わたしの愛する人へ
Winter
第1話
男は、穴を掘って埋める。
冷たい風が頬をなでる。雪を押さえつける音がする。
かじかむ手を錆びた鉄のスコップに握らせる。
男は、焦っていた。早く早く埋めなければ。
だんだんと暗闇だった森林の隙間から朝日が現れる。
白い息が光る。
「はぁはぁ、このくらいで……」
外の空気は早朝の温かさを取り戻しつつあった。
ふと顔を上げると、あまりの眩しさに目がくらんだ。
そして、同時に男は昨夜、自分の行ったことが鮮明に蘇ってきた。
俺は人を殺した。
その事実を今、ようやく。受け止めたのだ。
しばらくそのことを夢か何かだと思っていた。
そして、今俺は初めて…罪を犯して、重ねている。
「さて、帰るか」
それなのに何故か…とても晴れやかな気分だ。
朝食は、どうしょうかとスコップを持って、
山を降りようとした。が、しかし、
フフフ……フフッ
不気味な笑い声がこだました。
声は森林中に響き渡っているのに
周囲を見渡しても全く人の気配がない。
「まさか、狐にでもつままれたか?」
ひきつる顔を抑えて一人ポツリと言うと再び歩みを進める。すると、背後から人の気配がした。
「あーー…やっちまったね~お兄さん?」
可愛らしい女の子の声は今度は、確実に向けられたものだった。冷や汗が滲む。
「ねね?今どんな気持ち?チョー絶望的ってやつぅ?」
振り返ると白く、つばの丸い帽子に白いワンピース。
小学生5年生くらいの背丈の子が桃色の髪をなびかせてケタケタと笑っていた。
「あ!今、小学5年生くらいかなっておもったでしょ?
でも馬鹿にしないでよ!これでもお兄さんより生きてきた年数は長いんだから!」
俺は、息をついて言う。
「はぁ…大人をからかうな。
そんな格好じゃ寒いだろ。帰り道は?親はどうした?」
そう言って、被っていた冬のコートを被せる。
全く、最近の子はどうなってるんだこんな朝っぱらからこんな怪しい場所に来て親は心配しないのか。
そんなことを思いながら体を擦ってやる。
先程まで変なことを言っていた少女はまだ、怪しく微笑んでいた。
「…お兄さん優しいんだ」
その言葉に何も返せずにうつむく。
「一応、帰り道はわかるか?」
そう言いかけたときにおもむろに少女は口を開けた。「ねぇ、その下に埋まってる死体…バレるよ」
サァッと血の気が引いた。
「雪の中の証拠隠滅って難しいんだよね。たくさんほっても雪ばっかりでさ、頑張って掘らなきゃ雪が溶けたとき埋めたと思った死体の位置が案外浅くて、数日後発見だってよくあることだよ〜。」
震えて、固まっている俺に少女の翡翠の瞳が刺すように見つめる。
「まぁ、完全に隠滅するつもりがないのかな?これも計画のうちなんだったらこれでいいのかもねぇ〜。」
息が詰まる。
耳鳴りがする。
あぁ…あぁ…これは駄目だ。バレてはいけない。
だから…
「許せ」
そう言って、腰に下げていたロープを少女の首に括る。
少女白い肌が赤くなっていって、だんだんと血色がなくなっていく。足をバタバタとして抵抗する少女を押さえ付け、グッと締めると。動かなくなった。
「はぁはぁ…はぁ」
腰を抜かす。雪の下に死体2つ…その時の少女の顔が髪が瞳が透けた肌がとても…美しく感じた。
俺は狂ってしまったのかと思った。こんな物に心奪われるなんて…そう思って、頬に手を触れたときだった。
「ゲッホ…ガハッはぁはぁ…はぁ」
なんと少女が蘇った。血色が失ったはずの頬に赤味が指し、なんともなかったかのように服についた土を払い、帽子を被る。
「……なんだ…おま…えは…一体」
朝日が彼女を後光の様に照らす。ピンク色の髪が靡いて、金に光る。
フフフッフフッフフフフフフ…
また、森林に声が響き渡る。
「私?私は死ねないのフフッ…驚いちゃった?」
この世には、人ならざるものがいる。それは人のふりをして、窮地に立った人の前に唐突に現れる。バケモノ。
そして、そのバケモノは俺に交渉を持ちかけてきた。
「ねぇ、お兄さん気に入っちゃったから…
私と契約して…一緒に探して欲しい人がいるの。その代わり死体の正しい隠し方を教えてあげる…どう?」
俺はただ黙って伸ばされた白く細い小指に自身の骨ばった小指をかけた。
