第055話 やばぁ……

 なんでこんなところに皆がいるんだろう。それに、なんで目を瞑ったり、手で顔を覆うようにして隠して悲鳴を上げているんだろう。


 何人か全然手で目を覆えてなくて僕の方をガン見しているし。


「あの、ルビィさ――」

「そ、そんなことより早く隠しなさいよ、このバカ!!」


 僕がルビィさんに尋ねようとすると、僕の言葉を遮って怒鳴る。


 隠す? 隠すって何を……。


「あっ」


 ハッとして自分の体を見下ろすと、制服がイカ害獣の墨のせいで溶けていて、僕は真っ裸になっていた。


 あの服思ったより脆かったんだな……どうりでなんだかスース―すると思っていたんだ。


 流石に外で真っ裸というのは恥ずかしいので、僕はいつものエプロンを身に付けた。


「これでよし」


 とりあえず、これで体は見えなくなった。


「全然よくないわよ、この変態!! ちゃんと服着なさいよ!!」

「は、はい。分かりました」


 僕は良いと思ったんだけど、なぜかルビィさんに怒られてしまった。


 隠れているのにダメなのか?


 仕方ないので普段着を着た。


「あっ」


 そこで僕は再びハッとする。


 僕はさっきまで真っ裸だった。近くには戦乙女たちが集まっている。僕の裸を見られた。


「レイナって実は男だったの!?」

「すっごい大きかったわ……」

「あれが普通なのかしら?」

「お父様や弟のとは比べ物にならなかったわね……」


 つまり、僕が男だってことがバレてしまったということでは……。


 その答えにたどり着いたとき、僕の顔から血の気が引いた。


 今回の仕事は皆に男だとバレないようにしなければならなかったのに、バレてしまったということは、もしかして僕は解雇……?


「あの……学園長……」

「皆まで言うな……」


 学園長の方を向いて話しかけると、途中で話を止められてしまった。


 いよいよ解雇説が濃厚になってくる。


 僕は思い悩む。


「皆の者、よく聞くのじゃ!! ここに居るレイナは実は男じゃ。本名はレイという。じゃが、レイのことは責めんで欲しい。その責任はワシにある。レイが女装をしていたのは、今回の遠征についてきてもらうためにワシが頼み込んだからじゃ」


 ここを追い出されたら、行く場所なんてない。僕みたいな田舎者を雇ってくれるところなんてここ以外ないだろう。


「そういうことだったんだ」

「それならレイナ……いや、レイ君を責められないかも」

「どう見ても女の子にしか見えなかった」

「男の娘……ぐふふっ」


 どうしよう……もし解雇されたら、また実家に戻るか? 家には結界が張ってあって誰も入って来れないからそのまま生活するのには困らないし……。


「レイはワシの師匠である大賢者カトレア様の孫にあたる。そして、男なのにもかかわらず、女にしかあつかえぬはずの魔装を顕現させ、料理には普段の数倍の力を引き出す効果があり、体操とマッサージにはさらに数倍の力を引き出す効果がある。ワシはその力を見込んで礼に今回の遠征に来てくれるように頼んだのじゃ。レイは快く引き受けてくれた。レイがいなければ、ワシらはとうにモンスターどもにやられておったじゃろう。それは皆が感じているはずじゃ」


 でも、僕は沢山の人といる生活を知ってしまった。ここでの生活は賑やかでとても楽しく、充実したものだった。


「確かに」

「レイ君がいなかったら、最初の群れも怪しかったよね」

「あの数万以上の大軍を見ただけで心折れてたかも」

「そうそう。でも不思議と全然そういう気持ちにならなかったんだよね」


 多分一人での生活は退屈で寂しいものになると思う。


 そう考えると、実家に戻るのは嫌だった。


「そして、最後の戦いを見た者もいるじゃろう。世界最強であるワシでさえ手も足も出なかったモンスター相手を寄せ付けない強さを持ち合わせておる。ワシらはレイに助けられた。どうか性別を偽っていたことは水に流してやって欲しい」


 どうにかしてここに残させてもらうことはできないだろうか……いっそのこと記憶消去魔法を使ってしまうか? 


 いやいや、悪人や犯罪者ならともかく皆は善良な戦乙女ヴァルキリーだ。そんな非人道的な真似できるはずない。


「学園長、頭を上げてください!!」

「私たちはレイ君を責めたりしません」

「そうです。感謝こそすれ、責めることはありません!!」

「命の恩人にそんなことできるはずありません!!」


 こうなったら、皆に頭を下げて直談判するしかないか……。


「皆、ありがとうな。それと、実はレイには先日から戦乙女ヴァルキリー学園の寮で働いてもらっておったのじゃ。じゃから今回この遠征に同行してもらうことができた。できれば、今後も我が学園の寮で働いてもらいたいと思っているのじゃが、どうじゃろうか」


 僕は意を決して顔を上げる。


「私はレイ君が学園の寮で働くのに賛成します!!」

「異議なーし!!」

「レイ君は得難い力をお持ちです!! 我が学園の人材に相応しいと思います!!」

「ぜひこれからも私たちの学園で働いてほしいです!!」

「え?」


 そしたら、僕は何も言っていないのに、いつの間にか僕が寮で働いてもいいという声が沢山の戦乙女ヴァルキリーから上がっていた。


 誰一人として反対している人はいなかった。


 僕は状況が飲み込めなくて呆然となる。もしかして皆、僕の心が読めるのかな?


「うむうむ。レイよ、皆がこう言っておるが、お主は今後も我が学園で働いてくれるか?」


 なんだかよく分からないけど、僕の答えは決まっている。


「ぜひ、働かせてください!!」


 僕は声高らかに叫んでいた。

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