おいしい怪獣

 昨今、地球上に現れる巨大生物をまとめて怪獣と呼んでいるが、どいつもこいつも何十メートルもあるわけではない。

 とある村に現れたのはウサギにそっくりで愛らしい見た目をしていた。

 体長は7メートル前後、体高は4メートル程度と大きめのゾウと同程度だ。

 ただ一羽だけではなく山にある程度の数の群れを作って棲息していた。

 群れを成して村が襲われればひとたまりもなかっただろう。 

 ところがこいつは大人しい性格の怪獣であり、人間にも簡単に倒すことができた。

 銃で撃てば死んでしまうのだ。

 巨大な身体が災いして、銃弾を避けることができない。ウサギらしい俊敏さもない。


 しかし、どうやって増えているのかわからないが、何羽倒しても定期的に山から下りてくる。

 その度に人間の餌食になるのだからあまり頭もよくないようだ。

 例によって怪獣愛護団体やら動物愛護団体やらがウサギさんが可哀想だと騒いでいるが、村人は誰一人耳を貸さない。

 当然だ。

 こいつらは自分の家の前に4メートルのウサギが現れて同じように言えるのだろうか?


 簡単に倒せるのはいいが問題は死体の処理だ。これだけの大きさだと仕留めた後に動かすのも大変だ。

 最初の数羽は国が調査するということで、自衛隊が持って帰ったが最近はお好きにどうぞということで放ったらかしだ。

 国はちょっと大きいだけのウサギのことなんか構ってられない。


 そしてこの村はこのウサギ型怪獣を食肉用とすることにした。

 非常にコクがあって美味らしい。

 本物のウサギ肉は鶏と豚の間くらいの味で少し獣臭さがあるようだが、それよりも美味いという。


「今日は名物の怪獣カレーをいただきます」


 テレビの向こうでリポーターがカレーを美味そうに頬張る。


「お肉の味がしっかりしてますね。今まさに怪獣を食べてるんだという感じがします」


 どんな感じだよ?


「今週末から開催されるウサゴン祭りではこの怪獣カレーの他に串焼きや餃子といった怪獣料理が振る舞われるそうですので、皆さん是非足を運んでみてくださいね」


 怪獣の肉を食べるなんてゾッとする。

 僕にはわかる。

 こいつらは最初から人間に食べられることを目的にしてるんだ。

 抵抗せずに撃たれるのもわざとだ。

 

 だって……テレビに映る村人たちの眼がウサギのように赤く反射したのを僕は見逃さなかった。

 あいつらはきっと人間を中から支配してるんだ。

 食われてるのはお前らだ。

 

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