第26話 ようこそ、人里へ

 魔法のおかげで、街にたどり着くまでは一瞬だった。


「うわぁ~っ! すごい……!」


 カラちゃんたちの乗ったカートを押しながら、わたしは目を輝かせた。


 初めて見る人里は、まさにファンタジーって感じ!

 大小さまざまな建物は全部石できているし、その石も何やらピカピカ光る素材がまじっている。立ち並ぶ店に並ぶ商品も、普通のフルーツから見たことのない変わったものまで本当に種類が豊富。


 わっ! あそこにあるの、まさかモンスターの肉!?


『すごいねえ! ひとがいっぱい!』

『おれ、こんなにたくさんのにんげん、はじめてみた!』

『ばぶばぶば~!』


 カラちゃんたちも興奮して声をあげている。

 歩いている人たちも町人から魔法使い、重そうな鉄の鎧を着た戦士まで、いろんな人がいた。


 そんなお上りさん状態のわたしたちの前を、ルカさんが早足でスタスタと歩いていく。わたしは置いていかれないよう、あわてて追いかけた。

 カートは子ども三人が乗っているとは思えないほど軽くて、これもルカさんの魔法のおかげかな?


 やがてルカさんがたどり着いたのは、黒檀の扉が美しい、シックな雰囲気ただよう建物だった。

 わたしたちも中に入っていいのかな……? 悩んでいると、ルカさんがくいっと指を動かす。その瞬間、カートがふわりと浮かび上がって自動的に中に運ばれた。


「わっわっ! 待ってくださ~い!」


 中にいたのは、ルカさんと同じようなローブに身を包み、きびきびと忙しく動き回っている魔法使いたちだ。

 その中で、メガネをかけたひときわ背の高い男性が、ルカさんに気付いて驚きの声を上げる。


「おや? ルカじゃないか。めずらしいね、君が自分からやってくるなんて。いつも我々が必死に捕まえないと、声すら聞けないのに。それに……後ろの子は誰だい? ルカくんが女の子を連れているなんて」


 その声に、室内にいた魔法使いたちが一斉に振り向いた。かと思うとわっと群がってくる。わたしはたじたじになった。


「だれだれ!? ルカのやつ、ついにカノジョができたのか!?」

「嘘~~~! あれだけ女の子に対して無視を決め込んでいたのに、どういう心境の変化!?」

「え、えっと……! あの……!」

「っていうかこの子どもたち何!? まさか隠し子!?」


 “隠し子”の言葉に、その場がさらに湧きたつ。そこへ、ルカさんが不機嫌そうに言った。


「違う。森で邪竜に捕まっていたのを保護しただけだ」 

「な~んだ」


 途端に皆のテンションが下がった。


「そうだよねぇ……『顔よし家柄よし頭よしの天才魔法使い。なのに、女にだけ興味がない』のがルカだよねぇ……」

「なぁなぁ、その子ルカの彼女じゃないんなら俺に紹介して――イテッ」

「お前たちうるさいぞー。さっさと仕事に戻れー」


 眼鏡の男性に怒られて、魔法使いたちがしぶしぶ持ち場に戻っていく。それからルカさんは、眼鏡の男性と何かを話していた。

 時々漏れ聞こえてくる内容からして、ファブニールさんのことを報告しているらしい。「要警戒」とか、「引き続き観察」とか、そんな言葉が聞こえる。


「じゃ、そこののかわいいお嬢さんにもよろしく」


 やがて会話を終えたらしい眼鏡さんに送り出されて、わたしたちは建物を出た。


 あれがルカさんの職場かぁ……。いい人そうな人たちばっかりだったなと思いつつ、今度はファブニールさんにもらった魔鉱石を換金しに行く。

 交渉はルカさんにお願いしたんだけれど、ずっしりした袋になって帰ってきて、わたしは驚いた。すぐさまそれを持って、靴屋に駆け込む。


「わあ、すごい! この靴、本当に軽いですね……!」


 ルカさんに案内された店で買った靴は、スニーカーに負けないぐらい履き心地がよかった。見た目は普通のブーツなんだけれど、クッションが入ったようにふかふかな上に風通しもよくて、蒸れる心配もなさそう。


「魔法靴だからな。値は張るが丈夫だ」

「魔法、便利ですね……!」


 お金はいっぱいあるし、この調子で服も新調しちゃおうかな……!


 わたしがうずうずしながら辺りを見渡したその時だった。ふいに、商人たちと思しき男性たちの話が耳に入る。


「聖女リサ様がねえ……。倒れるのは、これで何度目だ?」

「そんな状態で戦争なんかできるのかね? こりゃ逃げ出す用意もしておいた方がいいかもしれないな」


 『聖女リサ』。

 その言葉に、わたしはバッと振り向いた。

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