第12話
「それで、エーデル様は結婚がご希望でないようですけど、何故なんです?」
「だって、あなた!話を聞かない自己中心的考えのチビデブハゲな男性となんて誰も結婚なんてしたくないでしょう?禿げてしまったのは仕方ないにしても、傲慢と強欲が服を着ているような男よ!お相手のグーデンベルデン卿のご子息のマクシアス様はね、私に『うちなら格式も高く爵位も釣り合うのだから、あなたが行き遅れるよりは嫁いできてくださっても構いませんよ?お父様も、領主様とは仲がよろしいらしいですし、困っているときはお互い様でしょう?』って、言いやがりましたのよ!」
美女の憤怒の表情は、恐ろしい…般若が居る…
「それは…随分な事でしたね…領主様は、お相手の方のその言い草は御存じなのですか?」
「ええ、本当に!…いいえ、知らないわ。あの方、外面と頭の中身だけは最高級によろしいのよ。お父様にも、グーデンベルデン卿にも、本性を見せることは無いと思うわ。私の事は既に、自分の所有物とでも思っているようだけれど…でも、こっそり話を聞いたあの方の家の者たちは、随分憤りを感じている様よ。殴られる蹴られるは見えない所では日常茶飯事の様だし、婚約者を慰み者にされた者もいるとか…それに、私乗馬が好きなの。でも、あの方は従者がいないと乗り降りすら覚束無いのよ?有り得ませんでしょう?乗馬は貴族なら、小さい頃から教えられるものですのよ?有事の際には、民を率いて戦ったり逃げたりしなければならないですからね。そんな方とは遠乗りも出来ませんし、なぁんにも楽しくないと思いませんこと?」
お嬢様のマシンガンが、止まらない止まらない。
「いっそ、お相手の家に皆さんで遊びに行く機会にでも、その不満を持つ方々と協力してすべてを上手く暴露してしまえたら、面白いかもしれませんけどねぇ…」
「それは、楽しそうだけど…そんなことが出来るかしら?」
「まぁ、やり方にもよるのでしょうけど…あとは、領主様にちゃんと、お話しするのがいいと思います。きっと、エーデル様の事は大切に思われていますよ。でなければ、いくら私の先生と知り合いだからと言って、わざわざ娘の一言を聞いたがために私を呼び寄せるなんてしないと思いますし」
「でも、いつも私の話を聞いては下さらないわ。弟のイリスばかりを、御側に置いているもの。どうせ私なんて、丁度いい政策のための道具としか考えてらっしゃらないわ」
この親子は、どこで何があったらこんなに拗れるのか…絡まった糸は、丁寧にほぐさないと切れちゃうのに…どうしようかしら…
「あ、あの…ごめんなさいね。嫌な話ばかり聞かせてしまったわ。折角、遊びに来て下さったのに…あ、衣装の採寸も行うのでしたっけ?急がないと日が暮れてしまいますわね」
「話の件は、お気になさらず。普通、友達なら愚痴くらい聞くものですし。採寸は、どんな形の衣装かによって変わりますから、今日は私の質問に答えてくだされば大丈夫ですよ?」
まぁ、兎に角、今日はエーデル様との親睦を深める事に集中しましょうかね。
「あの、ありがとう。わかりましたわ、何でも正直にお答えします。さぁ!どうぞ」
そんなに意気込まなくても、良いのだけど…照れからのぶり返しが少し可愛い…さ、サクサク行こう。
好きな色は良く晴れた空の色、好きな花は紫掛かった白い薔薇とキキョウ科のカンパニュラに似た薄青紫の野の花、好きな手触りはしっとりとした感じ、当日身につけたいアクセサリーの候補は祖母から受け継いだ濃い海の色のネックレス、好きなお菓子はハーブ入りのクッキーに、最近のお気に入りは乗馬の時に着ける青いリボンのタイ、とりあえず何でもかんでもインスピレーションの為に聞き倒した。
ざっくり暫定で決めたのは、マーメイドラインの薄い色のドレスにすること。生地は、領主の威光を笠に着て、頑張って染めて貰おうと思っている。きっとゲルゲンさんなら良い職人を知っているはず。
少し深めのVラインの胸元に、ドレープをオフショルダーから後ろに回して長い端の大きなリボンをつけて尾びれ背びれに見立てたら、海の色のネックレスをして、さながら世界的に有名な海のお姫様みたいだ。出来る事なら、泡を表現したビジューも付けたいところ。Vラインは責め過ぎか?ご年配の方から批判を受けるだろうか?
彼女にもサムシングフォーのおまじないの話を伝えると、たとえ誰との結婚でいつになっても、友人からの借り物にはリアちゃんにも貸した私のハンカチを貸すことになった。
リアちゃんに貸した時には、白とピンクの花だったから、水色の花もあとで付け足しておこうと思っている。
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