【この世界には、人間社会に溶け込み暮らすバケモノがいる。】
そんなニュースが街で盛り上がりはじめたのは、ここ数年のことである。
発端は、とある女子高生の自殺から始まる。
教室の四階から飛び降りた少女の死体が服と血を残して、忽然と姿を消した。運が良いのか悪いのか、下校時に見かけた同級生は飛び降りるたときの事を語る。
「彼女の死体は溶けて消えた」
と、その後の血液検査で飛び降りた少女の採取した血液から明らかに人間のものではない成分が発覚した。
そして、同じ様な件数がこの日を境に大きく広がった。
どれも自殺。
そして、見かけたものは同じ様な事を言う。
「死体が溶けて消えた」と。
もう一つ特徴がある。
自殺をした者たちは、生まれたときから派手な髪色や目をしているらしい。
この世に人間ではない同じ形をした生き物がいる。
良い噂も悪い噂も広まってネットで適当につけられたそのものたちの名前はバケモノ。
白いカーテンが靡く。
光があたって金色輝くそれを見て…あの不敵な笑みを浮かべる少女を思い出す。
自分とは無関係だと思っていた。寧ろ、そんな話なんかこんな田舎にはまだ、あまり実感のないことだ。
それに出会ったとして、危害を加えたという事例はない。にも関わらず゛バケモノ ゛とは、化けた物と言えば確かにそうだが…あまりにも可哀想でなんの捻りもない。
とはいえ情報も少なすぎて全体的に名付けようもない。
死んだら溶けて消える。
それまでは同じ人間。
こんな少ない情報量で一体何を読み取ってつけたらいいのか…ノートには、進んでいる授業内容とは別の内容が余白にいつの間にかシャーペンが走っていた。
「亜人」「消人」「物怪…」
どれも何となく当てはまらない。
もっといい名前が見つかればいいのにとぐるぐるとペンを回して、見られないように消しゴムで消す。
そして、ふと疑問に思った。
「そういえばあいつ…生き返るな…なんでだ」
カッカッカッ…と黒板を削る音が響く。
すると、考え事をしていて無意識に回していたシャーペンを落とす。床に落ちたペンを拾おうと手を伸ばしたとき、制服の袖口にこびりついた血を見つけた。固い。固まったそのシミを見て、あの夜のことを思い出す。赤い。思い出。
息を飲んで手を上げた。
「先生…すみません。トイレに行ってきます‥」
白い洗面台に水の音が響く。擦っても擦っても取れないシミに焦って、石鹸をこすりつける。削られた石鹸の跡が水に流れて血と共に消えていく。
ようやく取れたシミの跡が濡れてぐしゃぐしゃだ。
「はぁ…はぁ…」
腰が抜けて床に座り込む。そこでようやく自分の手が震えていることに気がついた。
「1週間経って……いまさら何を…」
俺は、結局学校学校を休むことにした。
駐輪場につくと人目がつかないところでバイト先に電話する。
「はい…はい…すみません。明日から頑張ります。」
一息つくと自転車に乗る。
高校1年生 黒崎 真広 一人暮らし、雑貨店のバイト研修中。
行きたい大学 無し。夢 無し。
それが俺のプロフィール。
何も不思議じゃない。高校で一人暮らしは少し珍しいが何処にでもいる高校生。アパートの駐輪所に自転車を預けると錆びた階段を上がる。鍵を開け、取っ手をひねる。
数畳の畳に少し開いた小さな窓。その日差しにかこわれて、桃色小さな少女が影絵で遊んでいる。
こちらに気がついたのか恥ずかしそうにして、固まる。
「た、ただいま…」
いつもはつかめない表情をする翡翠の瞳が泳いで耳が少し赤くなった。
「は!うぉおぉおお兄さん…っい、いつもよろり早いね?」
「なにを恥ずかしがる?と言うか…゛つまらない遊びね゛とか笑ってたくせに意外と可愛いところもあるんだな…翠」
俺は、あの公園で出会ってから不思議な少女…のような子【翠】と暮らしている。あの契約をした後、口を開けば自分は神だなんだと言い張り、よく刃物で自傷をする。警察に引き渡すわけにもいかずに一週間…取り敢えず事件も何も無く過ごせている。が…
コホンっと咳払いをして、そんなことはどうでもいいとサッと立ち、ビシッと人差し指を向ける。
綺麗な翡翠色の目が日に当たるたびにこいつが化け物というより神に近い存在なんじゃないかと思う。
「契約をわすれてはない?私は神ぞ!
