【ずううううっと先のお話】若い母(仮)
書きかけ 加筆、修正予定
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アンナがその村にやって来た当初、まだ若い彼女が赤ん坊を二人抱える様子を見た村の人間は、「ずいぶん若い母親だ」と揶揄したり、あらぬ噂をあれやこれやと立てたりしたものだった。
実際、アンナは「世間の常識」とやらに疎かった。当時の村の女性が当たり前にできるような家事をこなすこともままならず、井戸の水の汲み方さえも知らなかった。おまけに、彼女は内気なのか、女性たちの井戸端会議に混ざるどころか、人目を避けるようにして村の端の小屋に引き篭もり、ひっそりと暮らしていた。
これらの挙動一つ一つのおかげで、村人たちの見解はおおよそ「都会の金持ちの娘が男と駆け落ちして子どもを産んだは良いものの、そいつに捨てられてここに行き着いたのだろう」というものに落ち着いた。それは、平凡で素朴な村では滅多に起こらないような刺激的なものであると同時に、哀れな母親に同情を向けさせるきっかにもなった。
以来、警戒心は強いけれど実のところは温かい村の人間たちは、子どもたちに必要そうな贈り物や、村で採れた野菜や果物などの作物をアンナの家の前に置いていくようになった。
数少ない村の若者で唯一の小学校教師であるハンスも、その一人だった。まだあどけない天使のような可憐さを残していながらも、どこか陰があるアンナを一目見て以来、彼女のことが気がかりで、何か自分に役に立てることはないかとヤキモキしては、彼の裕福な実家が仕入れた上質なパンを置いて行くのだった。その度に、一人で心細いであろう彼女の力になれたらいいなと表面的には思っていながら、心の奥底では、村人とは滅多に口をきかない彼女と何かのまぐれで言葉を交わせたりでもしたらどれだけいいかと望んでいた。
彼は真面目で頭が良かったが、アンナ宛の小慣れた手紙をパンの間に忍ばせておくだけの勇気は無かった。その代わり、扉の前に置いたはずのパンが毎週きっかり消えて無くなっているのを見ては、不思議な達成感と幸福感に包まれたのだった。
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