第021話 完全に理解した
「ルビィさんはどっこかなぁ?」
街の外で僕はルビィさんの居場所を探る。
それに利用するのは魔力。
魔力の質は人によって違う。ルビィさんの魔力は燃え盛る炎みたいな感じ。とっても特徴的で分かりやすい。そのおかげで簡単に見つけ出すことができた。
「おっ、案外近い場所にいる。これならすぐに届けられそうだ」
ルビィさんの魔力の気配がある場所は思っていたよりも近い。
遠出と言っていたので間に合うか心配だったけど、このくらいなら余裕をもって届けられる。
僕はルビィさんの魔力を目指して一直線に走り出した。
「うわぁあああああっ!!」
「な、なに!? 突風!?」
「きゃぁああああっ!!」
なんだか後ろから人の声が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね。
僕は気にせず、そのまま走り続けた。
◆ ◆ ◆
――コンコンッ
「入れ」
「学園長、レイ君が寮を出ました。街の外に向かっているようです」
執務をしていたワシのところにキリカがやってきた。
どうやらレイが動き出したらしい。
「そうか。ルビィ君のところに向かっているか?」
「今はまだなんとも。ただ、方角は合っているかと」
ルビィ君はそろそろオークたちと戦っている頃じゃろう。レイが動き出したということは、もしかしたらオークたちが予想以上に手ごわいのかもしれない。
ルビィ君の居る場所まで数百キロ以上離れとる。すでにピンチになっておるのなら、普通なら間に合うわけないのじゃが……そもそもどうやって居場所を特定したんじゃ?
「えっ!?」
ワシが思案していると、キリカが突然驚きで目を見開いた。
「どうしたのじゃ?」
「レイ君がルビィさんのいる方角に一直線に走り始めました。そのスピードは恐らくワイバーンの三倍以上です!!」
「なんじゃと!?」
キリカの魔装は弓。そして、彼女の魔装には珍しい特殊能力がある。その能力は視界を遠くに飛ばすことができる千里眼。その力でレイを監視して貰っておった。
彼女の言うことが本当であれば、驚くのも無理はない。
ワイバーンは空を駆けるモンスター。その辺を飛んでいる鳥なんかよりもさらに速い。そのスピードがあれば、ルビィ君のいる場所まで三十分とかからないはずじゃ。
その三倍以上速いということは、十分かからずにルビィ君のところまで辿り着けるということ。
普通の部隊ならここから準備をしてルビィ君のいる場所に向かったら、何時間もかかることを考えれば、ありえないスピードじゃ。
「さらに加速!! モンスターを全て跳ね飛ばしています!!」
「なぬぅっ!?」
速いだけでなく、モンスターさえ寄せ付けぬか……。
もう数分程度でルビィ君の許にたどり着くのではないだろうか。
はははは……師匠は予想以上にとんでもない孫を残していきおったわい。
ワシは頬が引きつるのを止められなかった。
◆ ◆ ◆
ルビィさんを目指して最短距離を進んでいると森の中に入った。
小さな害虫が目に入る。体長は一メートルくらい。見た目はムカデによく似ている。
ウチの実家の山に出てくるムカデは、体長二十メートル以上あるので、その赤ん坊なのかもしれない。
「キシャアアッ」
赤ん坊なのに襲い掛かってくる。
「ギシャ……」
やっぱり赤ん坊でも害虫は害虫。僕はそのまま跳ね飛ばした。
婆ちゃんも害虫は元から絶てって言ってたし、容赦しない。
「よし、少し早めに走ろうかな」
最初は準備運動がてら軽いジョギングをしていたけど、そろそろ体も温まってきたので、スピードを上げることにした。
途中、害虫だけじゃなくて害獣の赤ん坊もいたので、全て弾き飛ばしておいた。成長する前にきちんと叩いておかないとね。
「ルビィさんの気配が近づいてきた」
数分程かけて、山越え、谷超え、川越えて、僕はルビィさんがいると思われる森の近くにやってきた。
そろそろルビィさんが見えてきてもおかしくないはずなんだけど……。
「ルビィさぁあああああああああん!!」
僕は気付いてもらうために叫ぶ。
「なんで豚に囲まれているんだろう?」
見えてきたのは無数の豚。その中心にルビィさんがいるのを感じる。
あっ、そういうことか!!
僕はその理由を完全に理解した。
ルビィさんは遠出をしてモンスターを倒した後、戻ってきてここで食事に使う豚肉の調達をしてくれていたんだ。
ルビィさんって思ったよりも優しいんだな。
「ルビィさぁあああああああああん!!」
僕は嬉しくなって再び彼女の名前を叫んだ。
豚たちがギョッとした顔で僕に戯れてくるけど、邪魔なのでそのまま弾き飛ばして進む。
「ルビィさぁあああああんっ!! お弁当忘れてましたよぉ!!」
人垣ならぬ豚垣を吹き飛ばすと、ルビィさんがまるで激戦の後のようにボロボロの姿で膝をついていた。
やっぱり……。
どこかでモンスターという強大な存在と戦ってきたんだ。
それなのに、激闘の後で疲弊しているのにもかかわらず、わざわざこの森によって豚肉の調達をしてくれていたんだ。
それなら思ったよりも学校の近くにいた理由も分かる。
ルビィさんはなんて優しい人なんだ!!
僕は彼女の優しさに感動した。
「はい、これ。忘れてましたよ」
「え、あ、うん」
「豚肉を調達してくれてたんですね。ありがとうございます。言ってくれれば僕が獲ってきたのに」
僕はウキウキとした気分でポケットからお弁当袋を取り出して渡した。
ルビィさんの顔には疲労が色濃く出ている。
豚は女の子の匂いが好きだから集まって来る。こいつら結構鬱陶しいから、辟易としてしまったに違いない。
これ以上、ルビィさんの厚意に甘えるわけにはいかない。
「は?」
「せっかくなんで、全部貰っていきますね!! それでは!!」
「え、いや、ちょっと待って……」
ルビィさんに挨拶をして僕は豚たちを部位別に切り分ける。豚の親玉である豚キングもいた。こいつは中々お目に掛かれない美味しいお肉だ。
今日はルビィさんのためにこいつで美味しい料理を作ろう。
僕は切り分けた肉を全てエプロンのポケットに仕舞いこんだ。
◆ ◆ ◆
「一分かからずにオークエンペラーの群れが全滅しました」
「はぁあああああああああっ!?」
キリカの報告を聞いたワシの叫び声が学園長室に木霊した。
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