第31話
大森林で実際に使用した武器を使ってヤジカさんに品定めの試験を行いました。
私の見立てでは小太刀は問題無し、ですが太刀の方は少しだけ研ぎが必要ですかね。鍋とフライパンは焼き入れが甘かったのか少し変形しています。打ち直すか、このまま使うかという所ですかね。鉄杭も曲がりましたので、打ち直しです。
「・・・・・・・・・・。」
じっとそれらの品々を見定めるヤジカさん。その眼はとても真剣で、自分の作品の違和感を必死で読み取ろうとしているのが感じられます。
「・・・。フライパンはそこが変形している。杭は曲がってるな。焼き入れが甘かったか、フライパンの方は叩いて直すか作り直し、杭はもう一度熱して形が整えられるか試してみる。後は問題ない。」
「ふむ、50点ですね。」
始めて鋼鉄製の仕様品を見定めたとしたら十分合格点です。ですがヤジカさんは悔しそうですね。こういうのはどうやって見るかを知った後は経験ですから仕方ありませんよ。
「半分正解・・・・と言う事か?」
「はい、太刀は刃の部分に微細な欠けが存在します。横から見て分からなければ縦にして刃を見てみてください。」
「・・・・・あぁ、この部分が潰れている。」
「それが欠けです。そしてフライパンですが、一件問題無い様に見えますが平らな板の上に置くと?」
「・・・・・ガタガタしているな。」
「はい、熱で変形して底が歪みました。鍋もフライパンも太刀も、最後の焼き入れが少し甘かった様ですね。小太刀は問題無い事から本当に微細な違いですが。それでもこれほど品質に差が出る事を覚えておいてください。」
「解った。しかし鋼の世界は面白いな。少しの違いがこれだけ品質の違いに結びついている。」
「一生掛かってもまだ足りないと言われる程の世界ですから。頑張ってください。」
と言う事でヤジカさんに装備一式を預けてメンテナンスをして頂きます。しばらく街から出る予定はありませんし、小太刀があれば何とかなりますから。
「そう言えば、また奴が来たぞ。」
「奴とは?」
「あいつだ、私に求婚してきたガリガリの。」
「あぁあの方ですか。」
それはさぞ驚いた事でしょう。ギルドに手回ししてまで嫌がらせをしたのにこれほど立派な工房を作ったのですから。
「それで?どうされました?」
「ススムが教えてくれた魔法が役に立ったよ。」
ヤジカさんの話によると、あの人は手勢を連れて工房に来たそうです。そして、工房の接収とヤジカさんとの婚姻を強引に進めようとしたのだとか。ヤジカさんは魔法でそんな奴等を簡単に撃退。誘拐と恐喝及び財産を不当に得ようとしたとして衛兵に突き出したのだとか。
「たぶんすぐに出てくるだろうがな。」
「しかし大丈夫なのでしょうか?相手は権力を持っているのですよね?」
「2度と関わりたくないと思うように徹底的に“焼いて”やったからな。今頃は必死に頭を掻くして帰っている事だろうさ。」
あぁ、毛根が死滅するまで“焼き”を入れたのですか。えげつない事をしますねぇ・・・・。
「まぁ親が出張って来る事があるだろうが・・・。心配ない、すでにここの領主に鋼鉄の武器を献上している。必死で守ってくれるさ。」
「何せ伝説の金属で出来た武器ですからね。」
「そう言う事だ。」
魔物の脅威にさらされる辺境ですから。強い武器、しかも伝説と呼ばれる金属を生み出す工房は喉から手が出るほど欲しいでしょう。それは死力を尽くして守ってくれるはずです。
「まぁ、献上した時にちょっとした問題があってな。」
「何が在ったのですか?」
「これらの知識を齎したのがススムだとバレた。近々接触してくると思うぞ。」
「それは願っても無い事です。」
私としてはもう少し教育の場を整えたいと思っていました。その為には行政機関に渡りを付けて話をしないといけません。ですがこれほど文明が退化した世界では、行政機関がきちんと動いていない可能性があったのですよね。
そんな中、この街のトップが接触してくるというのは渡りに船です。条件を出されるかもしれませんが、考えている事を実行する為にもとある許可を頂きたい所ですね。
おっとその前にヤジカさんにも許可を貰っておかないと。
「そうそう、ヤジカさん。鍛冶工房の横の開いている土地を使っても構いませんか?後手伝って頂きたいのですが。」
「ん?別に私の物では無いから構わないが、何をするつもりだ?」
「いえ、ベルジュさんのお宅にお世話になってばかりですので、そろそろ自分の家を作ろうかと。」