毎日学校などに行きおって!何もできないじゃん…」
始まった。疲れているんだと体で示めすように壁にもたれてカバンをおろす。
はぁと床にへたりこむ俺。
首を傾げる少女。
「だいたい!その名…「あんたなぁ…毎回毎回…」」
俺は、ここ一週間からのストレスぶつける。
「毎回毎回!自殺してるあんたを誰が処理してると思ってんだ!こっちは、生活のために勉強とバイト両立してだよ無茶言うな…」
いつもおとなしい俺が怒鳴るのを見て…唖然とする自称神の少女。俺の秘密を握って、いつも俺を揺する。顔が圧倒的に良く、髪も目も嘘みたいな色をしている。
ピンクなのに毛先から緑。目は、外国人とのハーフのそれだ。ビー玉のようだ。かといって何かコスプレをしているわけでもない。あぁ…可愛いけれど生意気だ。
一緒に手助けしてほしい人がいると…それだけなら良かった。バイトでヘトヘトになって帰ってきて、ドアを開ければ、調理場の包丁で胸を刺している。
最初は、トラウマが蘇って吐きそうになった。というか吐いた。そして、息も絶え絶えに彼女を揺すったら。あの雪の日のように血色を取り戻す彼女。
なんとなくバケモノって呼んでしまう人達のことが分かった日だった。
かと言って警察に見つかっても厄介だ。幸い見つかる親もいない。彼女が探しているものが何なのかそれは分からない。しかし、彼女が探しているのが人なのならこちら側からやってくるだろう。
そんな日々がいつも続いた。しかも、起き上がったら゛今日も何もできんかった゛と泣いてくる。
「仕方が無い!死ねないのよ!死にたいのに!」
「まぁ、百歩譲ってそれはもうどうでもいい!!契約?というやつの具体的なことも本当の名前も教えくれないは、可笑しいだろ」
「それは……もしかして私…説明してなかった?」
ケロッとしたように言う。
駄々をこねた様に口をとがらせる。
頭が痛くなってきた俺は、はぁと息をついて制服を着替える。
「なんだか今日のお兄さん子供みたい…」
「はぁ!おま…え!」
事もなげに言ったその言葉にカチンと来た。一言なにか言ってやろうかと考えた瞬間のことだった。
パチンッとやけにきれいな音がした。ジンとした痛みが自分の右手からする。
あれ、俺は何を…した…
そして、目に映ったのは自分の左頬を押さえて驚きのあまり言葉を失った少女だった。
「ちが…その………………す、すまなかった。あ、大丈夫か…」
あまりにも白々しい言葉が自分の耳に響いて、恐ろしくなる。息が上がって、苦しくなる。
駄目だ。思い出したくない。そんな、自分の思いとは裏腹に溢れ出して止まらない。酒を飲んで暴れる父と普段は優しいのに学校の点数が低いと平手打ちする母。
悲鳴と怒号。
「ご、こ、ごめんなさい…ごめ、」
フッ
と鼻で笑うような音がした。
フフフッ…フフフ
「ほんっと今日のお兄さんは疲れてるね…どうしたの?」
ふわりとスカートを翻してこちらを見下す。あのときの不思議な空気が漂う。俺はなんだか怖くなって、なんとか切り替えようかと口を開こうとした途端のことだった。少女は低い声で囁いた。
「…オマエ…殺したやつのことおもいだしているな?」
また、翡翠の瞳が不敵に微笑んで俺を映す。すべてを見透かしたようなこの瞳。それは、少し自身の母親ににていた。
――――――
母は、賢かった。
いつも俺の上に立っていろんなことを教えてくれた。
何も返せなかった。
「私がおばあちゃんになって大きくなったら真広は、私の面倒見てくれる?」
シロツメクサとクロバーが生えた公園で花冠を作りながら母はそう言っていた。頑張りたかった。そのためなら何でも出来ると…
――――――
「オマエが殺したものは、戻らん。それにオマエは別に悪くなかろう。浮気して蒸発した父親に絶望した母親に心中を迫られただから身を守ったそれは…………
何も悪くはない」
ホントに?
ホントにそうか?
