第27話 パスワード

 テレビ画面に映し出された『 PASSWORDパスワード 』の下には、26個の四角い入力画面があって、さらにその下には数字が0から9まで並んでいる。


「リン、これって、26個の数字を入力するってことだよな?」


「うん……。でも、そんなヒントなんてゲームの中のどこにもなかったよ?」


「これはもう一度ゲームをしなおして、ヒントを探すしかないんじゃない?」


 クリアするのがむずかしすぎるゲームを作った張本人ちょうほんにん、まさやんが何だかうれしそうに言うけど、リンは「ちょっと待って」と言って真剣にテレビ画面を見つめる。それを見たこうちゃんはヘッドフォンを取り外し、プロコンから手をはなした。もう通常つうじょうモードのこうちゃんだ。


 それにしても、なんか頭の中で引っかかる。


 パスワード、数字ばっかりで26文字、だよな。ん? なんかそんなもの、やっぱりどこかで見た気がするのはどこでだ?! 数字ばっかりがずらっとならぶもの、えっと、それはゲームの中じゃなくってもっと別の場所で見た気が……


「あああっ! 思い出したっ! リーくん! 数字ばっかりずらっと並んでるって、ほら、あれじゃない?!」


 僕は昨日の夜おそくにリーくんと一緒いっしょに見た、ポケベルに映し出された数字のことをみんなに話した。


「バカなの?! 何でそんな大事なことはやく言わないのよ!」


「だって、忘れてたんだって!」


「で、もちろん、メモしたんだよねお兄ちゃん?!」


「あ……」


「もう本当バカなの?! お兄ちゃん!」


「や、リンリン、大丈夫だぜ、俺っちそれ、スマホで撮影さつえいしてるかも」


「「「「おおお!」」」」


 リーくんがスマホで昨日の深夜しんや撮影さつえいしたという動画を僕たちに見せる。


「ガッくんおどろかせようと思って、動画でってたんだよねぇ。ちょうビビっててガチで面白いし! お! ここじゃね?」


 リーくんサイテー! なんで僕の変顔撮って楽しんでんだ!


 僕の変顔を通り過ぎたあたりで、リーくんがスマホの動画を器用きように止める。


「リーくん、そこスクショしてみて!」


 リンに言われ、ストップした動画の画面をスクリーンショットで写真に撮って拡大してみると、それは数字だけではなくアルファベットもざった暗号あんごうのようなものだった。


【 N354041E1394253 】


「これ、何のことだろう? 15文字しかないし、それに、英語なんて入力できるボタンはテレビ画面にない……」


 リンがスマホの画面を見つめて考えている。僕も何かひらめけばいいんだけど、全く何も思いつかない。


「こういうのって、大体アルファベットの部分で切り離して考えるんだけど。そうだとすると、N354041と、E1394253ってことになるよね?」


「「「「うん」」」」


 とりあえず相槌あいづちを打つ僕たち六年男子。


 リンは探偵手帳たんていてちょうに一文字も間違まちがえることなくその暗号のようなものを書き写していく。


「NとEが何のことなのかわかればこのなぞは解けると思うんだけど」


「「「「ううむ」」」」


 またもやうなることしかできない僕たち六年男子だけど、僕の頭の中では、『N』と『E』が何を表すかなんて全くわからない。僕は、「NとSなら思いつくんだけどね」と思ったことを口に出した。NとSは磁石じしゃくだ。磁石という漢字はこの間、嫌というほど漢字ドリルで書いた。


「お兄ちゃん? 今なんて言った?」


「磁石ね、磁石、もう見たくないよ、磁石っていう漢字。画数が多すぎるんだから」


「そこじゃなくって! その前!」


「え? その前? 磁石はNとSってとこ?」


「それだぁ! それだよお兄ちゃん!」


 リンがいうには、磁石のNとSは北と南を意味しているという。よくわからないという顔をしている僕たちに教えるために、リンは自分の部屋から僕の地図帳と謎解なぞと大辞典だいじてんを持ってリビングにもどってきた。


「だからね、地図記号でも、ほらここ、Nが上にあるでしょ? これは北を意味するのよ!」


「でも、Eなんて記号、地図帳には書いてないよ?」


「お兄ちゃん、バカなの? 北と南があるんだから、東と西もあるに決まってるじゃん! ほら、この地図帳の10ページのところに書いてるでしょ?」


「「「「本当だぁ〜」」」」


「てことは、この数字、地図帳のはじっこにのってる、この小さい数字をさしてるのかな……」


 リンが地図帳をペラペラめくりながら、NとEの後に続く数字が書いてある場所がないかを調べ始める。僕たちはピザをかじりながらその様子をながめているけど、ほんとに地図帳から見つかるなんて思えない。だって、地図帳だし。なんて思っていたら、リンが「これじゃないかな?」と見ていたページを僕たちに差し出してきた。


「ここ、61ページと62ページの日本の首都しゅと、東京のページに、ちょうどこの数字が当てはまる場所があるよ。もちろん、細かくはわかんないけど、ほら、見てお兄ちゃんたち。この、横の35.40の線と35.42の線の間ね。それに、上に書いてある139.42の線と139.44の線の間のところ、何となく、暗号に書いてある細かい数字を合わせていくと、ちょうどここに、国立競技場があるの!」


「「「「こ、国立競技場!?」」」」


「うん! もしかして、ここを指してるのかも? そうなれば、26文字の数字、私すぐにわかるかも!」


 地図帳と一緒に持ってきた謎解き大辞典をペラペラめくり、「ここだ!」と声をあげたリンは、鼻息はないきあらくしながら探偵手帳に『こくりつきょうぎじょう』と一文字一文字の間隔かんかくを開けて平仮名ひらがなで書いた。そして、謎解き大辞典にのっている『ポケベル暗号表あんごうひょう』なるものを見ながら、一文字一文字、数字を当てはめて探偵手帳にメモしていく。


「できた!」


「「「「おおお!」」」」


「あのね、これはポケベル暗号表って言って、昔の人はポケベルでメッセージを送るときに数字で文字を打っていたの! 」


「数字で、文字!?」


「うん! ほら、ここ見て、この暗号表でいくと、〈こ〉はカキクケコだから、〈2〉の横の段で、〈5〉の縦の列でしょ?」


「「「「おおお!」」」」


「あかさたなはまやらわって順番に横段に数字がふってあって、母音のアイウエオでまた縦に数字がふってあるの。それを組み合わせると、ほら! 見てよお兄ちゃんたち!」


 リンが探偵手帳に書き込んだ数字を数えると、ぴったり26文字だった!


「「「「すげぇ!」」」」


 僕たちは急いでテレビの前に座り直し、こうちゃんがパスワードの下にその数字を打ち込んだ。


【25239243228513220432048513】


「「「「「ようし! いけぇ! 実行じっこう〜!」」」」」


 みんなの威勢いせいの良い声がリビングにひびわたり、実行ボタンを押した瞬間しゅんかん、正解を知らせる「ピンポンピンポン」という音とともに画面が切り替わった!


「「「「「いえーい!」」」」」


 ハイタッチをしてよろこぶ僕たち!

 すごいよすごいよ! 本当にパスワードは合っていた! と思ったけど、テレビ画面には、最初にお父さんのパソコン画面に映っていた文字と同じ赤い文字で、メッセージが映っていた。


〈 アスココマデコイサモナケレバデータヲハカイスルカイトウキューピー 〉


「お兄ちゃんたち、大変だよ! 明日、ここまで来い、さもなければ、データを破壊はかいする、だって!」



「「「「ガチで?!」」」」




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