第12話 もう一回邂逅

 知らない天井がある。


「……」


 知っているともいえる。白い天井は、大抵病院である。


「……」


 なぜ、ここにいるのだろうか。俺は何をやってたのか?


「荷物は――」


 その時だった!


「いててててててててててて!」


 激痛が走った。尻、背中、首の後ろ、……全身だ! コカンも。


「痛い! い、痛い痛い!」

「大丈夫ですか?」


 近くにいた看護師が、やってくる。


「俺、なんでここにいるんです? 痛い……ッ」

「救急車で運ばれてきたんです。だいぶ重症のようで、緊急手術を施しました。当分入院が必要です」

「……入院?」

「ホテルで倒れていたところを、従業員の方が発見されたんですね。誰かに暴行を加えられた可能性があって、今、警察が捜査してます」


 俺は、……つまり、2mに犯されたと。


「あんなとこ、行っちゃダメですよ。お分かりかもしれませんが」


 看護師の言葉に、俺は反論したくなった。「あんたは今、そうやって働いてお金を得て、ご両親と暮らしてるか、あるいは新しい家庭を築いているかもしれない。そういう安全領域にいる人が、何を能天気なこと言ってんだ」と。ただ、そんなこと言ってどうなる。この看護師は実は激務でうつになっている真っ最中かもしれないし、夜には立ちんぼをやってるのかもしれない。あるいはホストか、重度の推し活で資金が底をつきかけているかもしれない。

 知らない人間にものを言うことは、無意味なだけでなく危険がつきまとう。


「はい」


 こう言っておくのが一番良いんだ。


「尿が溜まってますので、交換しますね」


 この病床で倒れ伏していた間、俺は知らずのうちにションベンをしていたらしい。広い意味で寝小便だ。それを美女が回収する、だと? 自分でどうにかするよ! 


「少し脱がしますね」

「……」


 俺は、俺の意思に関係なく脱がされた。看護師が美女だろうがババアだろうが、男だろうがクソジジイだろうが、まったく関係ない。なんでこんな惨めな思い、しなきゃならないんだ。


 俺は、本当に社会に向いてない。


「ちょ、やめて!」


 唐突に、向こう側の布の奥から、性格の悪そうな女の声が飛んだ。


「ごめんなさいね。でも、交換しないわけにはいかないでしょう?」

「自分でやるわよ!」

「無理ですよ。すぐ終わりますから。お願いします」

「ったく、あんたは優しくやってるつもりかもしれないけどねぇ、患者側からしたら、見下されてるとしか思えないのよ! 自分のおしっこくらい自分でなんとかするわ!」

「ですから無理ですって。他の患者様のこともありますので、ご協力をお願いします」

「絶対嫌。このおしっこ袋が破裂したら、怪我だらけの私が這い上がって、痛みに悶えながら床に撒き散らされた自分のを全部飲むわ」

「本当に、協力してください。次の患者様が待っているんです」


 なんだか嫌な予感がして、ここで俺が何か言わなければ一生後悔すると感じた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」


 俺の大声のあと、すべての音が消える。窓の外でスズメが鳴いている以外。


 その沈黙は5秒、いや6秒続いただろうか。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 やっぱりか。

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超絶ブサイク彼女が立ちんぼしてたのを見た彼氏は転生して女の郎になり、別の立ちんぼ女子と仲良くなる 島尾 @shimaoshimao

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