いつでも夢に見る。まだ、一人で生活してる今が夢みたいだ。どちらが夢なのか現実なのか…俺は、本当はまだあの家で理想の子供を演じているのではないか…と…
本当は、もうあのとき俺は死んでいたのではないか…
「とにかく…もうお兄さんの殺した死体は私の体の中で消化されて同化している。だから、気にせずとも我が身肉となったことをきっと光栄に思っているわよ」
うずくまってないていた俺は、固まって…ゆっくりと正座した。泣きながら翠の瞳を見てなんて、綺麗なんだろうとそう思う。
今度は、あの母親の全てを見透かすような目というより透き通って…言うならば全てを許している目。ぜんぜん違う…けれど何処か懐かしい感じがした。
「というわけで歯を食いしばってね。お兄さん!」
「へ?」
ペチッ
アハハといつもの調子で笑う。
なんだか呆気にとられて…ぼっとした。それほど痛いわけでもなく、痛くないわけでもなく不器用に手をたたかれてなんだか安心したような気もする。
「落ち着いた?」
ケロッとした雰囲気で言う今度は、丸いビー玉のような瞳でと俺を見ていた。
「疲れた」
そう言って、風呂場に行って今日も彼女の血を洗い流す。やだ。やだやだ。もうこんな生活嫌だ。でも契約は契約だ。
夕ご飯を作りながらふと思い出したことを口にした。
「そういえば契約の内容を聞いてない。」
そういいながら包丁を片手にそう言った。
「言ってなかった??」
「はぁ~~上がり込んで生活して1週間…お前…死んでばっかり…こっちは、忙しいんだぞ!暇なのか?」
「暇じゃないもん…忙しいの…」
「何が…」
呆れたように言い放った。ニンジン、玉ねぎ順番に切っていくと同時に鍋にまな板ごとぶちまけて、深くため息をついた。
「こうやって私が死んで、また生き返ってこれが大事なの。そうそう!見つけてほしい人を一緒に探してほしいのそれが契約」
ようやく明かしたその内容に案外…あっけない。
あきれてしまった。会話が通じない。先ほどまでの神的な姿は何処へ行ったのか…しかし、そんな彼女が何となく好きな自分を見て見ぬふりをした。
「どうすればいい」
ため息混じり、ルーを入れてかき混ぜながら言い放った。
「うぅ~ん…分かんない」
皿をぶちまけた。
「お前いい加減にしろよ。もぉ~」
割れた、破片が散らばって手を切った。痛い。流れていく血を見て…ただ怒りを押さる。
「そうか。つまりなんの為にお前を養ったのか分からないまま…俺は…」
涙が溢れた。こんなに疲れたのは久しぶりだ。ただ、流れるだけの涙。声も出ない。
「探してよ。何となく感で近づいてるのが分かるの。あなたとならやれるってそう言われてね!」
優しく背中をさする。にっこり笑った。それは、まるで…
それ以上は考えないようにした。そして、両手で自分の頬を叩く。
「分かった。自分のしたことだ。守る。それしか俺には出来ない。」
そう言って、溢れた皿もそのままにして…ただゆっくり眠った。時よりぴょんぴょんと踏まれたりするので熟睡はできかったがそれでも…一人でいるよりは、なんだかとっても暖かった。
寝て起きたら、そこには見るも無残な光景が広がる。
グッチャグチャのベットにボサボサの髪。
神…いや自称神の少女。
「はぁ~~あのな…」
なんで…こうなった。と、ぼんやりとシャツをそろえて言う。
「なんで、ここで死ぬかね…」
ぱったりと動かなくなっている白いワンピースに独りごちる。
「首を絞めるな…」
めんどくさい。朝から一番めんどくさい作業が始まる。シーツを緩めるとぐったりとした体が落ちてくる。
そして、顔からどんどんと色がついていった。
「まだ、始めたばっかりだったか…」
色んな後片付けをしなくて、まだマシだった。
ホッとして横にしてやると、目を唐突に開けて飛び上がった。
「いや~危ない…じゃない!!…もうちょっとだったのになぁ」
「いや~もうちょっとだったら俺が面倒だった」
そう言って、布団を片付けた。畳の端に寄せると頭をかいてあくびをする。
いつものように歯を磨く。時よりぴょんぴょんしているウザいやつをとりえず畳に座らせて遊ばせる。
「意外と気にいってやがって…勝手にやってろよ」
と愚痴る。
「えへへっ」
子供なのか大人のか…それは、俺も同じか…
そう思いながらただ、歯を磨く。
洗面台に吐き捨てると混じって血が出る。
水で洗い流しながら今後のことを考えて、ため息が出そうになる。
