ミーシャの着任

 数週間前。

 シャーロットの執務室に呼ばれたミーシャは、室内式の敬礼をとる。

 

 「本日より着任しました。ミーシャ・ノルマン少尉です。補佐官にご指名いただきありがとうございました」

 「シャーロット・フォン・ルッツ少佐です。よく来てくれましたね。楽にしてください」

 敬礼を解いた。

 「あの……。どうしてオレなんですか?」

 ミーシャが不思議そうに尋ねてみるもシャーロットの反応が薄い。 

 「少佐?」

 「訛りが無いですね」

 シャーロットは目を丸くしている。

 「え? 訛り? ああ、ずっと前からオルニアに住んでいたもので」

 「なるほど。そうなんですね。訛りくらいはあると思っていたんですが……。何歳くらいからこちらに?」

 「確か、十歳よりは前です」

 「大戦前からなんですね」

 「ええ、まあ」

 「あなたを選んだのは、私と似ていると思ったからです」

 「似ているって?」

 ミーシャは冷や汗をかいた。

 まさか、アルベリオの貴族の子息だなどと思われているのではないか、と。

 「清廉潔白で、誠実そう、そしてなにより、旧態依然としていなさそうだからです」

 「はあ……。そう見えますか?」

 「ええ。一際目につきました。名前と所属と顔写真のあるリストがあるんですけどね。そこから選んだんです」

 「なるほど。そういう選び方だったんですね」

 会話が終わると、あたりが静まり返った。

 すると、ミーシャが、目を泳がせる。

 「少佐、一つお願いがあります」

 「何でしょうか」

 「二人でいる時は、普通の言葉で話したいんです」

 「普通の言葉?」

 「はい。友達みたいに。もちろん、仕事は遊びとは思っていませんけど」

 「そんなことを言われても。もしかして、堅苦しいのは苦手ですか?」

 「はい……」

 「そういうことなら、もっと砕けた口調でも結構ですよ」

 「本当ですか? やった!」

 子供のようにはしゃぐミーシャを見て、シャーロットもほくそ笑む。

 「じゃあ、シャーロットって呼んでもいいですか?」

 「それは……」

 「いいですよね? だって、こんなに素敵なお友達になれそうなんですよ? オレ、すごく嬉しいです」

 「わかったから……」


 午後。二人が帰宅した後も運命的な出会いが待っていた。

 「シャーロット?」

 「少尉?」

 「どうしてここに?」

 「どうしてって、あなたの方こそどうしてこんなところに?」

 「引っ越してきたんですよ。ここのアパート」

 シャーロットが豆鉄砲を食らった鳩のように動かなくなると、ミーシャが言った。

 「もしかして、隣の部屋ですか?」

 「……そうみたい」

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