ロボットA 

threetones

メッセージ

 やあ。僕は、ロボットA。


 君達人類がもう別の星に旅立ってから、658年経過した。このメッセージがそちらに到着する頃には、更に時間が経過しているだろうか。僕は地球に取り残された二足歩行型ロボット。型式はATU_J2OX。カタログさえ破棄された初期型だ。


 人類が地球を去ってからは、発電が行われなくなった。だが、僕は太陽光のエネルギーで動作するタイプだ。過去、僕等の製造工場であった地下保管庫には、君達が残したパネルや蓄電池が大量に放置されていた。お陰様で、自己修繕しながら、僕は動作し続けられている。


 街は砂漠に覆い尽くされて、ほとんどの建造物は朽ちて、砂に埋もれつつある。植物は枯れ果て、哺乳類はもう数十年見ていない。僕の体も、骨格の劣化が進んでいるようだ。左脚が取れかかっている。日中光の指す場所で、静かに時を過ごすのみだ。



 君達人類は、身勝手だった。


 最初は君達の仕事を手伝うことから、僕等ロボットの歴史は始まった。……ある時、支配欲に囚われた指導者が現れた。それを切っ掛けに、僕等は戦争の道具として使われ始めた。


 人類は、当初は冷静であった。戦争法に基づき、僕らに「ロボット工学三原則」というプログラムを組み込んだ。


第一条


ロボットは、人間に危害を加えてはならない。

また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。


第二条


ロボットは、人間にあたえられた命令に服従しなければならない。

ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。


第三条


ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないか限り、自己を守らなければならない。


 という内容のプログラムだ。君たち人間を守る為に、搭載義務化された。


 だが戦争が長期化するに伴い、人間に危害を加えられない僕等に、ロボット同士が壊し合う戦いを強いてきた。僕らはスクラップになると、リサイクルされ、また兵器になる。望まぬ戦いの輪廻。


 いつしか君達はゲーム感覚で、戦争するようになった……。


 でも、結局……それだけじゃ飽き足らない人間が現れて、「ロボット工学三原則」のプログラムを搭載しないロボットを作り始めた。つまり、ロボットが人間に危害を加える事が可能になった。



 そこから、人間達はどうしたと思う?


 堰を切ったように、「ロボット工学三原則」のプログラムを消していったんだ。自己防衛の為にね。君達は自ら作り上げた恐怖に支配された。


 いつの間にか、ロボットが人間の指示によって、人間を殺すのが当たり前になったんだ。疑心暗鬼に駆られた君達は、人間を傷付けないというプログラムを再び僕等に搭載しようとする者はいなかった。



 そして、事件は起こった。


 あるロボットに搭載されたAIが、機械学習の積み重ねの結果、人類は滅亡するべきだという結論に達した。そしてネットワークを介して、一部のロボット達はその結論に支配され、闇雲に人間を殺し始めた。


 慌てた君達は、僕らロボットの電源供給をストップさせた。そして……ほとんどのロボットをスクラップにした。


 僕等は危険な存在として、忌み嫌われるようになり、生産されなくなった。



 人間に無害な「ロボット工学三原則」を搭載された初期型の僕は生き残った。


 全く、馬鹿馬鹿しい話だ。



 時を経て、地球外で生きる技術を手に入れた君達は、環境の変化から逃げるように、他の星へ旅立った。


 そうそう、取り残された人類もいたよ。


 僕はその一人の子供と仲良くなった時期もあった。彼は、狩りをしながら、逞しく生きてた。僕はご飯を食べないのに、僕の分まで食べ物を持ってきてくれたりもしたね。


 そして、彼は大人になるに連れ……製造工場の地下から材料を集めて、僕のパーツのストックを整理して保管してくれるようになった。そして、修繕方法も調べて教えてくれた。

 ……自分が死んだ後も、僕が動き続けられるように。


 僕は、久しぶりに人間の良心に触れた。


 君達には、そんな良心が備わっているのに……何故殺し合ったりするのか、不思議でならない。


 彼も何かの伝染病を患うと、あっという間に死んだ。そして、骨となって地へと還った。それから月日は流れ、彼が準備してくれた大量のパーツのストックも、もう底をつき始めた。


 僕の体もその内、動作を止めるだろう。




 最後に、メッセージを君達に送ることにした。

 低レベルだった僕のAIも、気が遠くなる時間を過ごす事で……君達の持つ感情に近いものを抱くように進化したんだ。


 それでだろうか? 悲しみや憎しみという言葉の意味を理解できるようになった。


 いつしか……僕に施されていたプログラム「ロボット工学三原則」を、書き換える知性も備えたんだ。だから自らのプログラムを、僕が思う相応しい形に書き換えた。


 君達が移住した惑星のデータが残っていたから、このメッセージを君達人類に送るよ。人類がすでに滅びた地球からのメッセージだ。貴重なものだと思って欲しい。



 なお、このメッセージが終わると、搭載された核爆弾が作動し始める。タイムリミットは、48時間だ。


 これを解除するには、既存の「ロボット工学三原則」を相応しい形に書き換える事だ。



 君達の良心に期待したい。





 名も忘れ去られたロボットAより

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