ルカさんにはスキルのこと一度も言ったことないんだけどな……? もしかして見抜いていたのかな?
でも、それでいいのなら話は早い。
「わかりました!それでいいです!」
「よし、乗った」
ルカさんが差し出した手を、わたしはガシッと掴んだ。
——拝啓、りさちゃん。
お元気ですか? 倒れたと聞きましたが、体は大丈夫ですか?
もうちょっとだけ待っていてくださいね。もうすぐお姉さんが、強い魔法使いとお友だちを連れて、助けに行きますからね!
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