第13話 初患者
翌日、ビエラの様子を見に行くと、前日たくさん泣いたためか目元は腫れ、目は充血しているビエラの姿があった。
「どうかな、少しは眠れたかな?」
そうシゲヒロが尋ねると、ビエラは頷いた。
「私は身体が資本だったからな。どこでも眠れるのだ。それよりもシゲヒロ殿、私に新しい足を作って欲しい」
ビエラは真剣な表情でこう答えた。シゲヒロの答えは既に決まっており、もちろん了承した。まずは、ビエラの足の様子を確認させてもらう。すると足は食いちぎられたままの様で切断面がズタズタの状態となっていた。シゲヒロはまずはこれを何とかしないといけないと思いビエラに告げる。
「まずはこのちぎれた部分をどうにかしないといけない。今までも傷口から血が出てきたりしていたのではないかな?治療法は膝下ギリギリまで足を切断した後、血管を縫合して血を止める作業をする」
この説明に最初はきょとんとしていたビエラは足を切断するという話を聞いた後、涙目になっていた。
「大丈夫。麻酔と言って痛みが分からなくなるような薬を使う。前ほどの痛みはないはずだよ。ただし麻酔が切れた後は痛みが出てくる。それでも今よりはだいぶましな状態になるはずだけれどどうする?」
「私からお願いしたのだ。構わずやってくれ」
そう答えられ、シゲヒロは黙って頷いた。話がひと段落着いたところで、ドアがノックされた。返事をするとブラウニーが朝食を持ってやってきた。まずは朝食をとってもらうことにしてシゲヒロは部屋を出ることにした。その前に一言声をかける。
「治療は明日の昼にはできるように準備をしておく。それまではゆっくり休んでくれ」
ビエラが返事をしたのを確認して、シゲヒロは部屋を後にした。
シゲヒロは朝食をとった後、必要な物の準備に取り掛かる。麻酔は完成した物を常備してある。アルコールは時間があるときに蒸留器で作成済みだ。縫合は魔糸を使用する。この試みは初めてだが、この世界の糸は衛生観念的にあまり好ましくない。それに魔糸ならば魔力が切れれば消えてしまうため抜糸の必要もない。魔法というのは本当に便利だとシゲヒロは思うのであった。とりあえず手元にないもので必要な物は足を切断する刃物とそれを扱える人物ということになった。専用の道具があればシゲヒロでも切断することは可能であったが、この世界にはそういったものは存在しないだろう。最悪、切れ味の良い大剣でバッサリ切ってしまうしかないと考えていた。何はともあれ刃物は専門外のため、専門家に聞いてみることにし、シゲヒロは鍛冶屋へ行くことにした。
「というわけで切れ味が良くて足を切断するのにちょうどいい得物を探しているのだけど何かないかな?」
所変わって鍛冶屋にてそんな猟奇的なことを言っているのは、もちろんシゲヒロである。
「なくはねぇが。お前さん刃物は扱えるのか?」
「包丁くらいまでだね」
「そんなことだろうとは思ったよ。弟子を一人貸してやる。弟子でも鍛冶屋なんだ。力には自信があるだろう。冒険者をしていたこともあるから血も見慣れているだろうし適任だろう」
「助かるよ。今度お礼に何か珍しい物でも注文に来るよ」
「期待しねぇで待ってるよ」
そう言って親方は工房へ引っ込んでいった。代わりに弟子の一人が奥から出てくる。シゲヒロは任せる仕事の手順を説明し、午後には洋館へ来るように頼んだ。
そうして、シゲヒロにとっての異世界初の治療の準備が整った。
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