もう…一旦バイト辞めるか。
コイツの事だ。分かってるんだろう。形も色も何も無い情報も何も無いが…
「旅に出るか」
そう言って…影絵で遊ぶ自称神を見ながら呟くと
「それでいいの?」
「…」
一瞬迷って、決める。
「仕方がない」
「うん!!!!」
明るく愛顔に屈託のなくそう呟く。
「ただ、死ぬのは辞めろ…お前マジで辞めろ」
「やだやだ!!」
「ヤダじゃない!!」
一瞬の沈黙。
「分かった…切るのはいい。巻いとけ」
そう言って包帯を棚から出す。暫く使ってなくて、古びているが…まぁ~マシだろ…そう思いながらしっかり…両手を握って渡した。
「えへへ…お兄さんさ…なんでもないけど…私のことほっておけないよね」
「やっぱり返せ!お前には…こっちだ」
そう言って棚から冷えピタを出して投げる。
「それでも一生貼って、過ごしてろ!」
箱を握って、頭に冷えピタを張った翠は、わわっと仰け反って…笑った。
「しにたいなぁ」
なんでだよとは口にしなかった。顔も見たくなかった。怖かった。
「死なないで…」
といいかけて辞めた。
「さて、支度だ!!」
ホイホイとやっていくと嬉しそうにケラケラ笑いながらでも…泣きながらそれを俺は、無視をして…気づかないふりをする。
支度して、行く途中で気がつく。
「どこ行こうか」
「何処でもいいよ。分かるから」
「分かるなら言えよ。」
「出てみないと分かんない」
「どっちだよ…」
馬鹿みたいな会話。でも…まぁ…なんかいっか。
そんな晴れ晴れとした気分で外に出る。
しかし、大雨であった。
「お兄さん…バカなの?」
「バカなのはお前も変わらん…神じゃねぇのかホントに…なんで俺も雨音に気がつかなかった…」
クッソ…なんでこんなことばっかなんだよ。と思って久々になんだか正当な怒りが込み上がってきた。物に当たったのも久しぶりかも知れない。
「仕方ないじゃぁ~ん!濡れながら行くぞ!」
そう言って飛び出そうとする自称神を見ながら止める。
「馬鹿野郎!もう…辞めてくれ…」
「なんで?」
「雨があったりするだろ?その後ビショビショになったお前を誰が面倒見ると思ってんだ…」
「やる気満々だった…お兄さんは何処へ…」
「知らん。バーカバーカバーカバーカ」
そう言って、結局、傘を分け合ってそのまま家を後にした。穴の開いた傘から雫がたまに流れ落ちて頭に流れる。ポロポロ…と音を立てて、ボロボロのリュックからは、音がなる。
「楽しいね…」
そう呟く…彼女の手を握ろうとしたけど辞めておいた。そう…見つかればコイツはいなくなる。いなくなれば……
と考えて辞めた。今が一番。今が一番なんだ。そう言い聞かせてただ歩いていった。
足跡が残ってるけど誰も気が付かない。
誰も見ない。
泥がはねて、足についた。彼女は、裸足なので心配していたが案外楽しそうだった。
「探しびと…もうちょっとかなぁ」
「出たばっかなのにか…」
「遠くかも」
「…」
「もう…いるかも…」
「じゃぁもう終わりだ」
「終わらないよ」
「そこにある」
「また、いい加減なこといいやがって…」
そう言って笑った。すると目の前にある雨も日傘したような気がした。泣きたいけど嬉しくて…悲しいほど嬉しい。
ウフフ…
そう隣で笑った。彼女が消えた。
「翠……翠……翠…!?翠!!」
そう言っても答えない…
もっと、名前を…俺がつけたのに…一回しか呼べなかったまだ…呼べなかった。呼ぶのが怖くて…怖くて
「怖かっんだよ!!」
えへへっ…
覚えてる?
「何が…」
ここはね…あの時の場所
「…」
貴方が私を見つけてくれた場所
私が貴方を見つけてくれた場所
「翠…」
なんでも許すよ!
神だから!!まっかせなーさい!
なんてね…
ポロポロとこぼれる涙と産声のようなうめき声がただ鳴り響いた。
「翠」
うん
「翠」
うん
「あいして……」
そういいかけてやっぱり辞めた。
「翠」
「お兄さんは、優しいね…」
「…鳴り響いてる」
「なにが?」
「君の声が…ずっと俺を救った…」
そう言いたかった。
「うん!!」
「探しびとは見つかったか?」
「多分…ね。多分だけど」
そう言って俺をじっと見つめた。
「えへへっ…」
おわり
わたしの愛する人へ Winter @akyamamine
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