第16話 海原展望公園

 海原展望公園うなばらてんぼうこうえん駐車場ちゅうしゃじょうから長い階段を登ると、潮風しおかぜかすかに香る広い芝生広場しばふひろばに出る。


「ウヒョー! ガチ、すげえいいながめだぜ!」


 リーくんがいうように芝生広場からは、広い海が見える。僕の住んでいる街には海はないけど、ずっと先に見えるみなとの近くには僕のおばあちゃんの家が建っていて、僕が東京から引っ越してくるまではそこで毎年恒例まいとしこうれいお泊まり会をしていた。


「お兄ちゃん、向こうのほうに見えるあの辺がおばあちゃんちだよね?」


「うん。お母さんは今日あそこにいるんだよな」


 お母さんは僕たちが出かけた後でおばあちゃんの家に行くと言っていた。お母さんのことを思い出したら、なんだか不安な気持ちもいてくる。だって、僕たちはお母さんにうそをついてここまで子供だけできているんだから。


「お兄ちゃん、絶対怪盗ぜったいかいとうキューピーを見つけ出してサイバーテロをやめさせようね!」


 リンがおばあちゃんちの方を見つめたまま僕に言う。それを聞いて僕の中に、お兄ちゃんとして何がなんでもサイバーテロを止めてやるって気持ちがき上がってくる。


「ようし! まずはもっかい模様もようの確認をしようぜ!」


 僕の言葉に、リンは大きく「うん!」とうなずき、リュックから白黒模様の紙を丁寧ていねいに取り出した。


 僕たちはコーラで浮かび上がってきたあの変な模様をもう一度確認する。


 僕たちが探す変な模様は三種類。変なぐにゃぐにゃした線で書かれていて、時々太くなったり細くなったりしている。三種類とも元々は丸い模様のようで、きれいに半分に切れていた。


「俺っち、スマホでこれっとくわ!」


「じゃあ、紙は私が持ってるから、途中とちゅうで何か見つけたら私かリーくんに声をかけてね! すぐに確認かくにんしに向かうから!」


「「「了解りょうかい!」」」


 僕たちは海原展望公園のあちこちに散らばって変な模様を探す!


 リーくんはすぐそばの木でできたアスレチックの近くを探している。いつもは大人気のアスレチックだけど、今日は暑すぎて誰も遊んでいないみたいだった。そういえば、海原展望公園内にも今日は僕たちの他に、人が少ししかいない。暑い日にわざわざこんな日陰ひかげの少ないところで遊ぶ人はいないのかもしれない。


 こうちゃんは木がたくさん生えている小道に入っていった。その先には海を眺めながら休憩きゅうけいできる小さな展望台てんぼうだいがある。きっとそこを調べにいったんだ。まさやんは公園の真ん中に立っている白くて大きな灯台とうだいの近くを調べている。


 僕は駐車場へ向かう階段近くの水飲み場と、そこから少し歩いた先のトイレの周辺を調べることにした。


「まずはトイレの中かな」


 男子トイレの中は熱気でトイレのにおいがきつくなっていて、僕は簡単に調べてすぐさま外に出た。うへぇ、夏の暑い時にトイレの中はきついや! なんて思って、ふと男子トイレの横を見ると、草にもれて、まあるい金属きんぞくふたのようなものが見える。


「まあるいってだけで探してる模様ではないとは思うけど、一応いちおう確認してみるか!」


 近づいてみると、それはマンホールだとすぐにわかった。道路とかによくあるやつで、大雨が降るとたまに水があふれてくるやつだ。トイレのそばにあるから本当はさわりたくないけど、草と土に埋もれている部分を手ではらうと、何か模様のようなものが見える。


「ん? 何の模様なんだろう?」


 僕は息を止めてトイレの手洗いから水を手で何度かすくい、そのマンホールの上にぶっかけて、なんの模様がえがかれているかわかるようにしてみた。


「これって……もしかして、カニ?」


「ガッくん見つかったぁ? 俺っち暑すぎてもう探すのやになっちゃったぜ!」


「あ、リーくん、いいところにきた! あのさ、スマホ見せてくれない?」


 探すのをあきらめて僕のところに声をかけにきたリーくんのスマホでマンホールに書かれているマークを確認すると、半分に切れた模様になんとなく似ているような気がしなくもない。


「どう思う?」


「や、ガチてるけど、違う気もするし? とりまリンリン呼ぼうぜ!」


 もう動きたくないというリーくんを男子トイレの前に残し、リンを公園内から探して連れてくると、リーくんがスマホでマンホールの蓋の写真を撮っているところだった。


「リーくん、スマホで今撮った写真半分くらいになるように拡大できる?」


余裕よゆうだぜ!」


 リーくんのスマホ画面に半分に映ったマンホールの蓋と、リンが持っている紙を見比みくらべてみると、少し長めのハサミを顔の上にりかざしているカニとやっぱりどことなく似てる気がする。


「お兄ちゃん、きっと、これなんじゃないかな。だって、他にはこんなに似てる模様なんてなかったし……」


「リン、てことは?」


「お兄ちゃん! 変な模様ひとつ目ゲットだね!」


「いえーい!」


——パチーン!


 ハイタッチでリンと手を合わせ、みんなを呼び戻してから僕たちは次の目的地、県立本多図書館けんりつほんだとしょかんに向かうことにした。


 県立本多図書館に行くには、また小山駅行きのバスに乗って、そこから乗り換えて行かなくちゃいけない。


「ガチすぐじゃん! あと三分でバス来ちゃうって!」


 僕たちは急いで階段を駆け下りて、海原展望公園の駐車場にあるバス停に向かった。


 現在時刻は十一時三十分!

 タイムリミットまで約51時間だ!



 





 

 


 


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