「あぁ、この工房を作ったススムなら立派な家を作りそうだな。」
鍛冶工房を作っている間も3人でベルジュさんのお宅でお世話になっていましたからね。そろそろプライベートな空間も欲しいですし。いつまでも甘えている訳には行きません。“他の使い道”も考えていますし、しばらくは掛かり切りになりそうですね。
「では、斧を頂きたいです。木材を集めておきたいので。」
「材木屋に頼まなくて良いのか?」
「自分達で用意した物の方が品質は良くなりますから。」
「違いない。」
ヤジカさんの工房の木は材木屋から購入しましたが、建材に向いていない木材が在ったり、切り口がグチャグチャで整えないと行けなかったり、皮を剥いでいなかったりとそれはもう酷かったです。ヤジカさんの魔法で何とかやり直しましたが、余計に手間がかかりました。それならば自分達で用意した方が早いという物です。
「ススム居るか?」
「はい、居ますよ。」
ヤジカさんから斧を受け取っていると後ろから声が掛かりました。どうやらベルジュさん達が戻って来たみたいですね。
「マジクさん、どうですこの街は?」
「・・・・辺境にしてはずいぶんと都会的だと思ったな。魔道国にある学園とそう変わらない。」
となるとどこもこの街と同じ文明水準だという事ですか。魔道国にはある程度文明が残っていると思っていましたが残念です。
「それでススム?斧を持ってどうしたんだ?」
「はい、ヤジカさんとマジクさんに協力してもらって家を作ろうかと。」
「そうなのか、どこに作るんだ?」
「この鍛冶工房の隣ですね。考えている事もありますのでその場所が良いのですよ。」
「・・・・・・私も一緒に住むぞ。」
「なら私も一緒に住もう。」
「はい?」
この2人は何を言っているのでしょうか?ベルジュさんはすでに家を持っています。マジクさんは研究の為に1人になりたいでしょうから暮らしは別にすると思っていたのですが?
「私はまだまだススムから剣術を習いたいのだ!!ならば一緒に住むしかあるまい!!」
「いや、今のご自宅から通えば良いじゃないですか。」
「移動する時間がもったいない!!」
そこまで力説されると確かにと納得してしまいます。ですがマジクさんの方はどうしてでしょう?
「ススムの魔法に対する意見は貴重だ。それに生活の中に魔法を強くする理が隠れている可能性がある。」
「それは確かに。それと一緒に住む理由が繋がっているとは思えませんが・・・。」
「いや、ススムの考え方を間近で感じて理解を深めたい。だから私も一緒に住む事にする。」
こちらも一応理屈は通っています。暮らしの中で教える事で理解度が深まる場合もありますので、無下には出来ません。
「私は隣だからな、いつでも行ける場所に来てくれるのは嬉しいな。」
「何やら渋っている様だがこれから家を作るのだぞ?好きなように作れるのだから何も問題は無かろう?」
「それはその通りですが・・・・・。」
「なら良いではないか。」
確かに問題は無いのですよね。では考えていた設計図を大幅に改良しましょう。その分ヤジカさんとマジクさんの負担が増えますが・・・・。まぁご両人はその意見に賛成の様なので骨を折って貰いましょう。
「では一緒に暮らす家を作りましょうか。」
「うむ!!」
「よろしく頼む。」
「それで?工房を作った時の様に設計図が在るのだろう?」
「今修正中です。その後作り始めますよ。ですからベルジュさんはそれまでに出来る限り木を切って来て下さい。」
「解った。」
ベルジュさんは早速とばかりに斧を持って木を切り倒しに森に入って行きました。すでに彼女には木の切り方を教えていますので問題ありません。
「マジクさんは設計図が出来上がったら私と一緒に建物を建てます。良いですね?」
「家なんて2人で建てられるものなのか?」
「そこはあなたの魔法に期待しています。新しい理をお教えしますよ。」
「おぉ!!では早く設計図を書いてくれ!!」
「ヤジカさんは作業が一段落したらベルジュさんが切って来た木を乾燥させてください。」
「工房を作った時の容量だな。解った。」
さて、後は私が作る設計図次第ですか。ささっと書き上げますよ。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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